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えー!弱者男性が天使系天然天才人格者美少女ロリッ娘と体そのものを同居!?しかも思考感情筒抜けっておいおい……どこに出して
えー!弱者男性が天使系天然天才人格者美少女ロリッ娘と体そのものを同居!?しかも思考感情筒抜けっておいおい……どこに出して
異世界ファンタジー冒険・バトル
2025年07月17日
公開日
2.3万字
連載中
絶望の淵から、異世界へ。引きこもり青年が「勇者」に…? 本がつまれた、薄暗い六畳間で、30歳の誕生日を独り迎えたヒサシ。長年引きこもり、人間社会への諦めと自己嫌悪にまみれた彼の日々は、しかし突如として終わりを告げる。 次元の壁が裂け、現れたのは美しき少女、レイア・エインソフィア。彼女はヒサシの魂を、自身の肉体へと勝手に召喚してしまった!?剣と魔法の世界で、レイアの身体を操ることになったヒサシは、まさに普通なら夢にまで見た最強になって異世界での生活を手に入れた……ように見える。 だが、現実は甘くないし、その上ヒサシは筋金入り情けなさ、異世界行くぐらいからニートの方がマシ!それなのにレイアの目的は、世界を脅かす「六大魔王」との戦いに、ヒサシの力を借りることだった。もちろん戦うことなど毛頭ないヒサシと、使命感に燃えるレイア。二人の魂は繋がれ、心の声まで筒抜けという最悪の状況で、そんな状況で「六大魔王」の一角倒錯魔王ヴァルターに襲撃されてしまう。 「自分勝手!」「臆病者!」と互いの本音が剥き出しになり、ビビって異世界でも引きこもろうとするヒサシと、本気で世界を救おうとする戦うレイアの信念が激しく衝突する。 強敵たちも、単純な戦闘力だけでは圧倒できない秘策使い、また、勇者陣営も魔王陣営も一枚岩できないし、第三勢力が現れる始末、ニート生活正当化のために古典的著作に触れてきた経験はついに生かせるのか!?……。二人の運命はどこへ向かうのか? 傷つくことを何よりも恐れる引きこもり青年が、美少女の身体で異世界を救う本物の「勇者」になれるのか? 世界を巻き込んだ全く真逆の凸凹コンビの異世界バトルが今、開幕!

第1話

薄暗い六畳の部屋に、いつも通りの諦めが満ちてい

た。


壁には色褪せたアニメポスター、足元には岩波文庫やちくま学芸文庫が乱雑に積まれている。特に目を引くのは、分厚い『マルクス・エンゲルス全集』と、その隣で埃をかぶる『レーニン全集』だ。


スマホの画面では、今日もネットの誰かが燃え盛っていた。

「はぁ、人間ってマジで下らねえよな。愛だの絆だの、吐き気がする。結局、誰もが自分のことしか考えてねぇし、他の奴は利用するだけ。醜い生き物だ、それは憎悪や羨望さえも美しいあり方をしていない」


ヒサシは独りごちた。今日で30歳。誕生日だというのに、祝ってくれる人は誰もいない。


人生で一度も心から祝われたことがないから、そんなものだと諦めていた。


悲観するよりも、ただひたすらに諦観している毎日。家族とはとっくの昔に縁を切り、部屋に引きこもっていた。「引きこもり」というレッテルは、どうでもよかった。どうせ人間なんて、誰かを型にはめて安心したいだけだ。


人付き合いが苦手で、感情の波が大きい。些細なことで心がぐちゃぐちゃになり、「俺なんて」と自己嫌悪に陥る。しかし、その痛みに耐えきれず、「どうせ俺なんかできっこねぇし」と自分をヘラヘラと正当化して殻に閉じこもる。


