雪菜の言葉は、弘一の脳内で炸裂した。
「私……ずっと弘一兄ちゃんのこと、好きだったんだよ」
彼女の声は小さかったが、弘一にははっきりと聞こえた。
——ピロリン!
【羞恥ポイント+30(雪菜・告白)】
【羞恥ゲージ:50】
弘一は口を開いたが、何と言えばいいかわからなかった。
「雪菜、お前……」
「きゃー! みんな見て! 弘一兄ちゃん照れてる!」
雪菜が突然くすくすと笑い、振り返って友人たちに叫んだ。
「ほらね、絶対に顔赤くなるって思ったもん!」
弘一はきょとんとした。
「えっ?」
「冗談だよ~!」
雪菜はぺろっと舌を出す。
「成人のお祝いパーティーの“本音か罰ゲーム”の罰ゲームだもん! 私は罰ゲームを選んだんだよ!」
彼女はスマホをひらひらさせた。
画面にはLINEグループのチャットが表示されていた。
【罰ゲーム:その場にいる一番年上の男性に告白!】
弘一はようやく事態を飲み込み、ほっと胸をなでおろした……
が、心のどこかで妙に寂しさを感じた。
「お前ってやつは……」
彼は額に手を当て、ため息をついた。
「ビックリするじゃないか」
「えへへ、弘一兄ちゃんの反応、おもしろ~い!」
雪菜は笑いながら彼の腕を引き、「さあさあ、私の友達紹介するよ!」と席に連れていった。
弘一は若者の集団の中に放り込まれ、一瞬で注目の的となった。
「この人が雪菜がよく話してた“弘一兄ちゃん”かぁ?」
金髪の男の子が彼を上から下までじろじろと見て言った。
「うわ、本当に言ってた通り、オジサンじゃん!」
「誰がオジサンだ!」
弘一は思わずツッコんだ。
「アハハ!反応もオジサンっぽい!」
別の女子が笑った。
まるで嘲笑の中心にいるような気分だった。
——ピロリン!
【羞恥ゲージ+10(雪菜の友達・からかい)】
【羞恥ゲージ:60】
「……この程度でも羞恥ゲージが加算されるのか?」
弘一の中で何かがひらめいた。
「ってことは、雪菜の関係者からの辱めもカウントされるってことか……」
彼はある大胆な計画を思いついた。
「こほん!」
弘一は咳払いして立ち上がった。
「せっかくみんながこんなに歓迎してくれるなら、遠慮は無用だな!」
彼は卓上の日本酒瓶を手に取ると、ラッパ飲みし、芝居がかった調子で叫んだ。
「いや~、最近の若い子たちは元気だなぁ~! こんな賑やかなパーティー久しぶりだよ!」
「わぁ! 弘一兄ちゃん、ワイルド!」
雪菜が目を丸くする。
「オジサン、何不良ぶってんの!」
金髪の男の子がテーブルを叩いて大笑いした。
弘一はそのまま“油っぽいオジサン”を演じて踊り出し、流行のアイドルポーズまで披露して、場内は爆笑の渦に。
——ピロリン!ピロリン!ピロリン!
