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第5話 再会と羞恥


金曜の夜、新宿・歌舞伎町のネオンが街を幻想的な色彩に染めていた。


弘一は「Luna」という名の高級バーの前に立ち、ネクタイの締まりを調整していた。


「ここで間違いないはず……」


同僚から得た“確実な”情報によると、九条琉璃は毎週金曜の退勤後、このバーで軽く一杯やるのが常だった。さらなる“恥辱値”を稼ぐため、弘一は自ら動くことを決意した。


深く息を吸い込み、ドアを押して店内へ入る。


バーの内装は控えめながらも豪華で、暗い金色の照明が濃い茶色の木製カウンターを照らし、ジャズが柔らかく流れていた。


弘一の視線は、すぐに隅の席にいるある人影に釘付けになった。


琉璃はひとり、ボックス席に座っていた。


細い指でクリスタルグラスをつまみ、琥珀色のウイスキーがライトの中で揺れていた。


今日は珍しく髪を下ろしており、黒いシルクのシャツの襟元はボタンが2つ外され、白い鎖骨がのぞいている。


(昼間の印象とまるで違う……)


弘一はごくりと唾を飲み込み、作戦を決行することにした。


わざとふらつきながらカウンターへ向かい、大きな声でバーテンダーに言った。


「い、いちばん強い酒をくれ!」


バーテンダーは眉をひそめた。


「お客様、酔ってらっしゃるですか?」


「何言ってんだ!まだ飲んですらないっての!」


弘一はわざと声を張り、客たちの注目を集めた。


「オレは千杯飲んでも酔わない男だぞ、げっ……!」


わざとゲップをするふりをして、ふらつきながら振り返ると、まるで偶然見つけたように琉璃を見つめた。


「うわっ!すげー美人が一人?」


「オレと一杯どう?」


軽薄な口調で話しかけると、琉璃はゆっくりと顔を上げた。


その目は、凍土のように冷たかった。


「近藤」


小さな声だったが、その瞬間、周囲の空気が一気に冷えた。


弘一はまるで今気づいたように大げさに一歩下がった。


「あっ!ぶ、部長!?なんでここに……」


「演技は楽しかったか?」


グラスを置き、琉璃が立ち上がる。


ヒールを履いた彼女は弘一よりも半頭身ほど高く、見下ろすようなその圧力に、弘一は思わず首をすくめた。


「ま、間違えました!」


逃げようと背を向けた瞬間――


「止まりなさい」


体が固まった。


琉璃の足音が、乾いたヒール音を地に刻みながら迫ってくる。まるで終焉を告げる鐘のように、ひとつ、またひとつと響いた。


「私の前でわざと酔ったふり?」


指先が弘一の首筋をなぞる。


「昼間の罰じゃ足りないのかしら」


背中を冷汗が伝う。


(バレていた!?)


そのとき、バーテンダーが透明の飲み物を持ってきた。


「お客様、特製カクテルです」


琉璃はそれを受け取り、唇の端に危うい笑みを浮かべた。


「近藤」


「は、はいっ!」


「こっちを向いて、私を見なさい。」


弘一は震える手で向き直った。次の瞬間――


ばしゃっ!


グラスの中身が顔にぶちまけられた。


「目、覚めた?」


口元をなめてみると、それは酒ではなく氷水だった。


(酒じゃなくて水!?)


周囲の客たちがクスクスと笑い、何人かはスマホを取り出して撮影を始めた。


――ピロリン!


「恥辱ポイント+80(人前で水をかけられる)」

「恥辱ポイント+50(九条琉璃・羞辱)」

「恥辱ゲージ:430」


弘一は心の中でガッツポーズをしたが、さらに情けない顔を装う。


「す、すみませんでしたぁ!」


琉璃は財布から一万円札を数枚取り出してカウンターに置き、コートを手に入口へ向かった。


すれ違いざま、声を潜めてささやいた。


「次にこんな茶番やったら――」


ヒールの先が弘一の足をやや強めに踏みつけた。


「ベルトで縛って、街を這わせるわよ」


(……悪魔か!?)


琉璃が去った後、バーテンダーがタオルを差し出してきた。


「大丈夫ですか?」


「だ、大丈夫です……」


顔を拭いている時、弘一はポケットに何かが入っていることに気づいた。


紙切れだ。一行だけ、丁寧な筆跡でこう書かれていた。


「午前1時、裏路地で」


――


午前0時50分、弘一は裏路地の影に身を潜め、何度も時間を確認していた。


(行くべきか?)


(罠だったら?)


(でも羞恥チャンスかもしれない……)


葛藤していると、どこかで嗅いだ香水の香りが鼻をくすぐった。


「時間を守るのは褒めてあげるわ」


琉璃が闇の中から現れた。


月光が彼女の輪郭を妖艶に浮かび上がらせていた。彼女は紙袋を手渡した。


「着なさい」


中を覗くと、メイド服だった。


「えっ!?」


「三分」


彼女はスマホのタイマーをセットした。


「遅れたら、今年のボーナス減らすから」


(なにこの展開!?)


――ピロリン!


「極限羞辱イベントを検出」


「予想恥辱ポイント:300点以上」


(やるしかない!)


ゴミ箱の裏で素早く着替える。黒いレースのスカートはギリギリ太ももを隠し、白いエプロンが呼吸を妨げ、ヘッドドレスは歪んでいた。


「じ、時間よ!」


琉璃は弘一を見て、目を細めた。


「……意外と似合うわね」


カシャ。フラッシュが焚かれ、思わず顔を隠した。


「さすがに!これはひどいですって!」


琉璃はスマホの画面を見つめながら、ふと弘一の顎を指先でつまんだ。


「わかる?今の顔――」


そして囁くように、甘く冷ややかに耳元で言った。


「昼間、地面を這ってた時より……ずっと可愛げがあるわ」


顔が一気に真っ赤になる。


――ピロリン!ピロリン!ピロリン!


「恥辱ポイント+200(女装)」


「恥辱ポイント+100(撮影される)」


「特殊実績解放:課長のプライベートコレクション」


「恥辱ゲージ:730」


足がガクガクして立てなくなりそうだった。


(恥ずかしすぎる……)


琉璃は名刺を彼のエプロンのポケットに差し込んだ。


「日曜の朝10時、この住所へ来なさい」


高級クラブのVIPカードだった。


「これは……」


「遅刻したら――」


彼女の指が弘一の胸元を撫で、意味ありげな笑みを浮かべて夜に溶けていった。


弘一は裏路地にへたり込み、心臓がはち切れそうなほどバクバクしていた。


(狙われてる……?)


(それとも、ラッキーなのか……?)


手を震わせながらシステム画面を開くと、恥辱ポイントは潤沢にあった。


「交換:軽度回復(酔い解除/50)」


「交換:透視能力アップグレード(3時間/300)」


「恥辱ゲージ:380」

全身に力が満ちるのを感じ、弘一は深く息を吐いた。


(この先どうなる……)


(いや、ちょっとは楽しみかも?)



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