「冷笑には何の力もねぇってことくらい、分かってるよ。分かってるんだけど、じゃあどうすりゃいいんだよ? 俺に何ができる? 傷つくのは絶対ヤダね」


そう呟くと、また自分が嫌になる。体も心も、痛いのは何よりも苦手だった。


もう一つ、ヒサシは一年ほど前から、剣と魔法の世界、変な生き物、空に浮かぶ城といったリアルな夢を見ていた。最初は悪夢だと思っていたが、毎晩繰り返されるうちに「またか」と諦めのような気持ちになっていた。そして、それが今、現実になろうとしていた。


部屋の壁が、いきなり光を放ち、ヒビが入ったかと思うと、そのまま真っ二つに裂けた。まぶしい光がヒサシの目を焼く。驚くよりも早く、「ああ、やっぱり来たか」と妙に冷静な自分がいた。光の中から現れたのは、真っ白いローブをまとった、息をのむほど美しい少女。見たことのない華やかな格好で、その瞳には強い決意と、ほんの少しの焦りが浮かんでいる。


「あなた様の魂を、この世界にお招きいたしました!」


少女の声は、まるで頭の中に直接響いてくるように鮮明だった。次の瞬間、ヒサシの身体を、とんでもない魔力の渦が包み込み、意識は急速に遠のいて真っ暗になった。


目が覚めた時、ヒサシは自分がどこにいるのか、一瞬分からなかった。見慣れない石造りの部屋。窓の外には、日本のビル群とは全く違う、巨大な木々や空を飛ぶ奇妙な鳥、遠くに見える立派な城が広がっている。

ヒサシの心の声:「(へえ、マジで来たんだ。一年も夢で見てた通りの景色じゃん。つまんねぇ。)」

驚きはなかった。ただ、夢で見た光景が完全に現実として目の前にあることに、変な居心地の悪さを感じていた。それと、何よりも「あーあ、面倒なことになっちまったな」という、うんざりした気持ちでいっぱいだった。


目の前には、あの白いローブの少女が立っていた。顔は少し青白いし、魔術を使ったせいか、疲れきっているのがわかる。ヒサシの身体はすでに存在しないため、レイアはヒサシの安否について心配することはなかった。


「ようこそ、この世界へ。そして、遥か彼方の異世界よりお越しくださいました勇者様。あなた様の魂を、この世界にお招きできましたこと、心より感謝申し上げます」


レイアは深く頭を下げ、恭しい態度でヒサシに感謝を述べた。しかし、ヒサシの心の声が、彼女の頭の中に直接響く。


ヒサシの心の声:「(おい、この体、俺のじゃねぇのかよ!? しかも、この身体…見た目は少し大人びてるけど、実年齢はまだ幼いんだよな…でも、発育がいいから、つい…って、やべ、自制しないと。)」


レイアは、ヒサシの心の声が自分に響くことに驚きはしなかった。それも計算の内だったからだ。しかし、ヒサシの本音と、表面的な言葉のギャップに戸惑いを覚えた。特に、今聞こえてきた心の声には、彼女の頬がわずかに赤くなるのを感じた。


「あの…あなた様のお心は、わたくしに…お声として響いておられますので…どうか、お慎みください…?」


レイアは少し眉を下げ、たしなめるように言った。内心では、ヒサシの生々しい視線が自分に向けられているようで、ひどく気持ちが悪かった。だが、お互いの心理状態が筒抜けである以上、ヒサシの感情もある程度は仕方がないと理解しており、自分の身体の発育が良いせいで、相手にそんな目を向けさせてしまうことにも、わずかな申し訳なさを感じていた。


表面上は愛想の良い笑みを浮かべてみせる。「ああ、何かおっしゃいましたか? お気のせいではございませんか? そうでございましょう。さようでございますね。ここは一体、どちらの場所でございましょうか?」内心は「(チッ、最悪だ。心の声まで筒抜けかよ! プライバシーの欠片もねぇな、この変態魔法使いめ! まあ、しゃーねーか。)」だかな


