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第2話 仮想通貨って何?

(仮想通貨とか最近の流行ってよく分からないな。大学生の一茶に聞けば早いんだろうけど……)


 ググれカス、と言われたくはないので、とりあえずグーグル先生に聞いてみることにした。


「え~と、なになに? ノアズコインとは、アメリカのゲーム会社であるノアカンパニーが発行している仮想通貨であり、現在の取引価格は一ノアズ百円……百円!?」


 確か二十年後の世界では、一ノアズおよそ一億円だと一茶が言っていなかったか?


(そんなバカな話が……あ、関連記事でビットコインのことが書いてある。流石の私もビットコインくらいは聞いたことあるのよね。えっ! 一ビットコインって元々ピザ一枚分くらいの価値だったの? 今一千万くらいのはずだけど……)


 スマホを放り出して、美世はベッドの上に大の字になって倒れ込んだ。


「これが仮想通貨!」


 しかし逆に言うと、これだけ上がるということは同じくらい暴落する可能性もあるということである。美世はもう一度スマホを拾い上げ、恐る恐る検索した。


「あ、やっぱり。過去にビットコインも暴落してるし、その他のアルトコイン? っていうビットコイン以外の仮想通貨も、存在自体が無くなっちゃってるものもあるんだ」


 え、それってつまり、つぎ込んだお金全部パーになっちゃったってこと?


(怖っ! 私なんかがとてもじゃないけど手を出せる代物じゃないわ)


 でも、と美世ははたと気がついた。


(百円くらいなら万が一無くなっても別に痛くも痒くも無いし、二十年後は一億ってことは、今千円でも買っておいたら十億になるってことよね……)


 これは、もしかして人生勝ち組の予感?


「財運の神様、ありがとうございます!」


 美世は思わず歓声を上げながらガッツポーズを決めていた。


(きっとこれはうちの神様が私を大金持ち……いや、に、日本を救うために、私に未来を見せたってことじゃないの?)


 それなら美世のするべきことは、手の届く今のうちにノアズコインをありったけ買い込むことである。


 善は急げということで、美世は早速仮想通貨の取引口座を開くことにした。


(すごい、最短十分で取引開始とか書いてるけど、本当にすぐに口座開設できちゃった)


 よく分からないカタカナの羅列をどんどんスワイプして、ようやくお目当てのノアズコインの取引ページに辿り着いた。


(仮想通貨って本当にたくさんの種類があるのね。それぞれが違った目的で作られてるみたいだけど、さっぱり分からないわ。本来ならちゃんと勉強してから取引開始するべきなんだろうけど……ん? あれ?)


 ノアズコインの買い付けボタンが非表示になっている?


(え、どういうこと? 売却はちゃんとできるのに、買い付けはできないの? なんで?)


 試しにビットコインのページを確認してみたが、どちらのボタンもちゃんと表示されていて取引可能な状態になっていた。


(一千万なんて買えるか! って思ってたけど、五千円分とかでも買えるのね。0.0004bitとかになるけど……ってそうじゃなくて!)


 どうしてノアズコインが買えないのか?


(あ、なんか注意書きがある。どれどれ、ノアズコインはノアカンパニーが自社のゲームの普及のために開発したコインであり、現在はゲーム内でのみ取得可能となっております)


 どゆこと?


 再びグーグル先生のお世話になることに。


「ええっと、要するに、この会社が出してるゲームの賞金としてノアズコインが配布されてるってことなのかしら。てことは、このゲームで勝たなきゃならないってこと?」


 美世は再びスマホを投げ出してベッドにひっくり返った。


(ゲームなんて子供の頃にスーパーファミコンやったっきりだけど、私でも勝てるものなのかしら……いや、勝てなきゃ世紀末が待ってるだけ。絶対勝たなきゃ!)


 ふんっ! と気合を入れ直して腹筋で起き上がると、美世は弟の部屋の扉をドンドンと叩いた。


「一茶! ちょっといい?」

「姉さん、どうしたの?」


 大学の課題をやっていたらしく、一茶は机の上にテキストやノート類をごちゃごちゃと広げていた。


「ちょっとゲームを教えて欲しいんだけど?」

「ゲーム? 急にどうしたの?」

「いいから教えて。ノアカンパニーとかいう会社のアメリカ製のゲームなんだけど」

「ああ、最近出てきたオンラインゲームだね。大学の奴らがやってるから、俺もちょっとやってみてるよ」

「本当に!?」


 いつになくゲームの話に目を輝かせている姉を見て、一茶は不審げな表情をした。


「姉さん、本当にどうしたの? 失恋しておかしくなっちゃった? そんな状態の時にオンラインゲームの世界で出会いを求めるのは危険だからやめた方が……」

「うるさい。そんなんじゃないわよ。それよりあんた、そのゲーム強いの? もしかして結構ノアズコイン稼いじゃってたりする?」

「ああ、俺は仮想通貨の口座は開いてないから、遊んでるだけでコインの受け取りは基本してないよ」

「何ですって!?」


 血相を変えて怒り出した姉に、一茶は訳が分からず困惑していた。


(やばいな、今日姉さんの地雷がよく分からん。失恋ワードにはそんなに反応しないのに、何でゲームでそこまで怒ってるんだ?)


「ま、まあ俺も始めたばっかりだし、勝ったことなんてそもそも無いかな」

「今すぐ口座を開設……いや、いいわ、私が口座を持ってるから、それを繋げてちょうだい」

「ええっ! 姉さん仮想通貨取引なんて始めたの? それ大丈夫?」

「いいから早く繋げて!」


 鬼気迫る姉の迫力に押されて、一茶は慌ててテレビとゲーム機のスイッチを入れると、ポチポチと画面操作を行った。


「……これで一応つながったよ」

「ありがとう。それじゃあ早速ゲームを始めるわよ」

「ええっ? 今から?」

「そうよ、事は一刻を争うんだから」

「でも俺大学の宿題が……」

「やり方さえ教えてくれれば後は何とかするから」


 一茶は仕方なくテレビ画面に向き直ると、迷彩服を着て銃を構えた男性の写っているアプリにカーソルを合わせてコントローラーのボタンを押下した。


「ノアカンパニーの出してるゲームは何種類かあるらしいんだけど、俺は友達に教えてもらったこのゲームをとりあえずやってるよ」

「何これ、戦争ゲーム?」

「FPSだよ」

「?」

「えっと、シューティングゲームみたいなやつ」

「敵をどんどん撃っていけばいいのね? それなら私にもできそうだわ」


 異様な目つきでテレビ画面を見つめる姉に、一茶はそろそろドン引きしてきた。


「ところで、このグリグリ回すレバーってどうやって使うの?」

「……」

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