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第3話

謁見の間は、ゴシック式の無駄に金かけ大聖堂を思わせるような厳かな雰囲気に包まれていた。ステンドグラスから差し込む七色の光が、磨き上げられた大理石の床に幻想的な模様を描いている。天井には精緻な彫刻が施され、壁には天使やら、歴代の聖者や英雄の肖像画がずらりと並んでいた。部屋の中央には巨大な玉座があり、そこに座る人物こそ、この世界の精神的支柱であり、教導庁の最高権力者である教王だった。


教王は、純白の法衣を身にまとい、顔には深い皺が刻まれているものの、その眼光は鋭く、威厳に満ちていた。その左右には、教導庁の枢機卿たちがずらりと控えている。彼らは皆、豪華な祭服を纏い、厳めしい表情でヒサシ(レイアの身体)を見つめていた。


ヒサシは、レイアの身体を動かし、教王の前に進み出た。足を踏み出すたびに、硬質な石の床が微かに音を立てる。その一歩一歩が、まるで自分ではない誰かの人生を歩んでいるようで、妙に現実離れした感覚に囚われた。


教王は静かに玉座から立ち上がり、その手がヒサシ(レイアの身体)の頭上に翳された。


「よくぞ参られた、勇者よ。そして、よくぞ使命を果たしたぞ、レイア・エインソフィアよ」


教王の声音は、深く、そして力強かった。それはまるで、長きにわたる歴史と信仰の重みを一身に背負っているかのようだった。


「あなた方の尽力に、この教導庁、ひいてはこの世界に生きる全ての民が感謝する。邪悪なる倒錯魔王ヴァルターを退け、この地に再び平穏をもたらした功績は、永劫に語り継がれるであろう」


教王の言葉に続き、枢機卿の一人が一歩前に進み出た。老齢だが、その声には熱がこもっている。


「まことに! 勇者様による魔王討伐は、まさに奇跡! 神の御加護がなければ成し得なかった聖なる偉業にございます! 我らは、あなた様の崇高なる犠牲と、レイア様がお示しになられた不屈の精神に、心より敬意を表します! 我らが信仰する召命天使アウロスは、常にこの世界を見守り、我らに慈悲を垂れてくださる。今回の魔王討伐もまた、召命天使アウロスの深き叡智と勇者様の強大な力が融合した、紛れもない主の御業に他なりません。勇者様、どうかこの世界に留まり、我らの光となっていただけませんか? あなた様の存在こそが、この魔王どもが跳梁跋扈する果てしなく混沌とした時代における唯一の希望の導き星なのです!」


枢機卿は芝居がかった身振り手振りで、いかに勇者の存在が尊く、魔王討伐がこの世界にとってかけがえのない希望であるかを滔々と語り始めた。その言葉は、まるで何十年も前から練り上げられたテンプレートを読み上げているかのようで、ヒサシの心の底には冷めた感情しか湧いてこなかった。


ヒサシの心の声:「(はぁ、また始まったよ、この手の説教。結局、神の御加護だの聖なる偉業だのって言っときゃ、自分たちの都合のいいように人民を扇動できるって寸法か。どこの世界もやってること一緒だな。てか、全然ヴァルター倒してねぇし、勝手に逃げただけだろ? 何が「討伐」だよ、先走りすぎだろジジイ。あれか、教王猊下様々がわざわざお呼びした勇者様がみすみす魔王逃がしましたはバツが悪いってことかね)」


レイアの心の声:「(ですが、教王様のお言葉には、この世界の民の期待と希望が込められているのです…! 私も身が引き締まる思いです!)」


ヒサシの心の声:「(身が引き締まる? お前、本当にピュアだな。その言葉の裏にある、権力構造とか、政治的な思惑とか、一切感じてねぇのか? どこまでお花畑なんだよ、この聖女様は。)」


「あなた様のような尊き魂を、この世界にお迎えできたこと、我らは神に感謝し、心より歓喜いたします。どうか、この世界を、我々を、そして何よりも、この脆弱なる魂たちをお救いください」


別の枢軸卿が、感極まったように声を震わせながら訴えかける。その目は、ヒサシ(レイアの身体)の奥に宿る「勇者」の魂に、強い期待を向けていた。


ヒサシの心の声:「(脆弱なる魂ねぇ。こう言うときの常套手段。都合のいい時だけ被害者ぶり。が出たな。結局、俺をいいように使いたいだけだろ。こういう権力者共は、自分たちの手を汚さずに、誰かに全てを押し付けたいんだ。そうやって、これまでも人類の歴史は繰り返されてきたんだ。ああ、胸糞悪い。)」


