目次
ブックマーク
応援する
5
コメント
シェア
通報
異世界でフードロスと戦いながらハラペコ女騎士さんと目指す最強バーガー王伝説
異世界でフードロスと戦いながらハラペコ女騎士さんと目指す最強バーガー王伝説
東雲飛鶴
異世界ファンタジースローライフ
2025年07月18日
公開日
1.6万字
連載中
目指せ異世界バーガー王!:ハンバーガーの移動販売をするおっさんが、キッチンカーごと異世界に迷い込んで、はらぺこ女騎士さんと一緒にバーガー王を目指す話です。使える食材は何でも使う。フードロスは許さない。もったいない行為はあきまへん。自慢のメニューは、新作のコログラバーガーです!小麦粉ソース小麦粉小麦粉小麦粉レタス小麦粉!

第1話 ああバーガー全部廃棄かな

これは、全力でフードロスと戦う男と、大食いなくっころさんの物語である。



     ◇◇◇



「あーあ、こんなに売れのこっちまった。

今日も廃棄かあ……」


深夜、繁華街の路肩でぼやく、ハンバーガー移動販売車の男がひとり。

都心ではあるが、すでに終電も近く歩道を歩く人は少ない。


男の年の頃は三十路前後、一般的な男性よりは少々体格がよく、コンビニ店員よりは強盗に襲われにくそうな面相だ。


彼の目の前には、カラフルな包装紙にくるまれたハンバーガーの山があった。

パティから手作りをしている自慢のハンバーガーだが、コワモテのせいか客が寄り付かず、常連はわずかだった。


これ以上待っても売れないだろう、と諦めた男は、レジに鍵をかけると、車を降りた。そして、近くの公園に歩いて行き、ブルーシートの小屋の中へ声を掛けた。


「おう、まだ起きてるかい?」


ごそごそと物音がするので住人は起きているのだろう。まもなくシートの切れ目から老人が顔を出すと、ぺこりと頭を下げ、

「こりゃ旦那、わざわざ来てもらってスマンです」


「調子悪そうだな。どっか具合悪いのかい? いつもの時間に顔見せに来なかったから気になってな……」


「ちょっと風邪気味なだけ、すぐ治りますよ」

「そつぁいけねえな。ちょっと待ってろよ」


男は顔なじみのホームレスの住処を離れ、足早にキッチンカーに戻ると、ダッシュボードから薬の小袋を数個取り出し、調理台の上に置いていたレジ袋を掴んで再び公園へと向かった。


「じいさん待たせたな。食後にこいつを飲んでくれ。回復しなかったら、週末に来るボランティアに相談しな。あとこいつも食ってくれ」


男は老人に薬とレジ袋を渡した。

持って来たレジ袋の中身は、売れ残りのバーガーが10個ほど。


「新作なんだ。あとで感想聞かせてくれよ。じゃあな、良く寝ろよ」

「いつもありがとうございます、旦那……」

「気にすんな。お互い様だ」


深々と頭を下げる老人に軽く手を上げて応える男。

彼は足早にキッチンカーに戻り、店じまいをして帰路についた。



     ◇



「自信作なのに。食えば旨さが分かるのによう……」


恨めしそうにぼやく男。

ハンドルを握る手に力がこもる。


あまりの悔しさのためか、どうやら道を間違えたらしい。

いつしか周囲は霧がたちこめ、対向車すら見えない。


「あんれ……おかしいな。ここどこだ?」


霧を抜け、気付くと車はまるで知らない場所にいた。

実際に走った時間は小一時間程度である。

都心から行ける距離に、こんな場所はない。


――未舗装の道と、広大な原っぱ。遠景に山が連なる。

――深夜のはずが、なぜか早朝か夕方だった。空が赤い。


「ハハ、あんまり売れなくて、とうとうおかしくなったか……俺」


男は車を停めて、珈琲を淹れ始めた。

己を落ち着かせるために。


キッチンカーの脇に、折りたたみのテーブルと椅子を出す。

販売場所が広いときのみ使用している什器だ。


「ふー……。旨い」


男は自分用に保管していた上等な珈琲豆を淹れた。旨いに決まっている。

バーガーショップで飲むような品質ではない。


いずれは海辺でカフェでも開いて、サーファー相手に旨いバーガーとコーヒーを提供したいと思っていた。しかし、その夢に手が届くのはいつの日か。

さっきの霧のように、先は見通せない。


(えらく田舎に来ちまったようだが、家のひとつもないとは……)