ヒサシの愛想の良い言葉と、頭の中に響く毒々しい本音のギャップに、レイアはまたもや戸惑った。だが、すぐに気を取り戻して、真剣な顔で説明を始めた。


「わたくしはレイア・エインソフィア。あなた様の魂を、わたくし自身の肉体に『招き入れました』。この方法は、あなた様をこの世界に召喚するにあたり、以前から織り込み済みの計画でございました。この肉体は、わたくし、レイア・エインソフィアのものです」


レイアの言葉を聞いたヒサシは、愕然とした。レイア・エインソフィア。その名には聞き覚えがあった。


一年間見ていた夢の中で、彼女はたびたび登場する存在だった。たしか、この世界の最も格式高い大貴族、エインソフィア公爵家の令嬢で、類まれなる魔術の才能を持つ、次期当主候補筆頭とされていたはずだ。そんな大層な身分の女の体に、自分が入り込んでしまったのか。


ヒサシは、試しに動こうとしてみた。指を動かせ、と念じる。すると、驚いたことに、レイアの指がピクリと動き、腕が上がった。


ヒサシの心の声:「(は? 動くぞ? 俺の意思で動くのか? ってことは、この体は…俺のものってことか!?)」


レイアの心の声:「(ええ…そうでございます。あなた様がこの肉体の主導権を握っておられます。わたくしの意思では、この肉体を動かすことはできません。)」


レイアは続けた。彼女がこの身体を動かすには、「特定の条件」が満たされないとダメらしい。お互いの意思とか関係なく、その条件が満たされない限り、ヒサシがこの身体を動かすことになるという。


ヒサシの心の声:「(マジかよ…ってことは、俺がこの女の体で生きるってことか? なんだ、思ったより悪くねぇな。むしろ興奮してきた。この美少女の身体が俺の意のままだなんて…!って、また考えてしまった。自制、自制…しかし、仕方ないよな、こんな状況じゃ。)」


レイアの心の声:「(どうか、ご容赦くださいませ…わたくしにはこの方法しかございませんでした…)」

ヒサシは絶望した。他人の体で生きることに気持ち悪さはなかったが、むしろ不自由さを感じた。体や心が傷つくのは何よりも嫌いな自分にとって、こんな風にコントロールできない状況に置かれるのは、本当に耐えられなかった。


レイアは説明した。「六大魔王」の一人がかなり、もうそこまで来ていると。魔王というのは、レイアが今まで到達した通常の魔術師の最高峰をも超える超常存在らしい。レイアは、ヒサシ自身は魔術は使えず、持っているのは異世界人特有の異能と、極端ともいえる異常に高い身体能力だけだと言う。異能というのは、この世界にはない特殊な力のことらしい。


「わたくしが、魔王の能力についてご説明いたします! あなた様の力ならば、きっと!」


だけど、ヒサシは戦う気なんて全然ない。戦闘に関しては素人同然で、戦い方なんて知らない。てか、ケンカなんてしている自分を想像さえできない。


ヒサシの心の声:「(ふざけんな。俺に戦えってか? 冗談じゃねぇ。こんな女の体で、とんでもねぇ。)」


部屋の扉が、まるで内側から強烈な圧力がかかったように、ゆっくりと歪み始める。嫌な音を立てながら、亀裂が走り、漆黒の、まるで底なしの泥濘のような粘液が、その隙間からじわりじわりと滴り落ち始めた。床に落ちた粘液は、生きたように蠢きながら広がり、やがて大きな水溜りのような形を成す。その中心から、ゆっくりと、中性的ながらも耽美な美貌を持つ人型の存在が這い出てきた。全身にはサイケデリックな輝きを放つ鱗がびっしりと覆い、滴る粘液が妖しい光沢を添えている。その異質なまでの美しさは、見る者の心に深く爪痕を残す。


