大地に生温い乾いた風が通って行った。根元しか残らない死んだ木が細々と一本。枯葉すら落ちてない地面。カラカラに乾いてあちこちがひび割れ、風のせいで砂埃が少し上がる。
鳥の声どころか、近くにはなんの生き物の気配もない。そこに、一人の少女が手足を投げ出して、うつ伏せに倒れていた。少し遠くには燃える炎。それなのに、少女の周りは寒い。凍てついて死んだ海が、近いからだろうか。
少女の金の髪は長かったり短かったり、不揃いだ。似つかわしくない甲冑は傷だらけで欠けたりしており、ボロボロ。それなのに、淡い光が体の周りを漂っている。
全く動かなかった少女の耳に、ある音が届いた。それは、ジャリっと砂を踏みしめる音。少女の指先がピクリと動き、ゆっくりと顔だけが横に向けられる。僅かに開いた瞳に光はなく、世界の闇と絶望を吸い込んだように霞んでいる。
その目に誰かの足が見えた。相手を見上げる気力もなかった。足首近くまで届く、紺色のコートだか長い布だかを着ているのが分かった。
「ごめ、な……さ」
少女が乾いた唇から、掠れた声を出した。霞んだ瞳から涙が流れて地面に落ち、飲み込まれていく。
「あ、ぁ……っ!」
少女の側に立っていた人物がその様子を見て息を吐き、膝をついた。カランカランと何かが弾み転がる音が、乾いた空気に響いた。
震える白い手で、風前の灯である少女の指先に触れる。すると、彼女の想いが流れ込んできた。
(ごめんね。お父さん、皆、大好きだったのに。ごめんね……私のせいでごめんね……)
懺悔の言葉が渦巻いていた。悲痛な叫びに、かける言葉が出ない。
「……っ!」
汚れた少女の手が包まれ、そして濡れた。どうやら目の前の相手は、泣いているらしい。懺悔しても洗い流せないことをした自分のために、泣いてくれる誰か。それは天使か?神か?少女はまた振り絞って声を出す。
「かみ、さま……ごめん……な、さ」
「……貴女の、最後の望みを聞かせて下さい」
初めて、震える女性の声を聞いた。だが、それに答える気力は、少女にはもう残ってなかった。
(もう壊したくない。壊してしまったけど。あの時間は二度と戻らない。でも)
心の声は、手を握る相手にしっかり伝わった。そして、目を閉じることも無いまま、少女の火は風に消えていった。二人はそのままそこにいたが、やがてポツリポツリと雨が落ち、その特有のにおいが鼻をつく。地面は濡れていった。
雨ふりしきる中、取り残された二人。
――それが世界の終わりだった。