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第22話 誠との約束

 素材保管施設が俺のものになったので、早速だけど錬金を始めている。


 作っているのは上級回復ポーションだ。討伐隊は数十人になる予定らしいので、沢山作って売りつける計画である。


 と、言葉で説明するのは簡単だけど、エーテルをたっぷり含んだブルーボルド草を粉末にする作業は結構大変だ。


 ゴリゴリ、ゴリゴリ、ゴリゴリ……と音を立てながら、すりつぶしている。


 休憩を取らずに作業を進めているので、腕がパンパンだ。


 粉末状にしながら俺の魔力を注ぎ込んでいるので、自動化は不可能。単純作業だから嫌がる錬金術師は多く、見習いにやらせる人もいるらしいけど、俺は好きだから苦にはならない。


 ただ疲れるけどね。


 鼻歌を口ずさみながら、薬研を動かしてゴリゴリと粉末を作っていく。


「マスター、誠さんから連絡がありました」


 後ろで椅子に座りながら、作業を見守っていたユミが声をかけてきた。


 腕が限界に近かったので休憩にしよう。粉末にする作業を止める。


「内容は?」

「購入したポーションが役に立ったというお礼と……え?」


 ユミが驚くなんて珍しい。


 振り返って顔を見ると、何があったか聞いてみることにする。


「悪いニュースだった?」

「いえ、逆です。欠けてはいるそうですが、ドラゴンの鱗を手に入れたからマスターに渡したいと言っています」


 金を出しても買えない、超貴重な素材じゃないか!


 粉末にしてドラゴンパウダーにすれば、武器の威力を底上げできるぞ! 他にも肉体、魔力、耐性が飛躍的に向上する強化系のポーションが作れる。


 ブルーボルド粉末を作っている場合じゃない!


「直接話したい」

「わかりました」


 立ち上がってユミの隣に移動すると、既に電話をかけてくれていたようだ。通話とスピーカーモードのボタンは押されていた。


 数回コールすると誠の声が聞こえてくる。


「ユミちゃん? どうした?」

「ドラゴンの鱗が欲しい! いくらで買えるかな!?」

「ん? 裕真か。開口一番がそれかよ……」


 ため息を吐かれたけど気にはならない。


 それよりも、早く教えてくれ!


 他の錬金術師に売らないで!


「裕真のおかげで手に入った物だ。タダで上げてもいい」

「…………何を考えているの?」


 いくら俺だって、ドラゴンの鱗が無償で手に入るとは思っていない。絶対、金銭以外に狙っていることがあるはずだ。警戒心が僅かに出てきた。


「警戒するな。裏はない」

「ドラゴンの鱗なんて数年に一度、市場に出回れば良い方だよ? それを譲るって怪しくない?」

「そう思うなら、一つだけ約束をしてくれないか」


 ほらきた。やっぱり何かを狙っていたんだ。


 誠は悪いやつじゃないから無茶なことは言ってこないと思うけど、ドラゴンの鱗を取引に使うのだから相応の約束をさせられると覚悟は必要だろう。


 何を言ってくるのかドキドキしている。


 自分の臓器を売り渡すぐらいなら妥協できるから、そのレベル以内でお願いしたい。


「裕真が作るポーションは他の錬金術師のレベルを遙かに超えている。回復ポーションなんて、エリクサー級だ。そのことに気づいているか?」


 そんなに効果が高ければ、知晴さんかばーちゃんが教えてくれるだろうから、お世辞で間違いない。品質に自信はあるが、エリクサーなんて言い過ぎだ。


 無茶な約束をさせるために、俺を持ち上げようとしているのか?


 嘘だと分かっても嫌な気分はしないので、否定はしないけど誠への警戒は深まっていく。


「褒められて嬉しいけど、エリクサーというのは言い過ぎだよ。上級回復ポーションなんて、ベテランの錬金術師なら誰でも作れるんだからさ。そんなことよりも、今の話が約束とどうつながるの?」

「軽く受け流しやがって……まあ気づいているならいい。約束についてだが、今後も継続的に各種ポーションを売って欲しい。何があってもだ」


 クランに所属していない誠は今後、上級回復ポーションが手に入りづらくなる。最悪の場合、金を積んでも買えないケースも出てくるだろう。


 上級系統のポーション販売価格を上げたい錬金術ギルドが仕掛けているので、探索者じゃ抗いようもない。


 だから誠は目の前の利益を手放してでも、上級回復ポーションを購入できるルートを維持しようとしているのか。


 無償提供してもらえる理由にはなるだろうけど、誠は相当、焦っているな。


「俺はギルドから離れて個人運営するから、その条件は問題ないよ。金額については要相談だけど、悪いようにはしない。それでいい?」

「ああ、それでお願いしたい」

「オッケー。それじゃ取引成立だね。細かい条件についてはユミに一任するから、適当に話しておいて」

「わかった。ドラゴンの鱗は家に持っていけばいいか?」

「別の場所にして欲しい。今から住所を送るよ。ユミ、後はお願い」

「任せてください!」


 薄い胸を叩いて、自信を持って言ってくれたので大丈夫だろう。


 俺はブルーボルド粉末を作る作業に戻る。


 ドラゴンパウダーかぁ。強化系のポーションを作ろうかな。レシピはあるから成功するはずだ。後は鍛冶師に頼んで、ヒヒイロカネにも混ぜてもらって素材の底上げをしてもらおう。


 難易度はすごく上がるだろうけど、ばーちゃんが紹介してくれる人なら何とかしてくれるはず。


 早く素材が届かないかなぁ。


 色んな物が作れそうで楽しみだ!


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