【羞恥ポイント+15(雪菜の友達・嘲笑)】
【羞恥ポイント+20(人前で恥)】
【羞恥ゲージ:95】
「よし……!」
弘一は心の中でガッツポーズしたが、傍から見ると酔っぱらっていた。
「弘一兄ちゃん、大丈夫?」
雪菜が心配そうに彼を支える。
「飲みすぎだよ……」
「へ、平気平気! オジサンは、酒には強いんだよ!」
「うそつき! 顔真っ赤だし!」
雪菜はぶつぶつ言いながら、水を手渡した。
弘一が水を受け取ったそのとき、雪菜の顔がふと目に入る。その瞳は、どこか複雑な感情を宿していた。
心配、だけじゃない……もっと柔らかく、優しい何かが。
「……気のせいか?」
弘一は心の中でつぶやいた。
そのとき、金髪の男子が突然提案した。
「知識王クイズやろうぜ! 負けたやつは超苦いドリンク一気飲みの罰な!」
「いいね!」
一同が賛成する。
弘一は断ろうとしたが、雪菜が腕を引いた。
「弘一兄ちゃんも参加して! 面白そうでしょ!」
「いや、オレはちょっと……」
「だーめ! 成人式の主役の要求は絶対なんだから!」
雪菜が腕を組んで仁王立ちした。
弘一は仕方なく参加することに。
クイズの出題はバラエティに富んでおり、流行カルチャーからマニアックな歴史までさまざま。
弘一は若者のペースについていけず、あっという間に脱落寸前に追い込まれてしまう。
「ラスト!」
金髪の男子がニヤニヤしながらカードを取り出した。
「『ラブライブ!サンシャイン!!』、高海千歌の声優は誰?」
「……は?」
「ハハハ!やっぱオジサンにはムリだろ!」
「ちょっとこの問題、マニアックすぎない?」
雪菜が抗議する。
「でも勝負だからね!」
金髪の男は“罰ゲームドリンク”を振って見せる。
それは黒く濁った、何とも言えない匂いのする液体だった。
弘一はごくりと唾を飲み込んだ。
「こ、これは……?」
「特製!ゴーヤ+ブラックコーヒー+レモン汁+ワサビ!」
「いや、これ体に悪影響あるだろ!」
一同から爆笑が湧き上がる。
だが次の瞬間、弘一の脳裏にひらめきが走った。
「システム、『瞬間記憶力』を交換!」
【交換:瞬間記憶力(10分間/50ポイント)】
【羞恥ゲージ:45】
一瞬で、彼の脳内が清涼なエネルギーで満たされたように感じた。
さっきまでの問題と答えがすべて鮮明に脳裏に浮かぶ。
「待ってくれ!」
弘一は手を挙げた。
「もう一回だけチャンスをくれ!」
「え、大人なのに諦め悪っ!」
「いや、でも面白そうじゃん!」
「条件付きだ」
弘一は指をさして言う。
「もし俺が正解したら……お前が飲め」
「……おもしれー!」
金髪の男子は再びカードを引いた。
「じゃあいくぜ!『日本戦国時代で、織田信長が桶狭間の戦いで討ち取った敵将は誰?』」
弘一はニヤリと口元を緩めた。
「今川義元」
場が一瞬静まり返った。
「……正解」
「次の問題を出してくれ!」
勢いに乗った弘一がそそくさに。
その後の10分間、彼は完全にチート状態。
どんなマニアックな問題でも即答。
「うそだろ!オジサンなのに強すぎ!」
「カンニングだ!絶対チートじゃねえか!」
弘一は余裕の態度で足を組む。
「さて、約束通り罰を受けてもらおうかな?」
金髪の男は顔をしかめながら、鼻をつまんで“罰ゲームドリンク”を飲み干した。
その瞬間、顔が真っ青になり、トイレへ猛ダッシュ。
「アッハハハハ!!」
会場中が大爆笑に包まれた。
雪菜は目を輝かせながら言った。
「弘一兄ちゃんすごい! あんなに知識あるなんて!」
弘一は後頭部をかきながら笑った。
「いやぁ……まあ、ちょっと変な本読むのが趣味でさ」
——ピロリン!
【羞恥ゲージ+20(雪菜・尊敬)】
【現在の羞恥ゲージ:65】
「ん? 尊敬でも羞恥値が上がるのか?」
弘一は驚く。
システムは、彼が“ズルをして得た尊敬”に、微妙な罪悪感(羞恥)を感じたのを察知したらしい。
パーティーが終わった後。
雪菜は「駅まで送る!」と言ってきかなかった。
夜風が少し肌寒く、街灯の下で雪菜のブレスレットがキラリと光る。
「弘一兄ちゃん、今日はありがとう」
突然、彼女がぽつりと言った。
「何が?」
「パーティーに付き合ってくれて」
雪菜は小さく笑った。
「さっきの……あれ、ゲームだけど、言ったのはほ……」
声がだんだん小さくなって最後が聞き取れないが、弘一の心臓がドクンと跳ねた。
「……なーんてね!」
雪菜が急にくるっと回って、ぴょんと跳ねてみせた。
「弘一兄ちゃん、ほんとにピュアなんだからー!」
悪戯な表情を浮かべて舌をペロッと出す雪菜。
弘一はその後ろ姿を黙って見つめる。
心の中は、なんとも言えない複雑な感情で満たされていた。
「この子……いったい、どこまでが本気なんだ……」
——ピロリン!
【羞恥ポイント+15(曖昧な態度)】
【羞恥ゲージ:80】
弘一は静かにため息をついて、駅へと歩き出した。
「……どうやら、このシステム、思ってた以上に厄介かもしれんな」