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第3話 甘い罠

雪菜の言葉は、弘一の脳内で炸裂した。

「私……ずっと弘一兄ちゃんのこと、好きだったんだよ」


彼女の声は小さかったが、弘一にははっきりと聞こえた。


——ピロリン!


【羞恥ポイント+30(雪菜・告白)】


【羞恥ゲージ:50】


弘一は口を開いたが、何と言えばいいかわからなかった。


「雪菜、お前……」


「きゃー! みんな見て! 弘一兄ちゃん照れてる!」


雪菜が突然くすくすと笑い、振り返って友人たちに叫んだ。


「ほらね、絶対に顔赤くなるって思ったもん!」


弘一はきょとんとした。


「えっ?」


「冗談だよ~!」


雪菜はぺろっと舌を出す。


「成人のお祝いパーティーの“本音か罰ゲーム”の罰ゲームだもん! 私は罰ゲームを選んだんだよ!」


彼女はスマホをひらひらさせた。


画面にはLINEグループのチャットが表示されていた。


【罰ゲーム:その場にいる一番年上の男性に告白!】


弘一はようやく事態を飲み込み、ほっと胸をなでおろした……


が、心のどこかで妙に寂しさを感じた。


「お前ってやつは……」

彼は額に手を当て、ため息をついた。


「ビックリするじゃないか」


「えへへ、弘一兄ちゃんの反応、おもしろ~い!」


雪菜は笑いながら彼の腕を引き、「さあさあ、私の友達紹介するよ!」と席に連れていった。


弘一は若者の集団の中に放り込まれ、一瞬で注目の的となった。


「この人が雪菜がよく話してた“弘一兄ちゃん”かぁ?」


金髪の男の子が彼を上から下までじろじろと見て言った。


「うわ、本当に言ってた通り、オジサンじゃん!」


「誰がオジサンだ!」


弘一は思わずツッコんだ。


「アハハ!反応もオジサンっぽい!」

別の女子が笑った。


まるで嘲笑の中心にいるような気分だった。


——ピロリン!


【羞恥ゲージ+10(雪菜の友達・からかい)】


【羞恥ゲージ:60】


「……この程度でも羞恥ゲージが加算されるのか?」


弘一の中で何かがひらめいた。


「ってことは、雪菜の関係者からの辱めもカウントされるってことか……」


彼はある大胆な計画を思いついた。


「こほん!」


弘一は咳払いして立ち上がった。


「せっかくみんながこんなに歓迎してくれるなら、遠慮は無用だな!」


彼は卓上の日本酒瓶を手に取ると、ラッパ飲みし、芝居がかった調子で叫んだ。


「いや~、最近の若い子たちは元気だなぁ~! こんな賑やかなパーティー久しぶりだよ!」


「わぁ! 弘一兄ちゃん、ワイルド!」


雪菜が目を丸くする。


「オジサン、何不良ぶってんの!」


金髪の男の子がテーブルを叩いて大笑いした。


弘一はそのまま“油っぽいオジサン”を演じて踊り出し、流行のアイドルポーズまで披露して、場内は爆笑の渦に。


——ピロリン!ピロリン!ピロリン!