「クク…余の領地で新たな魂の波動を確認したぞ…それが、教導庁が秘匿する『勇者』か…」


魔王の低い声が部屋に響く。ヒサシは、レイアの心を通じて魔王の情報を断片的に受け取りながらも、表面上は愛想の良い表情を崩さない。


ヒサシは「これはこれば、お初にお目にかかります。それでは!」内心の声「(げ、マジで来たのかよ! 絶対関わりたくねぇ!)とこんな感じである。


レイアの心の声が焦燥で震えてる。「(彼が六大魔王の一人、『倒錯魔王』ヴァルターです! 防御や魂の秘術に長けています!)」


ヒサシの心の声:「(え、ひょっとして精神系とか最悪じゃねぇか! やめろ! 帰れ!)」


突然、部屋全体が歪んだかのような錯覚に陥る。ドーム状の結界がレイアたちを覆い、じわりじわりと空間を押し潰すように収縮していく。それは、並の者であればヒビを入れることすら叶わず、その強力な圧力で命を刈り取られてしまうほどの、極めて強固な魔術による結界だった。


ヒサシの心の声:「(うわっ、何だこれ! なんか部屋が潰れてる!? マジかよ、ふざけんな! まずい、息苦しい! )」


レイアの心の声:「(この程度の結界はヴァルターの本気ではございません。おそらく、何か別の狙いがあるはずでございます…!)」


ヒサシはレイアの体を動かし、もがくように、あるいは暴れるようにして、結界に両腕を振り回した。すると、まるで分厚いガラスが砕け散るように、結界はけたたましい音を立てて消滅した。*この結界を物理的に破壊するには、並外れた怪力であり、ヴァルターも相手に最低でも勝負にはなる実力があることは知ることが出来た。


「ホォウ…なるほど、結界術とはいわば本質的には測量術、つまり支配圏確定の魔術ゆえ、破られればこのような印が残る」


ヴァルターは砕けた結界があった場所に残る、奇妙な幾何学模様の光の印を指さした。その口元には、薄っすらと笑みが浮かんでいる。


「いやはや、貴様ほどの御仁に、このようなわたくしごときの稚拙な術が通じるわけはないな。私の負けだ。完全にな、この通り、降参しよう。貴様が望むなら、このヴァルター、如何様にもなろう。さあ、この印をよく見るがいい。私の敗北の証だ」


ヴァルターの言葉に、ヒサシは特に警戒することなく、その印に目を向けた。彼の頭の中は、早くこの場を収拾したいという思いでいっぱいだったからだ。


レイアの心の声:「(まずいっ!)」


レイアは魔術師として達人では最高位だ、通常は結界術は破られても印なんて出来ない、なのに印があるということは、結界を破った相手に特定の条件で裁きを与える呪いをセットにした禁忌式結界術の可能性は即座に思い浮かんだ。


レイアの心の声が、切羽詰まった叫びのようにヒサシの脳裏に響いた。しかし、時すでに遅し。


ヴァルターは指差した印から目を離さないヒサシ(レイアの身体)に、再び甘美な声で囁く。


「その印は、貴様の視覚の一部つまり、感覚、大仰に言えば精神の特定の場所を支配する。一度支配されれば、物理的な力など意味をなさない。そうだろう? 貴様の魂の奥底、その最も深い部分に、私の支配が及ぶのだからな…ククク…」


部屋の空間が、再び歪み始める。今度は物理的な圧迫感ではない。空間そのものが、ねじれ、黒い瘴気を帯びていく。まるで、この世ならざるものたちが蠢く幻覚を見せられているかのように、おぞましくも幻想的な裁きの結界が展開される。ヒサシの目の前には、おどろおどろしい幻影がちらつき、耳には、狂気的な囁きが響き渡る。


ヒサシの心の声:「(うわっ、なんだこれ! 気色悪っ! こっち見んな! )」


ヒサシは咄嗟にレイアの身体を動かした。考えるよりも早く、彼の異能と極端に高い身体能力が発動する。その結界に叩き潰すような動作をした瞬間、空間の歪みも、黒い瘴気も、おぞましい幻影も、すべてが掻き消えた。まるで何事もなかったかのように、部屋には元の静寂が戻った。その速度は、ヴァルターさえも一瞬目を見張るほどだった。


