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目覚めた公爵令嬢は、悪事を許しません
目覚めた公爵令嬢は、悪事を許しません
さち姫
異世界ファンタジー冒険・バトル
2025年07月18日
公開日
2,921字
連載中
公爵の娘として生まれた私は、この国の第1王子ガナッシュ殿下と幼い時から婚約が決まっていた。 政略結婚でありながらも私ははのことが好きだった。 だが、殿下は乳母の孫であるレインを溺愛していた。 ことある事に殿下はレインの肩を持ち、私のの言う事を全く聞いてくれなかった。 そんな中帝国より留学できている皇子様、皇女様と私は仲良くなった。 殿下。私は幾つも、忠告をして参りました。それなのにレインを望まれるのです。 いいんです。もう、疲れました。 私は少し自由に生きてみたいと思います。 それがこんな事になるなんて思ってなかったでしょうね。 私の仲間たちとの 事件解決? 陰謀解決? ともかく、 私は、 悪事許しません。

第1話 ご一緒に帰りませんか?

「殿下、最近ご一緒に帰っておりません。今日はお忙しいですか?」

放課後急いで教室を出ようとする殿下に声をかけ、引き止めた。

「そうか? 卒業パーティーの準備で忙しいんだ」

明らかに嫌そうに私を見ると、ため息を出した。

「でも、生徒会の仕事はもう終わってましたよね? 3年生はもう何もすることはないと聞きました」

帰ろうとする殿下の袖を少しだけ掴むと、嫌がる素振りを見せた時に声がした。

「ガナッシュ! ごめん遅くなったわ。あら、スティングも帰る所?」

楽しそうな声と共に、殿下の腕に絡みながら、私の顔を見る。

ぐっと胸が痛くなる。

「レイン嬢。殿下を学園内で呼び捨てで呼ぶのは失礼にあたりますとお伝えしましたよね?」

「ええ? だってガナッシュがいいって言ったもん。ねえ?」

甘える声に殿下はレイン嬢に微笑み、私には鋭い瞳を向けた。

「そうだ。私が許しているんだ。だが、レイン。もう少し小さな声で名前を呼ぶんだ。2人きりの時にと言っただろ?」

まるで恋人にでも言うような、いさめ方で囁いた。

2人きり?

私が婚約者であるのに、そんな事を他の女性に言うのですか?

私には1度も呼び捨てで呼ぶことを許しもせず、そんな顔も見せたことがない。

「だってえ、ガナッシュはガナッシュでしょう? そんな面倒なこと出来ないよ。スティングが硬すぎるだよ。だって私達、生まれた時から一緒にいるんだよ。スティングよりもずぅぅぅぅっと仲良いのに、無理だよ、ねえ?」

この方は、無邪気な声にいつも剣を隠し、私の胸を突いてくる。

「レイン嬢。前々から私の名も呼び捨てはおやめ下さいと忠告しております。周りに示しがつきません。」

「スティングは硬すぎるよ。」

「お前、レインをまた平民だと馬鹿にしているんだろ。」

さすがに廊下で声を荒らげることはされなかったが、殿下は威圧のある声で私にぶつけた。

「いいえ、殿下。私はそのような事を口にしたことはありません」

「そんなにお前は平民を馬鹿にしたいのか? 自分が公爵だからと言って高飛車なのだ。恥を知れ。レインは私の幼なじみ。そのレインを使って平民を馬鹿にするのはよせ」

「違います。私は平民を馬鹿にした事も、見下した事もありません。ですが、殿下を呼び捨てで呼ぶ事も、私を呼び捨てで呼ぶ事が出来る人間はひと握りでございます。その方とレイン嬢が同等に見られるのは、殿下にとっても差し障りが出て参ります」

「そ、それはそうだが・・・」

何故そんなに困惑した顔になるの?

考えればすぐに分かる事よ。

平民を馬鹿にする訳ではないが、平民のレインをそこまで特別扱いしてはいけないのよ。

「なによぉ。じゃあ私が、殿下、と呼ぶの? ガナッシュは、それがいいの?」

「それは嫌だ」

違うでしょ?

嫌だとかの問題ではないのよ。

もっと立場を考えて下さい、と言っているのよ。そんな難しいことではないわ。

レインにも幾度も注意しているのに、理解して貰えない。

「だよねえ。だってさあ、ガナッシュとスティングは結婚するんでしょ? 貴族だもんね。貴族には教育とか立場とか色々あるんだろうけど、私関係ないもん」

違うわ。

あなたがいるから殿下の評価が落ちていくのよ。

私は、

私の殿下を、

大切にしたいのよ!

「やだなあ、顔、怖いよ。ねえ、帰ろうよ。今日は花屋によってくれる約束でしょ?」

殿下、卒業式の準備、と言われましたよね?

「ああ。そうだったな、レイン」

殿下、約束されているのですか?

「はあ、お前と言う奴は何故そんなに心が狭いんだ。レインのように優しくなれないのか?」

ちっ、と私に舌打ちしたが、直ぐに柔らかな顔になり、レインを見た。

私の心がせまい?

私はこれ程までに殿下の事だけを想っているのに。

「もう、スティングを怒っちゃダメだよ。もともと心の狭い人なんだから」

からかうつもりもなく、当然のように言う言葉が、私の胸を抉っていく。

「じゃあね、また明日ね。あ、そうか一緒に帰りたいんだよね? ガナッシュ、一緒に帰ってあげようよ。何か可哀想だよ。たまには3人で帰るのも楽しいかもよ。花屋も皆で行ったらきっと楽しいよ。あ、でも、行くお店は庶民のお店だからスティングにとったら嫌かもしれないけど、我慢してね」

とても楽しそうに微笑み、私を見ると、殿下の手と私の手を取り引っ張った。

寒気を感じすぐに払った。

「どうしたの?ガナッシュと帰りたいんでしょ?」

意味がわからないと首を傾げるレイン嬢に、湧き上がる感情を抑えるのに必死だった。

馬鹿じゃない?

この状況で三人で帰る?

殿下の嫌そうな顔を見たでしょ?

よく言えるわ!

「レインの優しい気持ちをこいつは嫌なんだとさ。2人で帰ろう」

「そう? スティング、帰りたい時は教えてね。ガナッシュに言ってあげるからね。じゃあね。ねえ、花屋の後はガナッシュの所に遊びに行ってもいい?」

「いいよ。帰りは送ってあげるよ」

教えてね。

言ってあげるから。

遊びに行ってもいい?

そこが何処だか知っているの?

王宮なのよ!

聞こえてくる2人の楽そうな内容に、

我慢よ、

とおまじないのように言う自分に笑いが出た。

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