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第11話 (誠視点)上級回復ポーションを超える物

 利子代わりに、天宮 裕真あまみや ゆうまから回復ポーションをもらった俺は、探索者ギルド経由で依頼を受け、パーティメンバーの光輝こうき圭子けいこ信也しんやの四人で渋谷ダンジョンに入った。


 目的は地下13階にある高純度ミスリル銀の鉱石だ。


 出現する魔物は強かったが、俺たちは誰一人欠けることなく目的を達成した。手に入れたミスリル銀の鉱石は200kgにも及ぶ。


 指定された量より多めに取ったので、余った分は探索者ギルドに売って資金を稼ぐつもりである。


 しばらく遊んで暮らせるだろう。


 目的を達成した俺たちは気を引き締めながらも、明るい雰囲気で地下10階まで戻ってきた。


 多くの探索者が休憩所として利用している部屋にまで着くと、腰を下ろして軽食を食べる。


「探索バーって、喉が渇くから嫌いなのよね」


 圭子が茶色い長方形の携帯食料を食べながら文句を言っている。カロリーが豊富で、一日の栄養分が含まれている。片手で食べられるようになっているため、移動中にも食事は可能だ。


「しかも味が薄いから、食べてると空しくなるんだよな」


 不満に便乗したのは信也だ。俺の幼馴染で、人の背丈を超えるほどの盾を持っている。表面にはスパイクが付いていて、防御と攻撃が同時にできる防具だ。信也は【鉄壁】のスキルを持っているため、広範囲の攻撃も防ぐ守りの要である。


「うーん。僕はお腹が満たされれば、味なんてどうでも良いかな」


 少年にも見える光輝は小食で体の線は細いが、【肉体強化】のスキルを持っているので、バトルアックスを振り回せる。食事には興味がないのか、地上でも探索バーを食べている変わり者だ。


「それはないだろ。誠はどう思う?」

「コスパが良ければ何でもいい」


 信也に話題を振られたので、リーダーとして経済面から答えた。


 探索者は成功すれば大きく儲かるが、一方で何も得られず、ポーションを消費して赤字で終わることも多い。俺たちですら利益が出るのは3回に1回ぐらいの頻度なのだ。


 飯は重要だが、費用をかけられるほどの余裕はない。


「誠は夢がねぇな」

「ほんとね。お金の話ばかりしているとモテないわよ」


 パーティのことを考えて真っ当な回答をしたつもりだったのだが、信也と圭子は否定的だった。ったく、そんなことだから、貯蓄ができないんだよ。


 俺たちはいつ働けなくなるか分からないんだ。ブランド品や武具を買いあさるのではなく、貯蓄と長期投資をして資産を築いていかないと、中年ぐらいになったら――。


「何か来る! みんな警戒して!」


 緊張した面持ちで光輝が叫んだ。周囲には他の探索者パーティが一つあるのだが、彼らも俺たちと同じく警戒を始める。


 通路の奥から地響きが聞こえる。


 今まで感じたことのないプレッシャーを感じた。


 指示を出す前に信也は盾を構えて通路の前に立つ。


 地響きが急速に近づいた。


 通路から青い鱗をしたドラゴンが突進してきたのだ。信也は盾で受け止めたが、吹き飛ばされてしまう。【鉄壁】のスキルを容易に突破されてしまった。


 壁にぶつかった信也は、フラつきながらも立ち上がる。


 死んではないようで安心した。


 他のパーティは信也が吹き飛ぶのを見て、即座に部屋から逃走している。残ったのは俺たちだけ。


「敵はドラゴンか……」


 百人近い探索者で戦う魔物だ。


 渋谷のダンジョンでは出現したことがなかったのに、どうしてこの場にいるんだ?