ヴァルターは目を見開いた。


「バ…馬鹿な!? 貴様は魔術を扱えないはず…なぜ、魔術でしか突破できないこの裁きの結界を…!?」


ヴァルターの顔から妖艶な笑みが消え、露骨な驚愕と苛立ちの色が浮かんだ。魂や精神に直接作用する魔術は、強力なぶん、一歩間違えれば術者自身にも甚大な反動が来る。彼が放った結界がヒサシの異能によって消し飛ばされた反動が、ヴァルターの身体を襲う。


「ぐっ…!」


ヴァルターは苦しそうに呻き、その美しい顔を歪ませた。サイケデリックな鱗の隙間から、黒い血が滲み出す。


「ホォウ…やるではないか。だが、付け焼き刃でどこまで持つかな?」


ヴァルターは次の攻撃に移る。次の瞬間、ヴァルターの肉体が、おぞましく歪み始めた。全身を覆うサイケデリックな鱗が波打ち、筋肉が肥大し、骨が軋む音が聞こえてくる。しなやかだった体躯は、見る見るうちに膨張し、鋭利な爪が生え、背中からは漆黒の翼が突き破るように伸びた。顔は爬虫類めいた面影を強く帯び、口からは涎が滴り落ちる。中性的な美しさは影を潜め、そこに現れたのは、悍ましくも力強い、大柄な竜人の姿だった。


「これは…っ! 『吊るされた男』の秘儀…!?」


レイアの心の声は、驚愕と困惑に満ちていた。


「(ヴァルターが、まさか、その禁忌に触れるとは…! 『吊るされた男』の秘儀は、本来、術者の魂、精神、そして肉体その全てを捧げることで、世界を反転させ、自分本意の価値観を捨て去り、隠された真理を掴み、人々を救うための比類なき絶大な力を一時的に得る自己生贄の魔術のはず…! まさか、彼が魂と精神を犠牲にせず、肉体だけを贄とし、その対価を偽りの『信仰』で支払い、挙げ句の果てにはその力を人を殺すための力に変える魔術を編み出したとでもいうのでしょうか…!? そのような、本来ならば不可能な自己本位な術を異世界人である彼だからこそ成功させた…! 凄まじい魔術の技量…ですが、それは魔術に対する冒涜…! )」


ヴァルターが悍ましくもある種の魅惑的な竜人の姿で咆哮する。 


「せいぜい楽しませてくれるな、勇者よ! そもそも、信仰など無意味だ。魔術とは、力でありそれが、真理だ。信じるか信じないかなど、浅はかな児戯に過ぎん! そして、この私に自ら召喚された魂すら制御できぬ貴様と、自ら肉体を生贄しそして完全に制御する術を編み出した私では、魔術師として、いや、存在としての格がまるで違う。ああ、何とも惨めで愚かなことか。お母さまはいつも仰っていたものだ、愚かで、あまつさえそれに気づくことさえできぬ、未熟な者はなにかにつけ本質を見失う、と。」


「この、冒涜者め…! 貴様のような外道に、魔術師を名乗る資格などない! 」


「別に貴様から資格を叙任されようとは思わんよ、レイア嬢……貴様の配下ではないのでねェ」


ヴァルターはレイアの心の声に一切意にも介さず、ヒサシ(レイアの身体)へ向かって巨大な鉤爪を構えた。 


「その肢体、なかなか見事ではないか。特に、この胸の膨らみ…ふふ、良い肉付きだ。かなり趣味でもったいないが、勇者よ…その薄っぺらい命、ここで終わらせてやろう! 貴様の苦痛に歪む顔と肉の食い込む感触をこの記憶に焼き付けてやる。感謝しろ、ククク…!」


ヴァルターのねっとりとした視線が、ヒサシが支配するレイアの身体の胸元に張り付く。ヒサシは他人の身体であるレイアの身体が性的な対象として見られても、特に何も感じなかった。彼は他人の身体のことはどうでもよかった。しかし、レイアの心からは嫌悪と怒りが噴き出していた。


