ともあれ、お互いなんか、まあ冷静になるしかないのでもう無理にでも冷静に、お互い罵倒しあいたいわけではないので。しばらく変な感じが続いていたが、とりあえずレイアの記憶となんかお願い?的なあれで、なんかお偉方と謁見しないといけないらしいのでめちゃくちゃイヤだが見知らぬ異世界生活、行く宛もないと引きことることも出来ないので、とりあえず移動することにする。徒歩で。
ヒサシはなんか現実逃避を兼ねて、変な考えが浮かぶ。異世界ライフどころか人生初ケンカ済ませたので男性ホルモン?いや身体は少女か?とにかくまあ、いかがわしい欲はなんか湧き出てくるってこと。
まさかの美少女の体に異世界転生して、心が筒抜けになるなんて、誰が想像したよ。しかも、この身体、見た目はちょっぴり大人びてるとはいえ、記憶みた感じ、実年齢はまだ小学生高学年ぐらいなんだよな……。そのくせ、背は異様に高いし、全体的な発育はすこぶるいい。なのに胸は慎ましやかっていう、なんかこう、読者ターゲットが迷子になったような設定はどうなってんだマジで。
唯一の救いは、無駄に脚が綺麗なことくらいか。それ以外、なんかこう……世間一般の美少女テンプレから、ことごとく外れてねぇか?冷静に分析してみると、「背が高くて発育が良い小学生高学年で、胸は小さいけど脚が綺麗」って、特定のフェチを持つ層にしか刺さらねぇだろ。むしろ、これ以外全部、人気無さそうな属性のデパートじゃねぇか。神様、俺を転生させるなら、もうちょいこう、商業的に成功するボディにしてくれねぇかな?俺はいたってノーマルな男なんだよ!ロリコンじゃない!絶対違う!いや、でも、目の前にはこれ、完璧なロリボディなのに、そこにアンバランスなまでの膨らみが……。
「(おいおい、待て待て待て!これ、マジでこれが俺の本当の思考か!?なんかあえて童貞ですから、とか三次元まあ惨事だね、とかドヤってたのバカみてーだな。ってか、レイアに丸聞こえじゃねぇか!)」
脳内で警鐘が鳴り響く。しかし、もう遅い。レイアのやつ、頬を真っ赤にしてモジモジしてるし、きっと俺の心の声が筒抜けになってるんだろうな。
「あ、あの…あなた様のお心は、わたくしに…お声として響いておられますので…どうか、お慎みください…?」
ほら見ろ!やめてくれ、俺のプライベートな思考が駄々洩れじゃねぇか!ていうか、こんな状況でどうやって「お慎み」しろっていうんだよ!これ、思春期の男子中学生がエロ本見つけた時の葛藤が、そのまま世界中にブロードキャストされてるようなもんだぞ!最悪すぎる!
しかも、俺にこの体で魔王と戦えって言うんだろ?冗談じゃねぇ!こんな女の体で、しかもこんな発育良すぎなロリボディで、どうやって真面目に戦えってんだよ!敵の魔王だって、俺の心の中の下劣な叫びを聞いたら、きっと呆れて帰るか、あるいは妙な性癖に目覚めるかどっちかだろ!頼むから、もう少し、もう少しだけ俺の精神衛生を考えてくれねぇかな!?
(やべぇ、レイア、なんか本気でカチンときてねぇか?心の中のトゲトゲしい感情が、ダイレクトに伝わってくる……。くそ勝手に呼び足してそれはねーだろがよ!まあ、そう思ってるものは仕方がない!どうする、どうする、この地獄みたいな状況を乗り切るには……!)
ヒサシの頭脳がフル回転する。こういう時、女の機嫌を直すにはどうしたらいい?そういえば、昔、下世話な恋愛指南サイトで見た覚えがあるぞ。「女性は共感と承認欲求の塊!」「まずは相手の気持ちに寄り添え!」「そして、褒め殺せ!」
(よし、これだ!普段は絶対言わねぇような、ありったけの言葉を並べればいいんだろ!?)
