目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第13話 ミスリル銀を使った錬成

 初のダンジョン行商は大成功だった。


 誠が持っていた現金30万円とミスリル銀30kgを手に入れた。


 お金の方はユミに渡すと、すぐにスマホの通信代を支払ってくれたので使えるようになった。残りは家賃の滞納分に使う予定なんだけど、原則として一括返済をしなければならないため、まだ手元に残っている。


 8月上旬なので時間はあるけど、ゆっくりとはしていられない。


 明日もまたダンジョンに潜る……ことはしなかった。


 高純度のミスリル銀鉱石を使った錬成をしたくて、体がうずいている。金稼ぎに時間を使ってはいられない!


 部屋を埋めている錬成物を隅に寄せてスペースを確保すると、水の入った樽を置いた。


「マスターは何をするつもりなんですか?」

「錬金術さ!」

「ダンジョン行商は……」

「しばらくお休みだね」


 半目で見ているユミを放置して、ウキウキしながらスキルを使う。


「錬金術スキル起動」


 キーワードを唱えると両手が光って、目の前に本が浮かぶ。意志だけで操作してページをめくり「純水」で止めると、床に手をつけた。


 樽を中心として魔法陣が浮かび上がって、魔力が吸われていく。


 しばらくしてスキルが止まったので中身を確認する。余分な成分を抜かれた【純水】が出来ていた。さらに手を近づけて魔力を注いでいくと、【エーテル水】へと変わっていく。


 第一段階目は完成だ。


 測定器を入れればメモリは最大値を示している。うん。いつも通り完璧だ。


 続いて【エーテル水】の中にミスリル銀鉱石を入れていく。


 これで二段階目の準備が終わったので、またスキルを発動させると樽には魔法陣、俺の目の前に本が出現した。


 だが今回は作ったことがないためレシピは存在しない。


 空白のページまでめくる。


 ここに素材の分量を書き込み、錬成が成功するとレシピは登録されるのだ。


 過去に何度も錬成実験を失敗し、素材を喪失した経験から、作りたい物の適切な分量はわかっている。今度こそ大丈夫なはずだ。


「ミスリル銀鉱石20kg、エーテル水10L、注ぐ魔力量は80%」


 レシピの一部を口に出すと本に詳細が記入される。ミスリル銀鉱石の純度は99%、エーテル水は純度100%だった。


 この素材なら成功する。

 確信を得た。


「新規レシピ作成」


 キーワードを唱えると、魔法陣に多大な魔力が吸われていく。


 一気に減ってしまい目眩がするが、気を失ってしまえば失敗だ。ぐっと下半身に力を入れ、唇を噛んで意識を保っていると、ユミが俺の体を支えてくれた。


 それだけで気合いが入る。


 魔法陣が満足するまで魔力を与え続けていると、樽の中が光って変化が始まった。


「何を作っているのですか?」

「ミスリル水銀だ」


 高純度のミスリル銀鉱石がなければ、作れないレアな物だ。


 液体金属の一種で、魔力を注ぐと硬度が変わる特性を持っている。今回はそれを作りたかったのだ。


 注いだ魔力が暴走しそうだったので、スキルを経由してコントロールする。集中力が必要な作業で、額から汗が流れて頭が痛くなってきた。


 それでも我慢してスキルを使い続けていると、樽の中の光が消えて錬成は終わった。


「疲れたよーー!」


 仰向けに倒れた。


 しばらくは動きたくない。


「部屋の中から、ゴーレム核を探してくれない?」

「お任せください」


 店で錬成した物の山を漁りだした。


 なかなか見つからないようで、調査済みのエリアが増えていく。しばらく様子を見守っていたが、体内の魔力が枯渇した影響で眠くなってしまった。


 自然とまぶたが落ちていき、ちょっとだけと思いながら眠ってしまった。


 * * *


 目が覚めたらベッドの上にいた。いつの間にか寝巻き姿になっている。ユミが着替えさせてくれたのだろう。


 壁に掛けてある時計を見ると、ダンジョン探索をした翌日になっていた。


 枕元に置いていたスマホがブルブルと震えたので、何事かとディスプレイを確認すると、数十の通知が届いていた。滞納分を支払ったから、通信が出来るようになったみたいだ。


 いろいろ連絡がきているけど、確認が面倒なのでスマホをぽいっと捨てる。


「ゴーレム核は見つかった?」

「はい、マスター。樽の横に置いておきました」


 一瞬だけ空腹を覚えたけど、準備が終わっている光景を見たらすぐに忘れてしまった。


 顔も洗わず、ゴーレムコアをミスリル水銀の中に入れる。


「錬金術スキル起動」


 キーワードを唱えると両手が光って、目の前に本が浮かぶ。


 今回も空白のページを表示させた。


「ミスリル水銀45L、ゴーレム核1個、注ぐ魔力量は50%、半分は俺、残りはユミ」


 レシピの詳細がページに記載されたので、近くで見守っているユミの手を握って、錬成を始める。


「新規レシピ作成」


 魔法陣の中にあるミスリル水銀が光る。


 最後の錬成は、あまり魔力を使わないので目眩はしなかった。コントロールも容易だ。


 ユミは心配そうに俺を見ていたが、トラブルはなく無事に錬成を終える。


 本にレシピが残っているので成功だ。ついに完成した。


 樽の中から液体金属のミスリル水銀が出てきた。スライムのように動いて俺の足元にまで来る。


「マスター、これはゴーレムですか?」

「うん。ミスリル水銀のスライム型ゴーレム、ミスラムだ」

「素敵な名前ですね」

「そうだろ! 1年ぐらい考えて作った名前だから、自信ありだ!」


 高純度のミスリル銀鉱石を手に入れたら、いつか作ろうと思っていたのだ。


 借金返済を後回しにしてでも作って良かったよ。


「二人の魔力を注いで錬成したから、俺だけじゃなくユミの命令も聞くぞ」

「マスターと同時に命令した場合はどうなります?」

「後にした方が上書きされる。ミスラムの使用はユミに任せるから、使い方を覚えておくんだ」

「わかりました。彼女とも仲良くなりますね」


 俺を的確にサポートしてくれるユミだが、物理攻撃ができず攻撃力は低いという欠点を持っている。


 また接近されると非常に弱い。その点をミスラムが補ってくれるはずだ。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?