三重昌幸はしばらく黙考してから、口を開いた。
「以前、ハイネスリゾートのプロジェクトのために、会社で彼の情報をずっと集めていた。しかし、この人はあまりにも目立たず、行動も謎めいていて、分かっていることは本当に少ないんだ。」
彼は俯いて白鳥結衣を見た。
「どうして急に彼のことを聞くんだ?」
白鳥結衣は悩ましげな表情を浮かべた。
「局で言われたの。誰かが九条修己の独占インタビューを取れたら、七時ゴールデンタイムのキャスターの座をその人にあげるって。でも、九条グループ本社に連絡したけど、テレビ局の予約はもう半年先まで埋まってるの。」
三重昌幸は少し考えてから言った。
「唯一分かった手がかりは、九条様が早朝、横浜カントリークラブでゴルフをする習慣があること。そこから攻めてみたらどうだ?」
白鳥結衣の眉間の皺は消えなかった。
「でも、横浜カントリークラブは横浜市で一番高級な会員制ゴルフ場よ。入会金だけで二千万もかかるのに、私が入れるわけないじゃない。」
「それなら大丈夫だ。」三重昌幸は言った。
「父があそこの古株の会員で、俺もよく一緒に行っていたから、マネージャーも俺を知っている。明日、ゴルフ場に連絡しておくから、君は三重夫人の名義で行けばいい。」
白鳥結衣の目が期待に輝いた。
「本当に?私が三重夫人の名義で入ってもいいの?」
彼女が嬉しそうで、でもどこか遠慮がちな様子を見て、三重昌幸は心が和らぎ、そっと彼女の頬を撫でた。
「もちろん。俺の中では、君はもう三重夫人だよ。」
白鳥結衣が浴室に入ると、三重昌幸はすぐに遥奈へ電話をかけた。
「遥奈、今後もう一度でも白鳥結衣を困らせたら、容赦しないからな。」
電話の向こうの遥奈は、この唐突な警告に呆れたような口調で、少し皮肉を込めて言った。
「何よ、白鳥がまたあなたに泣きついたの?」
「白鳥はお前と違って、裏表のない人間だ。お前はもう十分持っているだろう、これ以上彼女の物を狙うな!」三重昌幸は冷たく言い放った。
電話は一方的に切られた。遥奈はスマホを机に投げ、胸の中に怒りが渦巻いた。
時々、遥奈は本当に白鳥結衣に感心する。人の物を奪っておきながら、どうしてか周りには、まるで自分が被害者のように思わせる。
彼女の視線はパソコンの画面に移った。文書のタイトルは「辞表」となっている。
彼女は勢いよくパソコンを閉じた。
なんで白鳥結衣が来ただけで、自分が辞めなきゃいけないの?あの時、三重昌幸を奪われて悪者になった。それなのに、今度は仕事まで譲るの?