「(あ、あのさレイア、ごめん。なんか変なこと考えてた。でも、その、なんていうか……スタイルがいいというか、脚が長くてすらっとしてて、モデルさんみたいだよな!きっと、この世界のファッションリーダーとかになれるって!あと、その、なんだ、意外と胸が控えめなのも、逆に神秘的で、なんていうか、こう、「守ってあげたい」っていう庇護欲を掻き立てるっていうか……!あ、いや、もちろん、内面もすごく純粋でまっすぐで、そこが一番素晴らしいんだけどさ!うん!)」
レイアの心に、ヒサシの必死すぎる心の声が響き渡る。その言葉は、まるで泥にまみれた宝石を無理やり磨いているような不器用さで、彼女の耳に届いた。彼女はヒサシの言葉のチョイスに、ドン引きを通り越して、もはや「この人、本当に何考えてるんだろう」という純粋な疑問と、そして「こんな状況でも、つまりかなり身勝手なわたくしにも一応気を使ってくれてる…?」という、理解不能な配慮を感じ取っていた。
(……この人、私の機嫌を直そうとしてる……のか?なぜか、ものすごく不快な気持ちと、同時に少しだけ、居た堪れない気持ちになる……。私のことを褒めようとして、なぜこんなにも下品な言葉が選ばれるのだろう……。でも、悪意がないのは感じるから、余計に困る……。)
レイアの心は、怒りを通り越して、もはや脱力感に苛まれていた。ヒサシの言葉は、まるで小学生が初めて覚えた汚い言葉を、意味も分からず連発しているかのような、ある種の純粋ささえ感じさせた。その場に流れる、なんとも言えない気まずい沈黙。ヒサシは、自分の放った言葉がどれほど地滑り的に失敗したかを悟り、いたたまれなさで顔を伏せた。
(待てよ、俺……今、自分は何を言って、何を言われたんだ……?いや、待てよ。落ち着いて考えろ、ヒサシ。……あれ?冷静に考えてみたら、俺って貧乳けっこう好きじゃん?むしろ、背が高くて線の細いスラッとした体型って、ドストライクじゃねぇか?それに、脚が綺麗なのは大好物だし、フツーにロリも好きだし……あれ?これって、もしかして、レイアって俺にとって、まさかの理想のヒロインなんじゃね!?)
ヒサシの脳内に、これまでの人生で培ってきたオナニーネタの歴史が走馬灯のように駆け巡る。今まで見てきたあらゆる二次元のキャラクターや、脳内で想像してきた理想の女性像が、ことごとくレイアの身体的特徴と符号していく。
(……やべぇ、マジで興奮してきた……!これ、今、俺の中のリビドーが天井を突き破って、そのままレイアの脳みそに直撃してるんじゃねぇか!?)
レイアの心に、ヒサシのほとばしるような性的な昂ぶりがダイレクトに伝わる。彼女は困惑しながらも、心の中で冷静に分析しようとする。
(……え?この方、まさか、私を性的に昂らせている……?え、ええと、たしか、召喚の際に、犯罪的傾向の高い魂はフィルタリングしてあるはずでは……?こんなにストレートに性欲をぶつけてくる魂は、想定外……。いや、でも、悪意は、ない……?これは、その、新しいタイプの勇者、ということなのだろうか……?)
困惑し、眉をひそめるレイアの心を感じ取り、ヒサシは内心で慌てふためいた。
(ち、違う!これは違う!俺はちゃんとした人間なんだ!リアルの女性には絶対に手を出さないって決めてるし!なぜなら、俺は理性で行動する大人だし、法を遵守する善良な市民だし、女性の尊厳を重んじる紳士だからだ!そう、決して童貞だからとか、リアルで女と話したこともないからとか、そんな浅ましい理由じゃない!決して!!)
しかし、レイアの心には、そんなヒサシの必死の言い訳が、あまりにも浅い動機でしかないことが、当たり前のように伝わっていた。
(……「童貞丸出し」……?この方、自分で自分のことを、そこまで露呈させていると、自覚しているのだろうか……?)
レイアの心の声が、ヒサシの心に突き刺さる。その瞬間、ヒサシは全身の血が逆流するような感覚に陥った。
(は、ははは……やべぇ、俺、めちゃくちゃ恥ずかしいヤツじゃん……!何、今、カッコいいこと言ってるフリしてんだよ、俺!ただの童貞丸出しのクソ野郎じゃねぇか!それを、よりにもよって、一回り…いや下手したらふた回り?も年下の美少女に全部筒抜けにされてるって、これ、罰ゲームかよ!?これから先、この美少女に、俺の恥ずかしい精神性を晒し続ける人生なのか……?いやだあああああああああ!!)
その服装、どうなってんの?