【羞恥ポイント+15(雪菜の友達・嘲笑)】


【羞恥ポイント+20(人前で恥)】


【羞恥ゲージ:95】


「よし……!」


弘一は心の中でガッツポーズしたが、傍から見ると酔っぱらっていた。


「弘一兄ちゃん、大丈夫?」


雪菜が心配そうに彼を支える。


「飲みすぎだよ……」


「へ、平気平気! オジサンは、酒には強いんだよ!」


「うそつき! 顔真っ赤だし!」


雪菜はぶつぶつ言いながら、水を手渡した。


弘一が水を受け取ったそのとき、雪菜の顔がふと目に入る。その瞳は、どこか複雑な感情を宿していた。


心配、だけじゃない……もっと柔らかく、優しい何かが。


「……気のせいか?」


弘一は心の中でつぶやいた。


そのとき、金髪の男子が突然提案した。


「知識王クイズやろうぜ! 負けたやつは超苦いドリンク一気飲みの罰な!」


「いいね!」


一同が賛成する。


弘一は断ろうとしたが、雪菜が腕を引いた。


「弘一兄ちゃんも参加して! 面白そうでしょ!」


「いや、オレはちょっと……」


「だーめ! 成人式の主役の要求は絶対なんだから!」


雪菜が腕を組んで仁王立ちした。


弘一は仕方なく参加することに。


クイズの出題はバラエティに富んでおり、流行カルチャーからマニアックな歴史までさまざま。


弘一は若者のペースについていけず、あっという間に脱落寸前に追い込まれてしまう。


「ラスト!」


金髪の男子がニヤニヤしながらカードを取り出した。


「『ラブライブ!サンシャイン!!』、高海千歌の声優は誰?」



「……は?」


「ハハハ!やっぱオジサンにはムリだろ!」


「ちょっとこの問題、マニアックすぎない?」


雪菜が抗議する。


「でも勝負だからね!」


金髪の男は“罰ゲームドリンク”を振って見せる。


それは黒く濁った、何とも言えない匂いのする液体だった。


弘一はごくりと唾を飲み込んだ。


「こ、これは……?」


「特製!ゴーヤ+ブラックコーヒー+レモン汁+ワサビ!」


「いや、これ体に悪影響あるだろ!」


一同から爆笑が湧き上がる。


だが次の瞬間、弘一の脳裏にひらめきが走った。


「システム、『瞬間記憶力』を交換!」


【交換:瞬間記憶力(10分間/50ポイント)】


【羞恥ゲージ:45】


一瞬で、彼の脳内が清涼なエネルギーで満たされたように感じた。


さっきまでの問題と答えがすべて鮮明に脳裏に浮かぶ。


「待ってくれ!」

弘一は手を挙げた。


「もう一回だけチャンスをくれ!」


「え、大人なのに諦め悪っ!」


「いや、でも面白そうじゃん!」


「条件付きだ」

弘一は指をさして言う。


「もし俺が正解したら……お前が飲め」


「……おもしれー!」


金髪の男子は再びカードを引いた。


「じゃあいくぜ!『日本戦国時代で、織田信長が桶狭間の戦いで討ち取った敵将は誰?』」


弘一はニヤリと口元を緩めた。

「今川義元」


場が一瞬静まり返った。

「……正解」


「次の問題を出してくれ!」


勢いに乗った弘一がそそくさに。


その後の10分間、彼は完全にチート状態。


どんなマニアックな問題でも即答。


「うそだろ!オジサンなのに強すぎ!」


「カンニングだ!絶対チートじゃねえか!」


弘一は余裕の態度で足を組む。


「さて、約束通り罰を受けてもらおうかな?」


金髪の男は顔をしかめながら、鼻をつまんで“罰ゲームドリンク”を飲み干した。


その瞬間、顔が真っ青になり、トイレへ猛ダッシュ。


「アッハハハハ!!」


会場中が大爆笑に包まれた。


雪菜は目を輝かせながら言った。


「弘一兄ちゃんすごい! あんなに知識あるなんて!」


弘一は後頭部をかきながら笑った。


「いやぁ……まあ、ちょっと変な本読むのが趣味でさ」

——ピロリン!


【羞恥ゲージ+20(雪菜・尊敬)】


【現在の羞恥ゲージ:65】


「ん? 尊敬でも羞恥値が上がるのか?」


弘一は驚く。


システムは、彼が“ズルをして得た尊敬”に、微妙な罪悪感(羞恥)を感じたのを察知したらしい。


パーティーが終わった後。


雪菜は「駅まで送る!」と言ってきかなかった。


夜風が少し肌寒く、街灯の下で雪菜のブレスレットがキラリと光る。


「弘一兄ちゃん、今日はありがとう」


突然、彼女がぽつりと言った。


「何が?」


「パーティーに付き合ってくれて」


雪菜は小さく笑った。


「さっきの……あれ、ゲームだけど、言ったのはほ……」


声がだんだん小さくなって最後が聞き取れないが、弘一の心臓がドクンと跳ねた。


「……なーんてね!」


雪菜が急にくるっと回って、ぴょんと跳ねてみせた。


「弘一兄ちゃん、ほんとにピュアなんだからー!」


悪戯な表情を浮かべて舌をペロッと出す雪菜。


弘一はその後ろ姿を黙って見つめる。


心の中は、なんとも言えない複雑な感情で満たされていた。


「この子……いったい、どこまでが本気なんだ……」


——ピロリン!


【羞恥ポイント+15(曖昧な態度)】


【羞恥ゲージ:80】


弘一は静かにため息をついて、駅へと歩き出した。


「……どうやら、このシステム、思ってた以上に厄介かもしれんな」

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