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第4話 ニポンの方から来た料理人

男たちが翼竜襲撃現場に戻ってみると、オッサンは奇跡的に無事だった。

横転した馬車は思いのほか傷は浅く、なんなら女がド突き回したダメージの方が大きかったくらいである。


「おーし、馬車起こすぞ~。せーの!」

男の号令で、一斉に倒れた馬車を四人で起こした。


最初は三人で起こそうとしたのだが、オッサンの重量のせいか車体が動かなかったのだ。そのためオッサンを馬車から引っ張り出し、作業を手伝わせたのだった。


「やはり人海戦術は正義だ」

起こした馬車を見ながら、男は腰に両手を当てて、ウンウンと満足そうにうなずいた。


「なにやり切った顔してるんだ。早くこの外道に質問しろ。そして旨いものを用意させろ」

女はオッサンが逃げ出さないよう、ロープで彼の両手首を縛っている。


「ああ、そうだな」

男はオッサンの前にウンコ座りをすると、質問を始めた。

「な、なんでも答える! だから殺さないでくれ! 聞きたいことは何じゃ?」

「まず一つ目。どうして俺がどこへ行こうとしたと尋ねたんだ?」


「それか。一目で異界人だと分かったが、こんな僻地に現れることはないのじゃ。それゆえ、何か特殊な用向きで参ったのではないかと思い、行先を尋ねたのじゃよ」


「それを聞いてどうするつもりだったんだ?」


「それは内容如何じゃな。わしの利となるなら手助けをし、障りとなるなら邪魔をしようと思っておった」


「わかりやしーな。ちなみに、異界人はどのくらい珍しいんだ? 異界人には何が出来る? 何故俺達はこの世界の人間に利用されるんだ?」

「そ、そんなにいっぺんに聞かれても困る。もしかして、……お主はこちらに来たばかり、なのか?」

「おお。右も左もわからねえ。だから聞いてる」

「貴様にこの男は渡さぬぞ、外道」

「姐さんはちょっと静かにして。オッサンが話しづらいでしょ」

「すまん」


(まってまって、渡さないってどういう意味だ? いや今はそれより――)


結局、オッサンも異界人のことはあまり詳しくなく、権力者なら皆欲しがるような力や知識、技術、あるいは神のギフトを持っているらしい、という程度の情報しか得られなかった。


しかし、ただのバーガー屋の店主でしかない男は、己にはそのような特殊な能力は何もないことを告げるが、オッサンは信用しなかった。


「たしかにこの男、料理は上手いが、他に取り柄などなかったぞ。期待して損したな、外道よ」あまり嬉しくないカンジの助け舟を出す女。


「じゃが、渡さぬと言っておったではないか! 何かあるのじゃろう?!」


「この男の料理をもっと食べたいだけだ。他意はない。そうだ、そのトカゲでも料理させてみればいい」


「え、ちょっと待ってくれよ。そいつ食ったことないし、どう調理すればいいか知らんぞ俺」


「え~、ダメなのか? やれるよな? な?」

女の頭は、既に焼けた肉のことで一杯のようだ。

「おめーが食いたいだけだろ、姐さんよ」

「お主、料理人だったのか」

「まあそうだけど。しかしトカゲなんてなあ。というかまだ生きてるじゃねえか。そいつ食っちまったら帰りはどうすんだよ」

「わしは歩くのは御免じゃ。他のものにならんか?」


トカゲ料理が遠のいたのが残念なのか、女がうなだれてしまった。


「そういや、オッサンはこれからどこに行くつもりだったんだい?」

「視察を終えて屋敷に戻るところじゃったよ」

「ここからどのくらいあるんだ」

「馬車で半日くらいかの。まあ牽き手が半分になってしまったから、もう少々かかるかもしれぬが……」

「じゃあ、これからオッサンちに行こうぜ。それなら食材もたっぷりあんだろ」

「え~……、まあ、そういうことなら、ついていってやる」


オッサンは激しく頭をシェイクしながら何度もうなずき、食材アピールをする。


「ほんじゃ、ゆっくり行きますかー。トカゲ君も一匹しかおらんからな」

「では先導します」と御者。オッサンはそそくさと馬車に乗り込んだ。

「姐さんは助手席な」

「?」


男は助手席のドアを開け、女に座るよう促したのだが。


「なんだここは、狭すぎる! 剣も引っかかってしまうじゃないか。他に乗れる場所はないのか?」

「しょうがねえなあ。じゃ、後ろはどうだ?」とキッチンの方を指差す男。

「あの乗り心地は最悪だ。断る!」却下らしい。


女は、ふ~~~む、と唸りながらキッチンカーを一回りすると、

「屋根がいい」


「上か? ……まあ、ゆっくり走るから、落ちはしないか。

じゃあ、気を付けて乗れよ」

「うむ」


女は上機嫌で、器用に荷台の屋根に上ると、ゴロリと大の字に寝転んだ。


「いやマジで落ちるなよ? 責任持たねえからな?」

「問題ない」

「やれやれ……、じゃあ御者さんよ、出発だ」


御者はうなずくと、トカゲにムチを入れた。

トカゲは、相棒がいなくなり重くなってしまった馬車を、ゆっくりと引っ張りはじめた。


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