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第十五話 売ったら、もう触るなと?


冷たい空気と酒の香りが混ざり、小松美穂の心を一瞬でかき乱した。

彼の接近に、彼女は反射的にドアの方へ身を縮める。

車内は狭く、二度ほど後ずさりしただけで、背中が冷たいドアに押しつけられた。

三井雅人は片手を窓枠につき、その長身が作る影が美穂をすっぽりと覆った。冷たい星のような鋭い目が彼女を一瞥し、やがて彼女の首元のダイヤのネックレスに釘づけになった。

しばらくして、嘲るような低い笑い声が響いた。「新パトロンは太っ腹だな」

彼は滅多に笑わない。その笑みは、今この瞬間、氷よりも恐ろしいものだった。

美穂は説明しようとしたが、「新パトロン」という言葉が喉を塞いだ。黒崎龍之介が彼女を自分の女だと宣言した以上、どんな弁明も無力だった。

彼女が黙り込むのを見て、三井の目つきが一気に険しくなった。長い指が冷たさを帯びて、彼女の頬からゆっくりと耳の後ろへと滑っていく。

指先が肌に触れた瞬間、美穂は思わず震えた。黒崎龍之介の接触がもたらす嫌悪感とは違う。三井雅人の触れる手は、絶対的な権力に由来する恐怖を感じさせ、彼女の息をほとんど奪うほどだった。

指が彼女の髪を掻き分け、三井は突然、彼女の後頭部を強く掴むと、自分の目の前までぐいと引き寄せた。互いの吐息が感じられるほどの距離だ。

声を潜めて、彼は冷たい言葉を叩きつけた。「いつからだ? 何度?」

彼の温かい吐息がかかり、美穂の心臓が痺れ、身体までが少しぐにゃりとした。情けないと自分を罵りながら、慌てて顔を背けようとしたが、男はたちまち彼女の首を締めつけた!

「さっきやったのか?」 彼女の首筋に残るあのいやらしい痕跡を睨みつけながら、その声は毒を塗った刃のように冷たかった。

美穂の顔が一気に青ざめ、すぐに手で黒崎に噛まれたその場所を覆った。「違う! 何もしてない!」

「それが信じられるか?」 彼女を見る彼の目は、汚れたゴミを品定めするかのようだった。

美穂は心臓を震わせながら、必死に言い張った。「信じる信じないはあなたの自由よ。彼と私、そこまでじゃないの」

「そうか?」 三井の口元が冷たい弧を描いた。「本当かどうか、確かめてみればすぐにわかる」

言葉が終わらないうちに、彼は彼女のドレスを引き裂いた!

「きゃっ!」 美穂が悲鳴を上げ、両腕をあわてて胸に当てる。

問い詰める間もなく、今度は下半身が冷たい空気に晒された!

ほぼ同時に、引き裂かれるような激痛が走った。素早く、そして乱暴に。何の前触れもない侵犯に、彼女は痛みで全身を震わせた。

「三井! このバカ!」 彼の肩を掴み、怒りに声を震わせて叫ぶ。

しかし彼は全く意に介さず、長い指は冷酷な探偵のように、彼女の体内を執拗に探り続けた。

「頭おかしい! 離して!」 羞恥と怒りでいっぱいになり、美穂は爪を彼の肩の皮肉に食い込ませたが、彼は微動だにしない。

顔を真っ赤にして振り返り、佐藤太一が車内にいないことを確認して、かろうじて残った自尊心を取り戻した。しかし、彼の動きがますます荒くなるにつれ、今すぐ死にたいと思うほどだった。

「一体何がしたいの?!?」 彼女はほとんど崩壊しそうだった。

それでも彼の端整だが冷たい顔には何の感情も浮かばず、その切迫した動きには情欲はなく、ただ歪んだ確かめたいという衝動だけがあった。

激痛に耐えながら、美穂は彼の様子を観察した。顔色は鉄青で、剣眉はひそめられ、眉間に激しい怒気が渦巻いている──これは彼が激怒している時の表情だ。以前なら彼女は怯えただろうが、今はただ茫然とするだけだった。

「三井!」 彼女は彼を呼んだ。

しかし男は反応せず、侮辱的なその動作を執拗に繰り返す。

美穂は突然、彼の手を押さえつけ、声を研ぎ澄まして言った。「忘れたの? あなたが私を捨てたんでしょう? 捨てたんなら、もう二度と触らないで!」

その冷たい言葉が、ようやく彼の長い指の動きを止めた。

彼が顔を上げると、その目尻は真っ赤に染まり、燃えさかる炎のように焼けつく危険な色を帯びていた。

「黒崎に売ったから、俺が触るのも許せないってのか?」 その声は磁性のある低音だったが、吐き出される言葉は鋭く冷ややかだった。

「売った」という一言が、彼女の尊厳を塵に叩きつけた。彼に一銭も使わせなかったのは、汚名をそそぐためだと思っていた。結局彼の目には、取引可能な玩具でしかなかったのだ。

心臓が無数の細い針で刺し貫かれたように、ちくちくとした痛みが広がる。蒼白い顔に、それでも不気味なほど妖艶な笑みが浮かんだ。

「三井様」 彼女は両手で彼の首を絡め、美しく微笑んだ。「買ったのは彼ですから、あなたがもう触るのは当然ダメですわ。このルール、教えたのはあなた自身じゃありませんか? お忘れですの?」

三井の顔色がみるみる沈み、嵐が来る前の不気味な静けさを漂わせて言った。「…何て言った?」

美穂は軽く顎を上げると、彼の耳元に甘い吐息をそっと吹きかけ、すべてを投げ捨てる覚悟を込めて囁いた。「さっきは嘘よ。黒崎様とは、とっくに…やってるの。昨夜三回、今日は二回…今、私は彼のものよ。三井様、どうかお引き取り願える?」


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