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第8話 支援要請。

 翌朝。

 俺が朝食を準備し終えて座っていると、レクスが降りてきた。制服姿だ。どうやら今日は高校の通学日のようだ。


「おはよう、レクス」

「兄上、おはよう。ところで」

「ん?」


 席に着いたレクスの前で、俺はお味噌汁などをわけるために立ち上がる。


「昨日はありがとう。ただ、インパクトが強すぎて失念していたんだが、目的はおにぎりだったんだ」

「あ」

「というか……武器性能を試させてもらったが、信じられない威力だった。性能は生産スキルのレベルの上げ方や個人の熟練度で変化する以上、兄上は、デザインだけではなく生産者としても卓越しているんじゃ無いかと俺は思った」

「ほ、褒めすぎだ! た、たまたまその装備がよかっただけ、きっとそう!」


 俺は続いて、焦りつつご飯を置いた。


「……料理はやっていないということか? 本当に?」

「……だから……おにぎりは作れるよ」

「武器は絶対作れると言うことだな?」

「それは、その……」

「頼みがある。素材を集めるから、作って、供給してくれないか?」


 俺は最後にオムレツの皿を置いてから、唇に力を込めた。


「レクス、冷めちゃうから」

「――ああ、いただきます」

「攻略頑張ってるのは分かるけど、高校に行く日くらい、現実のことを考えたらどうだ?」


 俺が窺うように告げると、レクスが溜息をついた。


「高校のリア友もギルメンだ。サブマスをしてもらっている」

「へ?」

「俺がギルマスで、その親友がサブマスだ」


 ギルドマスターとサブマスターがリアルフレンド……仲の良いギルドなのだろうなぁ。


「今日はリアルで、高校の教室で、その友達とグラパラの話をしてくるつもりだ」

「そ、そうか……」

「いつか兄上にも紹介する」

「うん!」


 俺はなんだか嬉しくなって笑顔を浮かべた。するとそんな俺を見て、レクスが言った。


「どうして兄上は、自分ではエクエス・デザイアの商品を着ないんだ? 現実でもアンチノワールの服を着ないしな」

「えっ……その……作るのはいいんだけど、なんか恥ずかしくて」

「そうか。俺にはよく分からない感性だ。だが確かに兄上は、自意識過剰な部分があるな」

「すみません」


 俺は俯いた。レクスは結構はっきりと物を言うタイプだ。


「兄上はちなみに、ギルドは何処に入っているんだ? 有名どころか?」

「ああ、俺はソロだよ。ソロギルド。ギルマス俺で、メンバー俺のみ。ギルド倉庫の利用だけしてる。昔作ったギルドで、メンバーは全員今は他所にいるんだけど、俺のみで一応維持だけしてるんだ」

「ギルドは一人三つまではいる事が出来るだろう? 俺は一つしか入っていないが」

「そうだけど、特にソロで困らな――」


 ――い、と続けようとして、それではぼっちっぷりがバレると焦った。


「あ、ええと、ほ、ほら? そんなに俺は活動してないから、ギルドに入っても活動できないからな!」


 これは上手い言い訳だと俺は思った。


「そうか。別に俺のギルドなら気にしないが」

「気持ちは嬉しいけど、だ、大丈夫! ありがとうな」

「いや、本心だ。もし困ったら声をかけてくれ」

「分かった」


 レクスは良い子だ。

 その後朝食を終えると、レクスは学校に行った。なので俺は、今日は掃除の業者さんが入る日なので、周囲を少し片付けておいた。


 業者さんが片付けてくれる間は、俺はいつもVRに接続しているので、顔は合わせない。ちなみに料理も、このマンションの一階にレストランが入っているので、持ってきてもらうことも可能だったりする。


 さて、ログインした俺は、青空村の小屋で、椅子に座った。

 その時、ポスト機能が手紙の到着を告げる通知音を響かせた。


「?」


 差出人を見れば、【差出人:ルシフェリア】とあった。珍しいなと思いながら開封する。視線操作で文面を読んだ。




 今、セントラル大陸の転送鏡二番目の街を攻略中で、封印を見つけた。

 ただフィールドトラップがあって、瞬殺しないと倒せないが、レベルが高くて固い。

 支援してもらえないか? お前なら一撃で殺れるだろう。

 俺では無理だった。



 支援要請だった。


「ルシフェリアから支援要請って珍しいなぁ」


 そんなに強いのだろうか? わくわくしてしまう。俺は椅子から立ち上がり、装備を倉庫から取り出した。ここにも個人倉庫の窓口がある。全身を銘・鴉羽の装備に変えた。レクスには恥ずかしいから着ないと告げたが、デザイン系のアバターの話であり、普通に武器などは自作品を俺は使っている。


 俺のメインの職業である暗殺者の武器は、短剣だ。だが全部の職を極めたため、なんの職の武器も装備できるし、同時にスキルを放つことも可能だ。念のため回復薬の瓶も忍ばせて、装飾具なども攻撃や守備用途のものを色々身につけた俺は、最後にネックウォーマーを引き上げた。アバターは黒猫である。


 そして小屋から出て、転送鏡で行き先を操作してみると、なるほど、セントラルの噴水街の次が表示されている。攻略中から表示される設定だ。俺はそこに転移した。




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