レイアの心の声:「(ヒサシ様…どうか、そのようなお考えは…! 皆、本当に苦しんでいるのです…!)」


ヒサシの心の声:「(苦しんでるのはお互い様だろうが。俺だって苦しんでるんだよ。なんでお前らの都合で、俺がこんな面倒なことに巻き込まれて、挙げ句の果てに命まで危険に晒されなきゃならねーんだ。てか、お前、さっきのヴァルターとの戦闘で、あんなに体が痛い思いしたのに、まだそんなこと言えるって、マジで鋼の精神かよ。それとも、ドMなのか?)」


レイアの心の声:「(い、いえ、違います! わたくしはドMではございません! それに、この世界を救うのは、ヒサシ様の力なくしては不可能なのです!)」


ヒサシの心の声:「(嘘くさ、まあ、確かに俺じゃなきゃ無理、ということになってるな。チクショー、こんな美少女の身体に入って、まさか最初の労働が命かけた殺しあいガチバトルとありがたい説教のご拝聴とはな。ダルすぎる)」


教王は、ヒサシ(レイアの身体)の表情をじっと見つめていた。その目は、まるで心の奥底まで見透かすかのようだった。しかし、教王は何も言わず、ただ静かに頷いた。


「勇者よ。今一度、この世界を救うための誓いを立てていただきたい。その誓いの言葉こそが、あなた様の魂に宿る異能を最大限に引き出す鍵となるだろう」


教王は、恭しく頭を下げ、ヒサシに誓いの言葉を促した。レイアの記憶が、その誓いの言葉をヒサシの脳裏に呼び起こす。それは、勇者がこの世界に召喚された際に、必ず宣言しなければならないとされる、古の儀式的な文言だった。


ヒサシの心の声:「(うわ、マジかよ。こんなクソめんどくせぇ儀式まであんのか。勘弁してくれよ。)」


レイアの心の声:「(ヒサシ様…教王猊下が頭を垂れたのです!どうか、お願いいたします…!)」

レイアの心の声には、焦りと、そして微かな懇願が込められていた。彼女は、ヒサシがこの場で誓いを拒否するようなことがあれば、事態が取り返しのつかないことになるのを恐れていた。ヒサシは、ため息をつきたくなるのを必死で堪えた。どうせ逃げ場はない。ここで渋っても、さらに面倒なことになるだけだ。


ヒサシは、レイアの身体を使い、ゆっくりと深く息を吸い込んだ。そして、その口から、厳かな言葉が紡ぎ出された。


「我は、異世界より来たりし魂、この世界の理を乱す邪悪なる存在を討ち滅ぼし、人々の平和と安寧を護ることを誓う。この身を贄とし、この魂を捧げ、光の剣とならんことを…ここに誓願す」


歴史を紐解けば、この世界の歴史は常に光と闇の戦いの連続であったと記されています。古の時代より、人々の魂を蝕み、世界に混沌をもたらす「魔」の存在は、我々にとっての最大の脅威であり続けました。その中でも、特に悪名高き存在が「魔王」です。この世界にはある時からある時まで六人の魔王が存在し、それぞれが異なる性質と強大な力で世界を脅かしています。彼らは、召命天使アウロスの光から人々を引き離し、世界を闇に染めようと画策します。しかし、その度に、召命天使アウロスは我々を見捨てず、勇者と呼ばれる存在をこの世界に遣わし、世界を救う道筋を示してくださったのです。

教導庁は、その最善至高存在たる主から直に言葉を授かった預言者と教導天使の教えを忠実に守り、世界に光をもたらすことを使命とする聖なる機関です。魔王の出現は、まさに教導庁がその真価を問われる瞬間であり、彼らの存在意義そのものです。過去の記録によれば、歴代の魔王が世界を脅かすたび、教導庁は全力を挙げてこれに対抗してきました。

例えば、約800年前には、全てを凍てつかせる「氷結魔王ザフロス」が世界を深い氷に覆い尽くし、人々は寒さと飢餓に苦しみました。教導庁は、当時最高の賢者と騎士団を動員し、神託によって召喚された「氷の勇者」と共にザフロスに立ち向かい、数多の犠牲を払いながらも、ついに彼を打ち倒しました。この戦いは、「白銀の聖戦」として今も語り継がれています。とか