男がぼーっと原っぱと空を眺めていると、そのうち太陽が昇ってきた。

どうやら赤い空は朝焼けだったようだ。


一杯目のコーヒーを飲み干した男が二杯目を淹れようと思った矢先、背後から誰かに声を掛けられた。


「おい……そこのお前、く、食い物はあるか」

「へ?」


――人が近づいてきた気配はなかった。

いや、自分の頭がボケていて気づけなかっただけか。


顔を上げると、そこには若い女が立っていた。

白人の女だ。

美人だが、なにか切羽詰まったような顔をしている。


「食い物? 腹、減ってるのか」


見れば女は西洋の鎧を纏い、剣を帯びている。

日本語を話しているようだが、なにかの撮影中だろうか?

しかし撮影スタッフらしき者は見当たらない……。


「お前のその大きな小屋の中から、食べ物の匂いがする。

隠すとためにならないぞ! さあ、出せ!」


騎士のような姿ではあるが、言動はまるで追いはぎだ。

女はすらりと剣を抜くと、折りたたみ椅子に座る男に突きつけた。

相当飢えているのか、鬼気迫るものがある。


だが男は多少驚いただけ、落ち着いたものだ。

多少の荒事には慣れているのだろう。


「おいおい……強盗かよ。わーったわーった。いま出してやるから座れ」


男は立ち上がると、今まで自分が腰かけていた椅子を女に勧めた。


女は男を睨み付けながら剣を収めた。

しかし男の勧める椅子に腰掛ける気はなさそうだ。


――まあ、ゴミになるよりゃあマシか。

この際、食ってくれるなら何でもいいさ。


そう思いながら、男はキッチンカーのステップを昇っていった。



     ◇



男はエプロンを身に付け、キッチンで手早く残り物のバーガーをレンチンし、

淹れ立てのコーヒー持って車の外に出て来た。


相変わらず女は突っ立ったままだったが、男が本当に食事の用意をしてくれたのを目の当たりにし、険しかった表情はすっかり緩んでいた。


「うちの店の余り物なんだが、それでよければ食えよ」


そう言って男は、女の目の前にバーガーとコーヒーの乗ったトレーを置いた。


くんくんと匂いを嗅ぎ、バーガーの包みを手に取ると、不思議そうに表にしたり裏にしたり、と眺めている。


「これは食べ物……なのか? どうやって食す? 肉の焼けた匂いはするが……」


男はバーガーを一つ手に取り、

「こうやって紙を広げて、両手で持って、かぶりつく! やってみ?」


「こう……か? あーむ……」


次の瞬間、バーガーが半分、女の口の中に消えた。


「ん、んん、んんん――――――ッ!?」


大きく目を見開いた女は、男に何かを訴えようとしていた。


だが言わずとも分かる。

旨かったのだ。


女はモリモリと咀嚼しゴクリと飲み込むと、またガブリとかじりついた。

そして、ものの三、四口でバーガーひとつを平らげてしまった。


「んー! んー! んー!」

「旨いか?」


うんうん、と頷きながらコーヒーの紙コップを掴んでぐいっと飲み干そうとした。

が――


「あうッ! あつ! あっあっ! げほげほげほ!」

「いきなり熱々のコーヒーを煽るやつがあるか。水持って来てやるから座ってろ」


涙目になりながらも座るのを拒否する女。

そこは抵抗するところなのか? と思いつつ、男はキッチンへ水を汲みに行った。


「ううう~~、うう~~~、けほ、ううう……」


男が車から降りてテーブルの上に水を入れた紙コップを置くと、

「ほれ、水だ。飲め。そして落ち着け」


女は若干むせながら、出された水をすべて飲み干すと、

「めんぼくない……」と申し訳なさそうに呟いた。


「いいから、座って食え」

「あ、ああ」


落ち着いた女は、ようやく椅子に腰掛けた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?