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第六話 百万円で一晩を買う


どれほど経っただろうか。ドンドンドンという激しいドアのノック音が、不安な眠りから小松美穂を引きずり起こした。


高橋美波は最近、月影で夜勤をしており、帰りが遅いため、小松にスペアキーを預けていた。高橋が戻ってきたのだろうと思い、小松は慌てて起き上がり、ドアに向かった。

しかし、ドアをわずかに開けた瞬間、彼女の全身の血の気が一気に引いた。


ドアの向こうに立っていたのは、高橋美波ではない。むしろ、彼女が吐き気を覚えるほど嫌悪する、上品ぶった嫌な顔の主──黒崎龍之介だった!


小松の顔はスッと紙のように青ざめ、反射的に勢いよくドアを閉めようとした。


だが、黒崎はそれを予期していたかのように、長い腕を伸ばして無理やりドアを押し開け! その大きな力に小松はよろめいて一歩後退し、恐怖が瞬時に彼女を捕らえた。


「黒崎!何なさるんですか!?」彼女は必死で鋭い口調を装って詰め寄ったが、声は抑えきれずに震えていた。この変態が、まさか家まで見つけ出すなんて!


小松が怯えた子ウサギのようにおびえている様子を見て、黒崎の目の中の興味はより深まった。彼は両手をドア枠に突き、首をかしげて、露骨な侵略的な姿勢で小松をじっと見つめた。「怖がるなよ? 君を食ったりはしないさ」。少し混血を思わせる灰黒い瞳は今、獲物を前にした時の抑えきれない興奮の光を隠さずにキラつかせていた。


「小松さん、中に入れてもらえないか?」


口調は丁寧だったが、小松はそれを聞いて心臓が跳ね上がりそうになった。黒崎龍之介がどんな人間で、何をするか、彼女は痛いほど分かっている! 彼を家に入れるなんて、狼を家に招き入れるようなものだ!


「すみません、ここは友達の家ですから、ご遠慮願います!」小松は冷たい表情で言い放つと、再びドアを閉めようとした。


黒崎は鼻で笑い、長い足を一歩踏み出して軽々と隙間へ入り込み、手を返して「カチッ」とドアを閉めた。これで小松が外へ逃げ出す可能性は完全に断たれた。小松の心は奈落の底へ沈んだ。


「黒崎、一体何がお望みなんですか!?」声は恐怖で張り詰めていた。


「お前が欲しいんだよ」


黒崎の視線が彼女の胸元に落ち、その意図を隠そうともしなかった。小松は寝る前にシルクのネグリジェに着替えており、胸元が少し開いていた。彼女は慌ててガウンをしっかりと押さえた。


小さな顔は病的なほど青白く、かえっていっそう痛々しいほど弱々しく見えた。優しい顔立ちは完璧なほど整い、湖水のように澄んだその瞳は今、恐怖でいっぱいだったが、それでも砕けたダイヤモンドのように美しく輝いていた。


その魅力は、どんな男でも血を騒がせるのに十分だった。


黒崎は彼女が書類を届けに来た瞬間から涎を垂らしていた。今となっては、どうして我慢できるだろうか? 熱い衝動が頭頂へ突き上がり、理性は一瞬で欲望に飲み込まれた。彼は小松美穂を無造作に冷たい壁へ押しつけた!


「百万円やる。一晩つきあえ」荒い息を吐きながら、その吐息が小松の顔にかかった。


小松は体の震えを止められず、両手で黒崎の押し寄せる胸を必死に押さえつけた。


「離れて!」


パトロンから逃れたばかりだと思ったのに、またもや金で買おうとする男が現れるなんて、なんて皮肉なことか!


「五百万!それに都心の別荘を一棟やる!」黒崎は条件を上乗せした。


「一億円くれてもいらないわ!離しなさい!じゃないと…警察を呼ぶわよ!」小松は声を絞り出すように叫んだ。


「警察?」黒崎は天にも昇るような笑い話を聞いたかのように、鼻で笑った。


「呼んでみろよ?俺、黒崎龍之介を捕まえられる警察がどこにいるっていうんだ?」


彼は彼女の脅しなど全く気にせず、顔を近づけ、彼女の頬や首筋に無理やりキスをしようとした。


小松は必死に顔をそらしてかわしたが、蛇の舌のような冷たい感触が額に触れ、吐き気を催すほど嫌悪感がこみ上げてきた。


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