誰もが思った。遥奈のこの行動は、ただメンツをかけた最後のあがきに過ぎないと。パー4のホールで、パーを取るのもすでにプロレベルだ。バーディーはなかなか出せるものじゃないし、イーグルなら一流の腕前と言える。ましてやホールインワン?それは宝くじの一等を当てるようなもので、ほぼ不可能だ!
遥奈はレディースティーに立ち、真剣な表情で集中している。彼女はクラブを高く掲げ、流れるような力強いスイングを放った!白いボールは一瞬で空へ舞い上がり、美しく高い放物線を描いてグリーンをまっすぐ目指して飛んでいく!
誰もが思わずグリーンへ駆け寄った。戸木が一番乗りで、芝生の上を必死に探す——ボールがない!一瞬戸惑い、何かを思い出したかのようにホールへ駆け寄り、身を屈めて覗き込む——あの白いボールが、静かにカップの底に収まっていた!
「ホールインワン!桜庭さんがワンショットで入れたぞ!!」
戸木は興奮のあまりそのボールを高々と掲げ、声まで裏返り、自分が入れた時の百倍も嬉しそうだ!
会場は一瞬静まり返り、すぐさま割れんばかりの歓声に包まれた!全員が呆然とし、信じられない目で歩み寄るピンク色の姿を見つめる。明るく眩しい桜庭さんが、伝説のホールインワンを本当に達成してしまったのだ!
どれほどの実力と運が重なれば、こんなことが起きるのか?!瞬時に、何人かの御曹司たちは遥奈を見る目が、野次馬から完全な崇拝と驚愕に変わった。
噂は羽が生えたようにゴルフ場中に広がり、次々と人が集まってきて、この奇跡を目撃しようとした。中には遥奈と一緒に記念写真を撮りたがる人も多かった。
ゴルフ場の伝統では、ホールインワンを達成したプレイヤーが、キャディやスタッフに祝儀を配るのが習わしだ。驚くべきことに、遥奈はすでに準備していたかのように、スポーツバッグから分厚いご祝儀封筒の束を取り出し、キャディに配るよう合図した。
「わあ!桜庭さん、準備万端だ!」
「さっきのバーディーは、まさに羊の皮をかぶった虎だったんだな!」
「九条様、これで認めざるを得ないでしょ?桜庭さん、あなたの手のひらの上だったよ!」
「桜庭さん、一体どこで修行したんだ…?本当に凄かったな」
皆が口々に驚嘆し、話題が尽きない。遥奈はにっこりと笑って適当に受け流しながら、すぐそばで表情の読めない九条修己にまっすぐ視線を向けた。
「九条様、約束したこと、守ってもらえますよね?」
九条修己の瞳は深く沈んでいたが、声は冷たいままだ。
「俺は“勝ったらまた話そう”と言っただけで、勝ったら必ずインタビューを受けるとは約束していない。」
その当然と言わんばかりの態度に、遥奈は思わず、親しい時に彼が見せる気まぐれな一面を思い出し、頬がほんのり赤く染まった。
周囲の人々は、彼女が怒っていると勘違いし、次々と彼女の味方をした。
「九条様、それはちょっとひどいんじゃない?女の子をいじめてるよ?」
「勝負に負けたら潔く!独占インタビューくらいいいじゃない!」
「そうだそうだ、器がそんなに小さいはずないでしょ?」
九条修己は遥奈を囲むこの“護衛団”を冷ややかに見つめ、不機嫌さと怒りがこみ上げた。冷たい視線で野次馬たちを一人一人見据え、威圧的な声で警告した。
「俺は人に計算されるのが一番嫌いだ。君たち、これ以上彼女の護衛を気取るなら、友人とは思わない。」
皆は一瞬で沈黙し、顔に驚愕と恐怖が浮かぶ。九条修己は普段、彼ら友人に優しい。この横浜での集まりも、彼が皆にリゾートプロジェクトの利益を分け与えるためだった。だが今、たった一人の女性のためにここまで強く言うとは!誰の目にも、九条の怒りは本気で、しかもその怒りの矛先は遥奈に向けられていた。
