目次
ブックマーク
応援する
122
コメント
シェア
通報

第36話 美咲はどうしてこんなにすごいの?


「自信があります」

美咲はきっぱりと答え、その目には確かな自信が宿っていた。

「よし、」省吾は頷いた。「手伝いが必要な時は、遠慮なく言ってくれ。」


廊下の角を曲がると、晴子が足早に歩いていた。田中が熱心に晴子の隣を歩く。

「鈴木先輩、佐藤さんと張り合うことなんてありませんよ。一番効果的に決まってます!」

田中は大学時代から晴子に好意を持ち続けていたが、晴子はなかなか心を開かなかった。今回研究室に入ったのも、彼女に近づくためだった。

晴子は足を止め、田中に微笑みかけた。

「じゃあ、手伝って。今回は絶対に、あの人に本当の実力を見せつけてやるんだから!」


美咲は実験室に入り、マスクをつけて低温保存庫からサンプルを取り出し、すぐに研究に没頭した。助手の小林金一が隣でサポートしている。

美咲の手つきは熟練しており、精密な機器を正確に操作しながら、実験データを一つひとつ丁寧に記録していく。小林金一はその様子を見て、心の中で驚きを隠せなかった。最初は美咲が「コネ入社」かと思い、期待していなかった。

しかし、彼女の鮮やかな手際やウイルスサンプルの観察、記録の速さと正確さを見て、思わず感心してしまった。


美咲は時間管理も完璧で、午後四時前にはサンプルの検査を終えた。振り返って小林に言う。

「小林くん、薬草の業者に連絡して。明日の午前十時までに、根付きのペイラン草を五キロ用意してほしいの。」

「了解です!すぐ手配します!」と小林は即答した。

美咲は時計を見て白衣を脱ぎ、掛けてから小林金一に声をかけた。

「私は先にあがるわ。君も五時までには帰っていいから。」


午後四時半、美咲は少し息を弾ませながら娘の幼稚園へ駆け込んだ。翔太が栞奈と姪のVivianと遊んでいる姿が見え、ほっとして近づいた。

「竹内さん、栞奈と一緒にいてくれてありがとうございます。」

「最近はずっと詩織さんが迎えに来てたよね。」と翔太。

「今日は私が来ました。」美咲は微笑んだ。

二人の女の子は五時過ぎまで名残惜しそうに遊び続けた。美咲は翔太に連絡先を尋ねた。

「竹内さん、よければ電話番号を教えていただけますか?今後の連絡もスムーズになりますし。」

翔太は快く番号を教えてくれた。


家に帰ると、栞奈が嬉しそうに跳ねながら言った。

「ママ!週末にVivianを家に呼んでいい?」

美咲は少し考えてから頷いた。「もちろん、いいわよ。」

「やったー!じゃあ約束ね!週末はVivianを呼ぶんだ!」

「でも一つだけ条件があるよ。」美咲は優しく笑った。

「Vivianのおじさん、竹内さんの許可をもらってからね。」

「絶対大丈夫!竹内おじちゃんならきっとOKしてくれるもん!」栞奈は自信たっぷりだ。

美咲も、娘の週末が少しでも楽しくなることを喜ばしく思った。


夕食時、健一から「一週間出張だ」とメッセージが届いた。

美咲は「わかった」とだけ簡単に返信した。

健一の仕事や今回の出張の内容について、美咲はもう興味もなければ、聞く気もなかった。

本当に出張なのか、あるいは夢乃と一緒にいるのか、どちらでもかまわない。

夜十一時頃、探偵からメッセージが届いた。

「佐藤様、ご主人は空港に向かい、例の“お友達”と一緒に出張されました。」

続いて四枚の写真が送られてきた。

健一がスーツケースを持ち、隣に夢乃の助手が大きなケースを押している。長旅の準備は万端だ。

最後の一枚には、夢乃が顔を上げて笑いながら話しかけ、健一も口元に笑みを浮かべていた。


翌朝、美咲は娘を送り出すとすぐに研究室へ向かった。

廊下で忙しそうな晴子と助手に出会う。彼女も実験に追われているようだった。

「佐藤さん、」晴子は立ち止まり、唇に皮肉な笑みを浮かべて言った。

「もう一度言っておくけど、ここは治療の場であって、家柄をひけらかす場所じゃないわ。あなたのお父様は確かに尊敬してる。でも、あなたが同じような人間になれるとは思えない。」

