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ラグナロクの翼 -金の乙女は狼と光を紡ぐ-
ラグナロクの翼 -金の乙女は狼と光を紡ぐ-
神代 まゆ
異世界恋愛ロマファン
2025年07月16日
公開日
2.4万字
連載中
かつて、自分が原因で島にとある被害をもたらしたことで、住民から疎まれているレティアーナ。彼女の味方は、酒場を経営している養父ジョアンだけ。 ある日、島に海賊船が着き、彼らは酒場の客としてやってきた。 酒場で働くレティアーナに目をつけ、無礼を働く。自分を庇って殴られそうになるジョアンを目の当たりにした時、絶望から助けてくれたのは、狼のような鋭い目をした一人の客だった。 助けてくれた謎の男が島である情報を探る中、レティアーナと距離が縮まっていく。そして彼はとある提案をした。

序曲 取り残された娘と消える灯火

 大地に生温い乾いた風が通って行った。根元しか残らない死んだ木が細々と一本。枯葉すら落ちてない地面。カラカラに乾いてあちこちがひび割れ、風のせいで砂埃が少し上がる。


 鳥の声どころか、近くにはなんの生き物の気配もない。そこに、一人の少女が手足を投げ出して、うつ伏せに倒れていた。少し遠くには燃える炎。それなのに、少女の周りは寒い。凍てついて死んだ海が、近いからだろうか。


 少女の金の髪は長かったり短かったり、不揃いだ。似つかわしくない甲冑は傷だらけで欠けたりしており、ボロボロ。それなのに、淡い光が体の周りを漂っている。


 全く動かなかった少女の耳に、ある音が届いた。それは、ジャリっと砂を踏みしめる音。少女の指先がピクリと動き、ゆっくりと顔だけが横に向けられる。僅かに開いた瞳に光はなく、世界の闇と絶望を吸い込んだように霞んでいる。


 その目に誰かの足が見えた。相手を見上げる気力もなかった。足首近くまで届く、紺色のコートだか長い布だかを着ているのが分かった。


「ごめ、な……さ」


 少女が乾いた唇から、掠れた声を出した。霞んだ瞳から涙が流れて地面に落ち、飲み込まれていく。


「あ、ぁ……っ!」


 少女の側に立っていた人物がその様子を見て息を吐き、膝をついた。カランカランと何かが弾み転がる音が、乾いた空気に響いた。

震える白い手で、風前の灯である少女の指先に触れる。すると、彼女の想いが流れ込んできた。


(ごめんね。お父さん、皆、大好きだったのに。ごめんね……私のせいでごめんね……)


 懺悔の言葉が渦巻いていた。悲痛な叫びに、かける言葉が出ない。


「……っ!」


 汚れた少女の手が包まれ、そして濡れた。どうやら目の前の相手は、泣いているらしい。懺悔しても洗い流せないことをした自分のために、泣いてくれる誰か。それは天使か?神か?少女はまた振り絞って声を出す。


「かみ、さま……ごめん……な、さ」

「……貴女の、最後の望みを聞かせて下さい」


 初めて、震える女性の声を聞いた。だが、それに答える気力は、少女にはもう残ってなかった。


(もう壊したくない。壊してしまったけど。あの時間は二度と戻らない。でも)


 心の声は、手を握る相手にしっかり伝わった。そして、目を閉じることも無いまま、少女の火は風に消えていった。二人はそのままそこにいたが、やがてポツリポツリと雨が落ち、その特有のにおいが鼻をつく。地面は濡れていった。


 雨ふりしきる中、取り残された二人。


 ――それが世界の終わりだった。


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