ヒサシの心の声:「(やめろ! 近寄るな! 殺すな! 逃げたい! いますぐ、ここから逃げたい!)」


ヒサシはレイアの身体を文字通りスペックのごり押しで動かし、ヴァルターに肉薄した。ヒサシは魔術は使えない。だから、拳と蹴りの嵐を叩き込む。というよりも、ただ手足を振り回しているだけに近い。そかしそれでもなお、ヴァルターの鱗を切り裂いていく。レイアの心の声が驚愕に満ちていた。「(わたくしの身体が…ここまで動くなど…!)」


ヒサシは、攻撃が当たるたびに、ヴァルターの鱗から火花が散るのを感じた。その振動が、レイアの身体を通して、ヒサシの魂にまで響く。


ヒサシの心の声:「(うわっ! 拳が痛てえ! クソ硬ぇ! 当たり前だが、六大魔王って脅威じゃねぇか!)」


格闘戦で相手と自分にダメージを負わせることに肉体的にはもちろん、精神的な苦痛を感じるヒサシにとって、この状況は最悪だった。殴れば殴るほど、ヴァルターの鱗を砕くたびに、レイアの身体にも負荷がかかるし、それはヒサシ自身の身体としての痛みそして、罪悪感という痛みとして返ってくる。


 彼は痛みを何よりも恐れているから、どんどん嫌になっていく。


それでもヒサシは、ヴァルターを追い詰めていく。ヴァルターの豊富な戦闘経験をもってしても、ヒサシの規格外の速度とパワーの前には、培ってきた格闘技術がまるで通用しない。ヴァルターは追い詰められ、焦燥の表情を浮かべた。


「貴様ぁ…!」


その時、ヴァルターの全身から黒い瘴気が噴き出した。それは、物理的な攻撃じゃなかった。ヴァルターは、目の前の「勇者」が精神的に動揺する瞬間を捉えようと、普遍的な人間の弱点に語りかける呪詛を練り込んだ言葉を放つ。ヒサシの心に、これまで彼が抱いてきた人間不信、孤独、そして自己嫌悪の見て見ぬふりをしてきた感情が、まるで拡大されたかのように、ヴァルターの言葉、そして瘴気によって増幅されていく。


ヒサシの心の声:「(う、うわあああああああああ! やめろ! 見るな! 俺を見るな! そうだ、俺はクズだ、 俺は、俺はこんなところで…こんな痛みなんて…)」


ヒサシの心が、瞬く間に折れた。身体はまだ動くけど、戦う気力は完全に失せてた。肉体的な痛みと、精神的な圧迫が合わさって、ヒサシは意識の淵に沈みかける。レイアの身体には、ヴァルターの攻撃によって軽微な傷が刻まれていた。頬に一本の線が走り、腕のローブが破れて出血している。


ヴァルターは、ヒサシが精神的に動揺している隙を見逃さなかった。巨大な鉤爪が、ヒサシ(レイアの身体)目掛けて振り下ろされる。だが、その鉤爪がヒサシに届く寸前、ヴァルターの巨大な肉体動きが突然止まり、そして干からびたような灰色の塵となって崩れ落ち、跡形もなく消え去った。


「くくく…これで終わりか。 殺せれば御の字だっだのだがな…まあ、所詮、肉体だけの犠牲で得た力はこんなものか… 。」


ヴァルターの声が遠ざかると、部屋には静寂が戻った。その場に残されたのは、虚ろな表情のレイアの身体だけだった。


ヴァルターが消え去った後も、ヒサシの呼吸は荒かった。荒れ狂う嵐のような精神のざわめきが、彼自身のコントロールを奪っていく。レイアの傷ついた身体を前に、抑えきれない激しい怒りが、言葉にならずに心の奥底から噴き出した。


