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第6話 学園祭「パンツかぶり」事件

土曜の朝。


弘一はLINEの通知の嵐に呼び起こされた。


「弘一兄ちゃん!今日は私たちの大学の学園祭だよ!絶対に来てね!」


「タイムテーブル送ったよ!午後2時からうちのクラスの舞台劇あるから!」


「来なかったら会社の前で抗議するからね!(╯°□°)╯︵ ┻━┻」


差出人:雪菜。


弘一はこめかみを揉んだ。


昨夜の女装事件の衝撃がまだ尾を引いているというのに、今度は元気全開の雪菜を相手にしなければならない。


(とはいえ……学園祭はポイント稼ぎの好機かもな)


彼は「OK」のスタンプを返し、ついでに交換画面を開いた。


「羞恥ゲージ:380」


(節約して使わないと……)


雪菜の大学キャンパスは装飾で賑わい、コスプレ姿の学生があちこちを歩いていた。


弘一はカジュアルなシャツにジーンズ姿で、まるで場違いな空気を漂わせていた。


「お兄ちゃん!こっちー!」


遠くから雪菜が駆け寄ってくる。


今日はメイド服姿で、ツインテールが跳ねるように揺れていた。


弘一が反応する間もなく、彼女は勢いよく腕に抱きついてきた。


「わぁ~!これが雪菜が言ってた“お兄ちゃん”?」


何人かの女子が寄ってきて、興味津々の眼差しを向けてきた。

「思ったより若いじゃん!」

「でもやっぱオジサンだね~」


――ピロリン!


「羞恥値+15(若い女子にイジられる)」


弘一はぎこちなく笑って会釈したが、雪菜は突然背伸びして耳元で囁いた。


「実は……あとでちょっとお願いがあるの」


その吐息が耳たぶをかすめ、弘一はピクリと体を強張らせた。


「な、なんのお願い?」


雪菜はいたずらっぽくウィンクした。


「まずは私たちの劇を見てから~!」



講堂は満席だった。雪菜のクラスの演目はアレンジ版『ロミオとジュリエット』で、彼女はジュリエット役。


ロミオ役は背の高いイケメン男子だった。


その“ロミオ”が片膝をついて雪菜の手にキスをするシーンで、弘一の胸にモヤモヤとした違和感が湧く。


(なんだこの感じ……)


公演後、舞台から駆け寄ってきた雪菜は嬉しそうだった。


「どうだった、お兄ちゃん!私の演技!」


「……よかったよ」

弘一は目を逸らしながら答えた。


「あの男は誰だ?」


「翔太くん?うちの学科の王子様だよ!」


雪菜は首を傾げてにやりと笑う。


「もしかして……ヤキモチ?」


「バ、バカ言え!」

声が裏返った。


雪菜は近づいてきて、まつげが数えられそうなほどの距離で言った。

「うそつき~。耳が真っ赤だよ?」


――ピロリン!


「羞恥ポイント+20(図星を突かれる)」


言い返そうとしたそのとき、数人の女の子が近づいてきた。

「雪菜~!罰ゲームの時間だよ!」


「え?ちょ、待って――」


女子たちは紙袋を押し付け、中からはピンクのレースのパンツがひらり。


「負けたら“パンツかぶり”が罰ゲームってルールでしょ!」


弘一は呆然とした。


「今の大学生ってそんなに大胆で破廉恥な罰ゲームをやるのか!?」


雪菜は顔を真っ赤にして足踏みした。


「ダメ!お兄ちゃんの前では絶対無理っ!」


金髪の女子がニヤリと弘一を見た。


「じゃあ~、代わりに“おじさん”がやってくれてもOKだよ?」


その場が静まり返る。全員の視線が弘一に集中した。


(きた!チャンス!)


彼は息を吸い込み、パンツをひったくった。


「俺がやる!」


「ええーっ?!」

雪菜が絶叫する。


歓声と拍手の中、弘一は女物のパンツを頭にかぶる。ちょうどレースの縁が目の上にフィットした。


「わあ~~!」


「意外と似合う~!」


「写真撮る!」


フラッシュが連続でたかれ、レース越しに見えたのは顔を覆う雪菜――だが指の隙間からしっかり覗いていた。


――ピロリン!ピロリン!ピロリン!


「羞恥ポイント+150(極限の羞恥プレイ)」


「特殊実績解除:キャンパスの伝説」


「羞恥ゲージ:565」


弘一は笑いをこらえつつ、悶絶するような演技で言った。


「も、もう勘弁してくれぇ~!」


「まだまだこれから!」


女子たちはさらにパンツを取り出した。


次はランウェイね!」


弘一の視界が真っ暗になった。


(やりすぎたか!?)


30分後、彼は5枚の異なるデザインのパンツをかぶってランウェイを完走。すでに脱力状態。雪菜はずっと物陰に隠れていたが、耳まで真っ赤だった。


「お兄ちゃん……」

終わったあと、彼女は駆け寄ってきてミネラルウォーターを差し出した。


「ごめん……あんなことになるなんて思わなかった……」


弘一は手を振って受け取り、ふと画面に気づく。


「雪菜の感情変動が激しいため、ボーナス+50」


「羞恥ゲージ:615」


(当人の反応も加点対象か……)


考え込んでいると、雪菜が弘一の裾をつまむ。


「えっと……さっき言ってたお願いなんだけど……」


「ん?」


雪菜は指をいじりながら言った。


「明日……一緒に行ってくれないかな」


「どこに?」


「えっと、その……」

声がどんどん小さくなる。


「成人式の振袖の試着……」

弘一は水を盛大に吹き出した。


「はあ!?」

雪菜は潤んだ目で言う。


「ママは出張中で、パパはセンスないし……お兄ちゃんしか頼れないの……」

その純粋すぎる視線に、弘一は一瞬言葉を失った。


(わかってて誘ってんのか、この子……)


――ピロリン!


「羞恥ポイント+30(モラルジレンマ)」


弘一はため息をついた。


「……何時だ?」


雪菜はパッと笑顔になった。


「午前10時!駅でね!」


そして、つま先立ちで弘一の頬にキスをして、慌てたように逃げていった。


弘一はその場で固まり、頬に残る柔らかい感触に心臓がバクバクしていた。

(……わざとだよな、絶対)


帰り道。弘一はシステムで今日の成果を確認。


「交換:映像記憶(永久/500)」


「羞恥ゲージ:115」


情報が一気に頭に流れ込む。


弘一はふと、琉璃からもらったVIPカードのことを思い出した。


(明日の夜、クラブの約束もあるんだった……)


(……まいった、忙しすぎる)



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