もちろん、遥奈は前から辞めるつもりだった。理由はたくさんある。でも、今はその思いを押し込めた。
辞めるとしても、せめてゴールデンタイムのキャスターの座に就いてからにする。
遥奈はスマホを手に取り、連絡先の中の「ヒモくん」と書かれた名前を見つけてタップした。
すぐに電話が繋がる。
「三重夫人、何かご用ですか?」
その声はよそよそしく冷たい。明らかに距離を置く口調だった。
どうやら、前回のドタキャンで相当怒っているようだ。それでいい、線を引くのが彼女の望むところだった。
遥奈は珍しく事務的な口調で話す。
「九条様、私はテレビ横浜の報道記者、三重遥奈です。独占インタビューをお願いしたいのですが、ご都合の良いお時間をいただけませんか?」
電話の向こうから冷たい笑いが漏れる。
やっぱり、用事がなければ寄り付かない女だと思われている。
九条修己は少し黙ってから、皮肉を込めた声で言った。
「三重さん、図々しいですね。前回ドタキャンしたくせに、今度は独占インタビューですか?」
遥奈は平然と答えた。
「それは別の話です、九条様。私はいつも仕事とプライベートをきっちり分けています。」
相手はその堂々とした態度に、呆れて笑ったようだった。
「独占インタビューがしたい?いいでしょう。今すぐ翠嵐荘に来て、前回の件を詫びなさい。他のことは、その後ゆっくり話そう。」
遥奈は壁の時計をちらりと見た――夜の十時。今から行くということが何を意味するか、彼女はよく分かっていた。あの場所に、ただ行って帰るはずがない。
「仕事の話ですから、やはり昼間にしましょう。九条様が時間と場所を決めてくだされば、必ず伺って、直接お詫びします。」
九条修己は遥奈の性格を知っている。見かけは色っぽくおっとりしていても、芯は強情だ。
彼は冷たく言った。
「明日の朝九時、横浜カントリークラブで。」
横浜カントリークラブ――遥奈は行ったことはないが、三重邦彦が会員だということは知っていた。邦彦はあまり行かないが、毎年二千万の会費をきちんと払っている。ゴルフ場のルールも知っていた。会員の家族は名前を言えば入れるし、一枚のカードで家族全員が利用可能だった。
翌朝、九時ちょうど。
遥奈は時間通りに横浜カントリークラブに到着した。
受付に行くと、清楚な顔立ちの受付嬢が丁寧に尋ねた。
「お客様は初めてお見かけしますが、会員様でいらっしゃいますか?」
遥奈は落ち着いて答えた。
「三重邦彦さんは私の義父です。入場できるはずですが?」
受付嬢の顔に驚きが走る。
「お客様も三重夫人でいらっしゃいますか?」
「も?」遥奈は美しい眉をひそめた。「他にも三重夫人がいるんですか?」
受付嬢は思わず近くの人影を指差した。
「あちらの方も三重夫人とおっしゃっています。三重社長は横浜でも有名な実業家ですし、お子様も一人息子と一人娘だけです。お嫁さんが二人いるなんて……」
遥奈は示された方向を見る。案の定、白鳥結衣だった。
白鳥結衣も彼女に気づき、驚いたような表情を見せた。
受付嬢は困った様子で言った。
「少々お待ちください。マネージャーを呼んでまいります。」
マネージャーはすぐに小走りでやって来て、歩きながら受付嬢を叱った。
「言っておいただろう?今日は三重夫人がいらっしゃるから、三重様から前もって連絡があった。直接お通ししなさいって。何をぐずぐずしてるんだ、お客様を待たせるなんてどういうことだ?」
受付嬢は悔しそうに弁解した。
「三重夫人が一人とはお聞きしましたが、お二人とは……」
「二人?」マネージャーも驚いた。
その時、白鳥結衣が近づいてきて、少し心配そうな口調で言った。
「遥奈、どうしてあなたも来たの?」
遥奈は口元ににやりとした笑みを浮かべて答えた。
「私が来なければ、誰かが勝手に私の身分を騙るのを、どうやって知るの?」
「遥奈、何を言ってるの?分からないわ。」白鳥結衣は無垢な顔をした。
マネージャーは二人を見比べ、困惑した表情を浮かべた。
「お二人とも、どちらが本当の三重夫人なのでしょうか?」
朝のゴルフ客は多く、ほとんどが名家の子息や令嬢だ。何やら騒ぎがあると、次々と人が集まってきた。
「おや、朝っぱらから本物の三重夫人ゲームですか?」誰かが冗談めかして言う。
その時、人集りの中から一団がこちらへ向かってきた。
先頭に立つ男は黒いカジュアルな服で、シンプルなスウェットとジャージ姿。その白く透き通るような肌には、言葉にできない品格が漂っている。彼が歩くと、まるで周囲がぼやけて彼だけが際立つようなオーラがあった。そのクールで近寄りがたい雰囲気は、生まれつきの支配者のようだ。
――それが、九条修己であった。