美咲は冷静に微笑んだ。「ご忠告ありがとう。」

「じゃあ、結果を見てみましょう。どっちが先に新薬を開発できるか、楽しみね。」晴子は高々と顎を上げて、ヒールの音を響かせながら去っていった。


美咲は実験室に戻ると、すぐに仕事に取りかかった。

届いたばかりのペイラン草の根を手に取り、成分の抽出を始めた。

二年前の研究中に、美咲はこの草のサンプルに触れていた。最終的に、彼女は根から「黄原素」と呼ばれる成分を発見した。それは球状ウイルスを素早く効果的に死滅させ、副作用も少ない、現時点で最も有効な即効薬だった。

ウイルスは国内ではまだ小規模だが、変異しやすく、放置すれば大きな流行になるおそれがある。

美咲は心から、このウイルスの拡大を食い止めたいと願っていた。


あっという間に三日が過ぎた。美咲は毎日娘の送り迎えを欠かさず、研究にも根気強く取り組んだ。四日目の朝、精製した薬液を活性ウイルスサンプルに滴下し、顕微鏡で観察した。

十数秒でウイルス群は凝集し、死滅した。

美咲はほっと息をつき、小林金一に声をかけた。

「小林くん、森川先輩を呼んできて。」

省吾はすぐに現れ、美咲の実験結果を見て目を見開いた。

「佐藤さん、あなたは本当に医学の天才だ!」

美咲は微笑んだ。

「森川先輩、私の研究はここまでです。あとはお任せします。」

「わかった!」省吾は即答した。

「すぐ製薬会社と連絡を取って、できるだけ早く患者さんに届けられるように手配する!」


午後の会議室で、省吾は美咲の成果を発表した。

晴子の顔は瞬時に青ざめ、机を激しく叩いた。


「そんなはずない!こんなに早く結果が出るなんてありえない!私の実験でもウイルスの半分しか死滅しなかったのに!」

「佐藤さん、本当のこと言ったら?その成果、どこからパクってきたの?薬が世に出る前に、僕たちが責任取らされるのはごめんだよ。」

美咲はまっすぐ田中を見据え、一言一言をはっきりと告げた。

「これは私自身の研究成果です。他人のものを盗んだり、真似したりは一切していません。」

「ペイラン草なんて、ただの雑草だよ。どうやってそんな効果を見つけたの?」晴子は食い下がった。

「本をたくさん読んで、研究を重ねた結果よ」美咲は落ち着いて答えた。

それはまるで、ありふれた日常の話のようだった。


省吾は厳しい表情で全員を見渡し、最後に晴子に言った。

「鈴木!嫉妬はよくない。佐藤さんの実験と手順は全て検証済みで、信頼できるものだ。君たちの研究にも価値があるが、それで佐藤さんの成功を否定してはいけない!」

晴子は黙り込んだが、握りしめた拳が悔しさを物語っていた。

どうして美咲だけ、こんなにも運がいいのか。

膨大な薬草の中から、たった一つ新型ウイルスに効く成分を見つけ出すなんて、不可能に近いはずなのに。

会議が終わると、晴子はすぐに自分の実験室へ駆け込んだ。

美咲が発表した通りに薬液を抽出し、顕微鏡でその即効性を目の当たりにした晴子は、驚きのあまり椅子に崩れ落ち、しばらく立ち上がれなかった。


どうしてこんなことが…?

美咲…どうしてこんなにすごいの?

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?