ヒサシの心の声:「(ふざけんなよ! なんだよこれ! なんで俺がこんな目に遭うんだよ! 全部お前のせいだろ! クソが! この痛み、全部お前のせいだ!)」


ヒサシの心の声が、レイアの脳内に嵐のように吹き荒れる。レイアは、ヒサシからの怒りと非難の心の声に、罪悪感を感じていた。彼女はヒサシの心に、彼がどれほど痛みを恐れ、傷つくことを嫌っているかを感じ取っていた。しかし、同時に、彼女自身の譲れない信念もまた、ヒサシの心へと流れ込んでいた。まだ幼さが残る、か細い芯のような信念が。


レイアの心の声:「(申し訳ありません…ですが、この世界の民を救うには、あなた様のお力が必要なのです! わたくしは…わたくしは、目の前で苦しむ人々を見過ごすことなどできません! まだ、誰かの痛みに目を背けるには、わたくしは幼すぎます…!)」


ヒサシの心の声:「(はっ、正義だと? 笑わせんな。そんなもん、お前みたいなめでたい奴が、さもしい自己満足に浸るための飾り物に過ぎねぇんだよ。現実見ろよ、レイア。人間は弱い奴を食い物にし、互いを利用し合って生きてる。それが真実だ。お前の言う『正義』なんて、所詮は耳触りの良い虚飾に過ぎねぇってことくらい、子供でも分かる話だろ。それを振りかざして、よりにもよってこの世界に得もゆかりもない俺を危険に晒すとは、随分と度胸あんな。所詮、お前みたいな支配者階級の人間は、自分たちの都合のいい「正義」を振りかざして、この腐った権力構造を維持したいだけなんだろ?)」


レイアの心の声は、ヒサシの痛烈な言葉に強く反発した。彼女はヒサシの諦念や痛みを理解しつつも、その言葉の刃が自身の信念の核を突き刺すことに耐えられなかった。その若く未熟な心には、あまりにも重すぎる現実だった。


レイアの心の声:「(独善だと!? わたくしが、支配者階級だから、とそれを決めつけるのですか!? わたくしは…わたくしは、ただ皆が平和に暮らせる世界を望んでいるだけです! それが、そんなにもいけないことなのですか!? 貴方様は、ご自身の傷つきたくないという感情ばかりを優先し、この世界の危機から目を背けるのですか!? 逃げるだけの、無様な臆病者ではありませんか!)」


ヒサシの心の声:「(ああ、そうだとも! 俺の感情が最も優先されるべきだ。なんで、俺が思い入れもない知らない世界の顔も名前も知らない赤の他人のために身を粉にしなきゃなんねぇんだ? ならば!それこそが、この世の欺瞞であり、身勝手さの根源だ。お前の言う『平和』とやらが、この俺にとって何の価値があるんだよ? 無意味だ! なにもかも全てが無意味なんだ!)」


レイアの心の声:「(では、あなた様は、このまま何もしないで、全てが滅びるのを傍観しろと仰るのですか!? 貴方様は…貴方様は、この世界を救うために召喚されたのですよ! それなのに、その力を使おうとしないばかりか、自分だけが傷つくことを恐れて逃げ出すなど…! 本当に、貴方様のような方が「勇者」なのでしょうか!? 恥を知りなさい! わたくしはまだ、そういった『大人の事情』など、知りはしないのですから!)」


ヒサシの心の声:「(ふざけるな! 恥だと!? 誰が誰に言ってんだ! 呼び出したのはそっちだろが! 俺の人生を勝手に巻き込んで、あげく「救世主になれ」だと? 笑わせんな! 俺には俺の人生があるんだよ! お前らの都合で、俺の痛みを無視していいわけねぇだろ! 俺は、誰かの犠牲になるために生きてるわけじゃない! お前みたいな偽善者のために、俺の命を差し出す道理がどこにある!? でも、そんなにも他人のために、自分の大切な精神と身体を、見ず知らずの異世界人に明け渡す覚悟があるお前は、確かに「勇者」に相応しい人間なんだろうな!)」