また、500年ほど前には、人々の心に憎悪と狂気を植え付ける「混沌魔王ベルゼブス」が出現し、世界は内乱と争いの嵐に巻き込まれました。この時も、教導庁は「調和の勇者」と共に、人々の心の闇に光を灯すべく奔走しました。ベルゼブスは物理的な力だけでなく、精神的な攻撃を得意としており、その影響は教導庁内部にまで及びましたが、信仰と結束の力でこれを乗り越え、最終的には勇者の聖なる力によってベルゼブスは消滅しました。この出来事は、「心の浄化」の重要性を教え、教導庁の教義に深く刻まれています。とか


今回の「倒錯魔王ヴァルター」の出現も、例外ではありませんでした。ヴァルターは、人々の善悪の概念を歪め、常識を覆すことで社会の秩序を根底から破壊しようとしました。彼の力は非常に狡猾で、人々は知らず知らずのうちにその影響を受け、互いに疑心暗鬼に陥り、文明の基盤が崩壊の危機に瀕していました。このような状況において、教導庁が果たすべき役割は明白でした。聖なるの教えに基づき、邪悪なる存在を排除し、世界の安寧を取り戻すこと。それが、彼らに課せられた至上命題だったのです。みたいなことをもっと長々とレイアを説いてきたが興味があんまりない。胡散臭すぎるとか以前になんか趣味じゃないなこの感じは、


レイアの心の声:「(……ヒサシ様、先ほどの教王猊下と枢軸卿方のお言葉、そして、ヒサシ様が発せられた誓いの言葉…、あれは、この世界の平穏を願う皆の切なる願いが込められたものなのです。もちろん、教導庁が権力の中枢であることは間違いありません。ですが、その権力は、この世界の民を守るために、迷える人々を正しく導くために、そして主の聖なる言葉を承った預言者たちのの教えを広めるために存在していると、私は信じています。ヒサシ様には理解し難いことが理解できません)」


ヒサシの心の声:「(……へぇ、そうなのか? 俺には、どうにも綺麗事ばっかりに聞こえちまうんだがな。確かに、お前みたいに純粋な奴からすればそう見えるのかもしれんが、俺から見りゃ、どうも胡散臭くて仕方ねぇんだよ。お前のその盲目的な信仰心は、正直理解できねぇな。どこまで現実が見えてないんだか。まあ、そのための宗教か)」


レイアの心の声:「(それは、ヒサシ様の元の世界でのご経験がそうおっしゃるのでしょう。ですが、この世界では、教導庁の存在が、民の心の支えであり、また、秩序を保つ上で不可欠なのです。主から月下界の暫定統治を叙任された拝命天使から叙任された直参使徒から任命された聖レレ師の設立した教導庁は絶対に必要です!)」


ヒサシの心の声:「(ああ。まあ、信じる者がいるから、神も宗教も成り立ってるってことか、ね。フォイエルバッハ流に言えばな、まあ、この感じだとそれ言ったら火炙りパターンだろうけど、てかもしかしたらオカルトありな世界観だし、本当にいるのかそういうの?まあそんなこと俺の矮小な頭脳では証明不可能だし考えるだけ無意味か。だが、お前のその純粋すぎる信仰心は、見ていて正直、虫唾が走るな悪いけど。何がそんなにお前を駆り立てるんだか。正直意味わからん)」


レイアの心の声:「(…っ! ヒサシ様、そのような言い方は…! 私たちは、主の教えに従い、魔王という六人の邪悪な存在からこの世界を守っているのです! 主を信じ、主の光を求めることが、なぜそんなに貴方の気に入らないのですか!?)」


レイアの心の声には、明らかに怒りの感情が滲んでいた。普段は温厚な彼女が、ヒサシの露骨な軽蔑に感情を露わにしたのだ。


ヒサシの心の声:「(なんだ、カチンと来たか? 別にいいじゃねぇか、思っちまったのはしょうがねぇだろ。お前は、お前の信じるものを信じてりゃいい。ただ、それを俺に押し付けんなって話だ。六大魔王とか知らんよ)」


レイアの心の声:「(確かに、確かに……教導庁も完璧な組織ではありません。時には過ちを犯してきましたが歴代の教王猊下は正しく過ちを認め正して来ました。そしてもちろん疑うまでもなく、その根本にあるのは、この世界の民を救いたいという純粋な願いであると、私は信じています。わたくし聖女も、教導庁の末席を汚すものとしてとして、その信念を持って日々の職務に励んでおります。例えば、教導庁は、ただ魔王を討伐するだけでなく、魔物の被害を受けた地域の復興支援や、疫病に苦しむ人々への医療支援、そして孤児や貧しい人々への救済活動も積極的に行っています。これらの活動は、救い主の慈悲の教えに基づいたもので、多くの人々が教導庁に感謝し、信仰を深めています。)」