(しかし、それにしてもだよ……。このレイアの格好、露出度高すぎじゃねぇか?肩も腕も脚も丸出しだし、胸元も結構開いてるし……なんだこれ?スゲーやばい売れたくて必死なコスプレイヤーみてぇな格好だな。これがこの世界の正装なのか?それとも、レイアの趣味?いや、よく知らんけど教導庁?ていうなんかこの世界を仕切ってる、偉いの偉いお姫様?みたいらしいし、まさか趣味ってことはねぇよな。でも、こんな格好でよく平気でいられるな。もしかして、脱いでるからこそ、むしろ落ち着いていられるとか?俺が記憶してる小学校時代の女子とか、たまに街ですれ違う女子小学生は、もっとこう、フツーに服着てたぞ……。)
ヒサシがぼんやりとそんなことを考えていると、レイアの心から若干のドヤ顔が伝わってきた。
「(これは、魔術師の正統な衣装ですから!)」
(へぇ、そうなのか……。まあ、俺は別に、他所の文化を否定したりはしないけど……。)
ヒサシは、そんなことを考えていたが、ふと、レイアと自分の同級生女子を比べてしまう。
(それにしても、レイアに比べたら、俺の同級生、みんなブスだったな〜。いや、もちろん、みんな可愛かったし、いい子もいたんだけどさ、こう、「美少女」ってレベルじゃなかったっていうか。いやでもやっぱりクラスの女子どもブスだったかも……てかフツーに覚えてない。はぁ、なんかいろいろ感慨深いぜ……。)
ヒサシが遠い目をして、遠い昔の記憶に浸っていると、レイアの心から、なぜかヒサシの同級生女子を擁護するかのような声が響いてきた。
「(女の子は見た目じゃありません!内面が大切なのです!)」
(いや、そりゃそうなんだけどさ……。でもよ、俺の同級生の女子、フツーに性格最悪な奴もいたぞ?俺の弁当の唐揚げ勝手に食ったやつとか、俺のテストの点数馬鹿にしてきたやつとか、俺の消しゴム隠したやつとか……。)
ヒサシの心には、具体的なエピソードがいくつも浮かんできた。しかし、レイアの心は、なぜかその「性格最悪エピソード」を謎のフォローで打ち消そうとしていた。
「(それは、きっと、あなた様のことが好きだったからに違いありません!男の子にちょっかいを出すのは、愛情の裏返しなのです!きっと、あなた様と仲良くなりたかったのに、不器用だっただけなのです!)」
(はぁ!?冗談だろ!?)ヒサシは心の底から叫んだ。
レイア、お前、人間出来すぎだろ…怖ぇよ
(いや、レイア。お前、マジでいい子すぎだろ……。どんだけピュアなんだよ。俺の同級生女子のあの陰湿なイジメが、まさか「好きの裏返し」だって?無理があるだろ。お前、人間出来すぎてて、逆に怖いわ。マジで怖ぇよ。お前みたいな、他人の悪意すら善意に変換しようとする聖人、現実世界にいたら、絶対真っ先に食い物にされるタイプだぞ……。)
ヒサシはレイアの「善意フィルター」の厚さに、戦慄を覚える。普通の人間なら、もっとこう、斜に構えたり、裏を読んだりするもんだろ。お前はなんでそんなに真っ直ぐなんだよ。
(よく「男子と女子は小学生の頃の精神年齢が違う」とか言うけど、マジでその通りだよな。俺なんて、小学校の頃、何考えてたか、ぶっちゃけマジのガチで全然なんも思い出せねぇ。なんか、ボーッとしてた記憶しかねぇんだけど……俺、あの頃、意識とか存在してたっけ?まさか、哲学的ゾンビだったんじゃねぇのか、俺……?)
突然、ヒサシの頭の中に「哲学的ゾンビ」という単語が浮かび上がる。
(ああ〜!懐かしいな、哲学的ゾンビ!あと、意識のハードプロブレムとか、クオリアとか!昔、分析哲学に一時期ハマったんだよなぁ、俺。なんか、やたらと小難しい専門書とか読み漁って、「俺、深淵を覗いてるぜ…」みたいな顔してた時期があったわ。黒歴史……ていうか、もはや、逆にそれをなんか逆に黒歴史だぜぇ!って謎に誇ってるぐらいワケわからん感じの黒歴史だな)
ヒサシは心の中でヘラヘラと笑い、自嘲した。
(でも、正直今、何も覚えてねぇんだよなぁ。結局、そういう小難しいこと考えても、何の役にも立たねぇし。人生のクソゲーっぷりも、童貞も、全然解決しなかったしな。てかそれ以前に分析哲学は結構ソッコーで飽きてたな、そういえば)
そんなヒサシの浅い心の呟きが、レイアの心に静かに響いていた。