というある種の皮肉な思いが頭をよぎった


レイアの心の声:「(偽善者…!? 貴方様は、自分が傷つくことだけを考えて、他者の苦しみに目を向けようともしない! それこそが、傲慢ではありませんか!? 貴方様には、この痛みを止める力があるのに…! その力を、ただ無駄にしているだけではないですか! わたくしには、この幼い身では、どうすることもできないというのに…!)」


ヒサシの心の声:「(無駄だと? 俺にとっては、傷つかないことこそが、何よりも優先されるべき「価値」なんだよ! お前らの「正義」とか「平和」とかいう欺瞞のために、俺がその価値を捨てる義理はねぇ! 大体、お前だって、本当に他人を救いたいなら、もっと別の方法があったはずだ! この俺を勝手に巻き込むなど、お前自身の無能の証拠だろが! 無能のくせに、俺を責めるな!)」


レイアの心の声:「(無能…!? わたくしは…わたくしは、この世界のために…! 貴方様こそ、その素晴らしい力を、ただご自身の臆病さのために封じ込めているだけではないですか! 貴方様のその力は、この世界を救えるのです! それを理解して、なぜ動こうとしないのですか!?)」


ヒサシの心の声:「(うるせぇ! 分かってるよ、そんなこと! でも、どうせ俺なんかにできるわけがねぇ! 期待すんな! 俺は、お前らが思ってるような「英雄」なんかじゃねぇ! ただの、どうしようもない人間なんだ! それを認めろよ!)」


レイアの心の声:「(それでも…それでも、わたくしは諦めません! あなた様がどれだけご自身を否定しても、わたくしはあなた様の力を信じます! あなた様がどれだけ逃げようとしても、わたくしは諦めずに…! わたくしは、まだ諦め方を知らないのですから…! )」

しかし、そんな風に強く言い放ちながらも、レイアの心は深い自己嫌悪で満たされていた。無関係な異世界人を巻き込み、自分の力ではどうすることもできない状況で、彼を戦わせている自分が、情けなくて、惨めだった。


ヒサシの心の声:「(やめろ! もうたくさんだ! その偽善的な言葉で、俺を雁字搦めにしようとすんな! 勝手に期待して、勝手に失望するお前らなんかに、俺の気持ちが分かるわけねぇだろ! 俺は、もう誰にも期待されたくないんだ!)」


レイアの心の声:「(なぜ…なぜそこまでご自身を貶めるのですか!? あなた様は…!)」


ヒサシの心の声:「(放っといてくれ! これ以上、俺を追い詰めるな! お前と話してると、俺はただ…ただ、自分が惨めになるだけなんだ! お前は、見ず知らずの他人のために、自分の身体を見ず知らず他人に明け渡すような、本物の「勇者」だよ。俺なんかが、小難しい本を読んで悦に浸ってるだけで、何もしない痛々しいクズだってことを、お前はまざまざと俺に突きつけるんだ! 俺は、お前を見てると、自分の卑しさが嫌になるんだよ!)」


レイアの心の声:「(わたくしも…! わたくしだって、あなた様がどれほど傷つくことを恐れているか、痛いほど分かります…! ただ、たまたま悪意が薄く、この肉体に適合した魂というだけで、なんの関係もないわたくしたちを救う義理もない、あなた様の意思とは無関係に、こんな戦いに引きずり出してしまった。それが、情けなくて、申し訳なくて…! まだ、この小さな身体で、あなた様をお守りすることさえできず…!)」


二人の魂は繋がっている。お互いの心の奥底が、剥き出しのまま相手に晒されている。レイアはヒサシの深い絶望と自己嫌悪を、ヒサシはレイアの純粋すぎるほどの使命感と、そこから生まれる苛立ちを痛いほどに感じ取っていた。理解し合えるはずの距離にいるのに、その心はまるで、互いに背を向け、遠ざかっていく砂漠の旅人のようだった。それぞれの痛みが、それぞれの信念が、互いを深く傷つけ、引き裂いていく。心の表面は激しく衝突する言葉で満たされていても、その奥底では、互いの傷つきやすさが痛いほどに響き合い、しかし、どうすることもできない、深い悲哀だけが残された。


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