理由はどうあれ、誰も女のために九条を敵に回すつもりはなかった。さっきまで遥奈の側にいた男たちも、気まずそうに距離を取った。
少し離れた場所で白鳥結衣は、口元にかすかな冷笑を浮かべていた。どうやら、遥奈の無敵の美貌にも、効かない時があるらしい。
遥奈と白鳥結衣は、一緒にTV横浜へ戻った。ゴルフ場での出来事は、二人とも一言も触れなかった。
午後、報道部の会議。部長の大輪真樹は興奮を隠せない。
「やったぞ!白鳥、桜庭、どっちが九条様の独占インタビューを取ったんだ?」
遥奈も白鳥結衣も、一瞬ぽかんとした。周囲の同僚も驚きに目を見張る。
「九条様がインタビューOKしたの?」
「そうなんだよ!」
大輪真樹は興奮して机を叩いた。
「九条グループ本社からさっき電話があって、明日の朝九時、うちの記者を呼んでくれって!九条様が、まるまる二時間もくれるんだ!」
彼は二人を見て困惑顔。
「君たち、帰ってきてなんで何も言わない?どっちがアポ取ったんだ?」
遥奈は僅かに眉をひそめた。朝の九条修己の態度は、明らかに拒絶だったはず。なぜ急に変わったのか?
遥奈が黙って考えていると、白鳥結衣は落ち着いた表情で静かに言った。
「部長、私です。」
大輪真樹は満面の笑みでうなずいた。
「よしよし、白鳥、やっぱり君はやる子だ!今すぐ準備して、明日朝九時きっちり九条様の独占インタビューに行ってくれ!これが成功したら、前途は明るいぞ!」
彼はスマホを慌てて手に取る。
「すぐに局長に報告しないと!これは大ニュースだ!東京の局長ですら三度頼んでも動かなかった人を、うち横浜局が取ったんだぞ!局長も大喜びだろう!」
そう言うと、急いで部屋を出て行った。
オフィスは一気に盛り上がり、同僚たちが白鳥結衣を囲む。
「白鳥、すごすぎ!どうやったの?」
「さすがスタンフォード卒でCNNインターンの実力派、顔だけで食ってるのとは違うね!」
「これでゴールデンタイムキャスターの座は君で決まりだ!」
「ゴールデンタイムキャスターになったら、みんなでご飯おごってよ!」
白鳥結衣は、ちょうど良い照れと謙虚さを浮かべて微笑んだ。
「ただ運が良かっただけです。今夜は私がご馳走します。作兵衛で和食をどうぞ!」
作兵衛は横浜一有名な高級和食レストランで、値段もかなりのものだ。
普通のサラリーマンの同僚たちにとって、これは一種の“贅沢”だった。
皆はさらに歓声を上げ、白鳥結衣の太っ腹ぶりを絶賛した。白鳥結衣は立ち上がり、今まで黙っていた遥奈のデスクに近づき、穏やかな口調で誘った。
「三重さん、今晩一緒にどうですか?」
遥奈は机の上の書類を片付けながら顔を上げ、明るい笑顔を見せた。まるでさっきの冷遇などなかったかのように。
「うん、ご馳走ならぜひ。」
夜、皆で華やかな店に到着した。白鳥結衣はすでに個室を予約していて、同僚たちは洗練された内装に感心しながら、またしても白鳥結衣を褒めた。
「白鳥、こういうとこよく来るの?」
白鳥結衣は謙虚に首を振る。
「いえ、たまにです。」
「こんなところ、私たち普通の人には手が出せないよ。白鳥さん、家が普通だなんて嘘でしょ?」
「そうだよ、海外留学できる家が普通なわけないし!」
「白鳥さん、正直に言って、どこのご令嬢なんですか?」
白鳥結衣は、何気なく向かいに座る遥奈をちらりと見て、そっとお腹に手を当てた。優しい声で言う。
「嘘なんてついてません。うちは本当に裕福じゃないんです。留学できたのも……全部、彼のおかげ。彼は裕福な家の人で、私をとても大切にしてくれて、一緒に留学したんです。」