目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
元魔王令嬢と勇者一行の珍道中~めでたく勇者に倒されたので世界を旅して回ります!~
元魔王令嬢と勇者一行の珍道中~めでたく勇者に倒されたので世界を旅して回ります!~
風雅ありす
異世界ファンタジー冒険・バトル
2025年07月16日
公開日
1.8万字
連載中
長い旅路の末、ようやく魔王城にたどりついた勇者一行。 ところが、ずっと一緒に旅をしてきた仲間の魔法使いは、なんと〝魔王〟本人であった! 勇者は涙をのみ、仲間であった魔王を倒す。 これは、魔王であった少女が人生をやり直すための旅にでる、ちょっとシュールでユーモアあふれる旅物語。

第一章 旅の目的

第1話 終わりから始まる物語

「魔王……まさか、お前が……」


 金髪碧眼の勇者が、信じられない、という驚愕の顔でわらわを見つめる。


「……そうじゃ。わらわは今までずっと、お主らと一緒に〝魔法使い〟として旅をしてきたが、本当はお主らの倒すべき相手〝魔王〟なのじゃ」


「私たちのことをずっと騙していたの」


 プラチナブロンドの髪を腰まで伸ばした清楚な美少女が、青い瞳をうるませてわらわを見る。その手に握られているのは、聖女だけが持つことを許されるという聖杖エターナルロッド。怪我を治癒するだけでなく、死者すら蘇らせることができる。


「……やはりな。だから俺は、こんな素性の知れないやつをパーティに入れるのは反対だったんだ」


 いや絶対わかってなかったじゃろ。耳の長いエルフくん。


 ……ってか、つい昨晩「この戦いが終わったら結婚しよう」と、熱い眼差しをわらわに向けておったではないか!?


「はっ……とんだ茶番ね。ずっと目指してきた憎き仇が、あたいたちのすぐ傍にいたなんて」


 赤い髪を顎下で切りそろえた獣人娘が、憎しみに歪む顔でわらわを見る。


 ああ……一緒に温泉でチチなし同盟を結んだ時は、あんなに固く手を握り合ったというのに……。


 わらわは覚悟を決め、大きく息を吸い込んだ。


「さあ、勇者よ。どこからでもかかってくるがいい!」


 勇者の目に、光るものがある。


「う、うぉおおおおおおおおおお……っ!!!!!」


 勇者が腰から剣を抜く。暗い魔王城にいても尚、その輝きを失わない、勇者だけが持つことができる光の剣だ。


 戦いの火ぶたが切って落とされた。


 勇者は光の剣を、聖女は聖杖にて回復魔法と光魔法を、獣人娘はしなやかな肉体と俊敏さでナックルを、エルフ男は世界樹の弓を各々手にして戦う。


 わらわは一人、闇の魔法を用いて、これまで共に旅をしてきた仲間彼らを迎え撃った。


 戦いは、三日三晩…………も、続かなかった。いくらわらわが魔族最強の魔力を備えているとはいえ、四対一は分が悪い。


 特に、聖女の使う回復魔法は厄介で、わらわが強力な魔法を使って彼奴らの体力を削っても、すぐに回復されてしまう。


 やがて勝敗は決まった。


 体力も魔力も尽きたわらわは、地に伏して、死を覚悟した。


「くっ……殺すなら殺せっ!」


 仰向けに倒れたわらわに向かって、勇者が光の剣を振りかざす。だが、その目に迷いが見えた。


「だが……っ」


「騙されんじゃねぇ、こいつはあたいたちのことをずっと騙していたんだっ」


 泣きながら叫ぶ獣人娘の言葉に、勇者がぐっと歯を食いしばる。そして、迷いを断ち切るように光の剣を振り下ろした。


 ――――暗転。


 勇者、聖女、獣人女、エルフ男……ああ、楽しかったなぁ……。


 これが死ぬ前に見るという走馬灯だろうか。


 何百年も続く魔族と人間の不毛な戦いを終結するべく、勇者パーティにもぐりこんだものの、すっかり彼らの空気に馴染んでしまった。そのせいか、わらわの腕は落ちてしまったようだ。……いや、迷いがあったのはわらわのほうか。


 魔族と人間は、なぜ戦わねばならぬのか。みなが手を取り合い、笑える日がいつかくるといい。


 それか願わくば、来世は魔王以外に生まれ変わりたい……――――。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?