レナードの領地に到着したソフィアが一番にしたことは、建設中の石橋を見に行くことだった。
巨大な川の流れの途中、ぽっかりと空いた場所に足場が組まれ、そこには新しい石橋の足部分が築かれつつあった。
想像していたよりはるかに大規模な工事に、ソフィアは思わず目を見張った。
「見て! 川に穴が空いてる!」
「川を一部せき止めて、橋脚の基礎を築くんだ。二百年前から変わらない工法だよ」
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領地に着いてから、ソフィアは邸宅の改装に取りかかった。
ただ建て直しただけの新築のレンブリー邸が、自分好みに少しずつ変えていくのは、楽しい作業だった。
レナードは近くの街で資材を買うよう指示しただけで、細かい口出しは一切しなかった。室内装飾には特に興味はないようで、寝室の壁紙が黄色になっても気にしないだろう。
ただ、ソフィアが村の蒸留所を一新したいと言い出したときだけは、嬉々として設計図にまで口を出してきた。
レナードは一日中書斎にこもって書類と向き合うか、外に仕事で出ている。夜遅く帰ることも少なくない。
それでも今は、毎晩ふたりで話す時間を大切にしていた。
良いことも、悪いことも。時には言い合いになり、大量のワインを消費する。といっても大体は、最後はなし崩しにベッドでもつれ合う事になっていた。
それについては、なにも問題はないしソフィアは満足している。
ソフィアは領地に出発する前に、シルクのナイトドレスを大量に買い込んだ。夫に見せたものもあるし、まだ見せていないものもある。
レナードは毎回絶賛したが、本気かどうかは疑わしい。麻袋を着ていても彼は褒めるだろうとソフィアは踏んでいた。
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「レオ、あの石橋には絶対にわたしの名前はつけないでね」
ソフィアは釘を刺すように言った。
「災害の元になった橋に自分の名前を付けられたくないもの」
「どうだろう。別の見方なら、あの石橋が僕達を結びつけてくれたともいえる」
「本気よ」
「孤児院に僕の名前を付けてくれたお礼をまだしてない」
「絶対に」
「分かってる。君の望むとおりにするよ、奥さん」
二人は笑い合い、そっと手を繋いだ。