「私が足止めをするわ!」


 杖を前に向けると、【闇魔法】スキル持ちの圭子が、ドラゴンの足元に黒い水たまりを出現させた。沼のように足が沈んでいく。


「たぁぁっ!!」


 数メートル跳躍した光輝は、バトルアックスを振り下ろした。ドラゴンの頭に当たるが、鱗にヒビが入っただけ。顔を振る動作だけで弾き飛ばされてしまう。


 ドラゴンは闇の沼から抜け出すのに時間がかかっている。


 俺たちも撤退するなら今だ。


「逃げるぞ! 殿しんがりは信也に任せた」


 先頭を光輝が走って圭子、俺と続く。


 通路に近づくと、ドラゴンは息を大きく吸い込んだ。


 溜めの時間は数瞬ほど。氷のブレスが俺たちを襲う。


 盾を構えて信也が防いでくれたので、俺たちは背後に隠れたが、全ては受け止めきれない。盾は破壊されて、体が凍り付きながらも通路の奥へ吹き飛んでしまう。


 俺は体の一部が凍傷しているだけで動ける。光輝も大丈夫そうだが、圭子は右肩と足が砕け散っており、正面に立っていた信也は下半身を失っていた。傷口が凍っているので出血はしていないが、数分で死ぬだろう。


 ドラゴンの追撃を警戒したが、こっちにやってくる気配はない。


 地響きが遠ざかっている。


「別の通路に行ったのか……?」


 見逃されたのか、別の目的があったのかはわからないが、命拾いをしたのは間違いない。


 だが、問題は残っている。


 光輝が圭子に上級回復ポーションを飲ませているが、四肢が再生しないのだ。


 本来であれば失った腕もしくは足の半分までは生えてくるはずなのだが、何も変化がない。


「どうして回復しないんだ! 頼む! 死なないでくれ!」


 涙を流しながら光輝はもう一本の回復ポーションを取り出して、圭子の口に付けて飲ませる。しかし、期待した効果は出なかった。


「氷が体を侵食して邪魔をしているのか」


 傷口を覆うようにして残っている氷が増えていたのだ。ドラゴンの残留魔力が体を侵食しているのだろう。まるで呪いのようにも見える。


「侵食された部分を斬れば……!」

「ダメだ!」


 二人とも重傷なのだ、さらにダメージを与えればショック死するかもしれない。そうじゃなくても、回復する前に出血死する。


「だったらどうすれば良いんだ! 僕は二人を見殺しにしたくない!」


 泣き叫ぶ光輝を見て、俺は逆に冷静になれた。


 俺が知っている最高の錬金術師は天宮 裕真だ。彼が作る物はすべて最上の物ばかり。


 錬金術ギルドは下級、中級、上級の三段階しかないため裕真の正確な実力を評価できていないが、俺は上級の中でもさらに上……最上級とも呼べる品質を出しているんじゃないかと睨んでいる。


 だから利子という口実を使って、裕真製の回復ポーションを手に入れたのだ。


 藁にもすがる気持ちで、路上で販売されていた回復ポーションのビンを死にかけている信也の唇に付けた。


 少しこぼしてしまったが、すべて飲むと体を侵食していた氷が砕け、腰までしか残ってなかった体が急速に再生されていく。数秒でブレスを受ける前の肉体に戻った。


 奇跡が起きると願い、行動していた俺ですら、あり得ないと思ってしまう光景だ。


 回復ポーションの域を超えている。これじゃまるで――


「エリクサーだ……」


 そんなもんを路上で売ってたのかっ!!


 しかも借金の利子で上げるぐらいの気軽さで!


 あいつはバカなのか!? あ、錬金術バカでポンコツだった……。


 今まで何度も裕真のポーションを買っていたが、瀕死の状態で使ったことがなかったので、エリクサーと同等の効果があるとは気づけなかった。他の人たちも同様だろう。


「そのポーションは残っているの!?」

「ああ、最後の一本がある」


 光輝の声で現実を思い出した。


 慌てて意識を失いそうな圭子にも飲ませると、氷が砕けて腕と足が再生した。


「すごい効果だね。伝説のエリクサーって本当? どこで買ったの?」

「センター街の路上……」

「隠したいなら、もう少しまともな嘘をついてよ」


 呆れたように言われてしまったが、当然だろうな。


 俺だって目の前の光景が信じられないんだから。


 でも、事実なんだよ。


 海外のダンジョンで数本しか発見されたことのないエリクサーが、センター街の路上で売っていたんだ……。


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