ヒサシの心の声:「(まあ、意外とやることはやってんだな。ただ、それも結局は、自分たちの正当性をアピールするための一環って見方が俺たち世界観では普通だぜ、はあ、どっちにしろ、お前らの建前なんてどうでもいい。俺は俺が生き残るため、そしてこの面倒な状況から抜け出すために動くだけだ。お前ら聖女様の、その綺麗事にはマジには付き合ってられねぇよ。)」


レイアの心の声:「(…っ! ヒサシ様…! 彼らは、本当にヒサシ様のお力が必要なのです。どうか、そのお力を、この世界のために…! 私が信仰しているのは、綺麗事なんかではありません! 本当にこの世界を救うための、唯一の道なのです…!)」


レイアの声には、ある種の自己暗示をかけるように以前よりも増したヒサシへの信頼が込められているようだった。ヒサシは、まったくこれだから困る、と思った。頼られるのは本当に嫌なのだ。


教王は、再び玉座に座り、静かにヒサシを見守っていた。


「勇者よ。あなた様の誓いは、この世界の未来を照らす光となるであろう。我々は、あなた様の聖なる使命を、全力で支援することを約束しよう。必要なものは、何なりと申し付けるが良い、教導法が許す限り支援する」


一人の枢機卿が、さらに前に進み出た。


「教王様のお言葉の通りでございます、勇者様! 我々教導庁は、勇者様が使命を全うできるよう、あらゆる面で支援を惜しみません。必要な物資、情報、兵力、聖なる儀式、全てをご提供いたしましょう。特に、次なる魔王の出現に備え、我々は古文書の研究を進め、過去の勇者たちが用いた秘術や、魔王に関する詳細な情報を集積しております。六体の魔王は、それぞれ異なる特性と居場所を持っておりますゆえ、その全てを把握し、対策を練る必要がございます。それらはすべて、勇者様の戦いの助けとなるはずです。また、もしも勇者様の心が揺らぎ、不安に苛まれるようなことがあれば、いつでも我ら教導庁の聖職者にお申し付けください。我々は、精神的な支えとなるべく、常に勇者様の傍らに侍り、祈りを捧げましょう。どうか、主とその忠実な僕である召命天使アウロスの御加護が、常に勇者様と共にありますように!」


その言葉は、教導庁が勇者を単なる戦力としてだけでなく、精神的な支えも提供しようとしていることを示していた。しかし、ヒサシには、それがどこまで本心からのものなのか、あるいはフーコーみたいなことを意図的か無意識的にかは知らんがこちらの監視の目を光らせるための口実なのか、判断しかねるところだった。ただまあ、一番偉そうなじい様が教導法とやらの限りと言うのに手下の枢軸卿は微塵もそのような切り出しはしない。わりとグレーではあるかもなとは推測できる。というのが正直なところだ。


ヒサシの心の声:「(ふん、ご丁寧にどうも。まあ、どうせ、俺を都合よく動かしたいだけなんだろうがな。だが、まあ、使えるものは使わせてもらうぜ。この面倒な状況を乗り切るためにも、な。それにしても、この聖女様の信仰心には呆れるばかりだ。)」


レイアの心の声:「(ヒサシ様…! 彼らは、本当にヒサシ様のお力が必要なのです。どうか、そのお力を、この世界のために…!私の信仰心を、そこまで愚弄されるのは…やはり少しだけ、怒りをおぼえます…!)」


ヒサシの心の声:「(ああ、わかった、わかった!勝手呼びつけて正しい教えとやらを押し付けるレイア嬢様よ。とりあえず、今は言われた通りに動いてやるさ。お前らのお人形さんにでもなんでもなればいいんだろう。まあ、無理かもだけど、それから、俺がお前をどう思うかなんて、お前には関係ねぇだろ。マジでさ)」


ヒサシは、心の中でレイアにそう答えると、教王と枢機卿たちに向かって、小さく頷いた。その表情は、ハッキリ言ってしまえば好意的ではない。しおそらくそれは相手もわかってるいる感じはする。レイアは純粋な信仰心や善意あるいは使命感だが、この指導層のお歴々はどうなのかね?といったところだ。


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