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第23話 ヒヒイロカネの使い道

 通話を終えた翌日に、誠はドラゴンの鱗を持ってきてくれた。


 お礼に結構な量の回復ポーションを押しつけておいたので、しばらくはダンジョンで探索しても赤字にはならないだろう。


 調べた所、手に入った鱗のエーテル含有量はかなり多く、素材としては一級品だ。


 離れの倉庫でミスリル銀製の小型ハンマーを持つと、鱗に振り下ろす。手が痺れるほど硬い。表面に軽いヒビが入るだけで、破壊には至らなかった。


「これは時間がかかりそうだ」


 自然と笑みが浮かぶ。


 ヘッドの部分に魔力をたっぷり送って硬度を高めてから、何度もハンマーを振り下ろして鱗を砕く作業を続けていく。


 痺れて力が入らなくなったら、手に布を巻いて落とさないようにして作業を再開する。


 皮膚が切れて血が出ても無視だ。


 休みなく砕く作業を5時間かけて続けると、ようやく細かい欠片になった。


 その間もユミは俺の作業をずっと見ていたようだ。


 何が楽しいのだろうか。


 ミスラムをソファベッドの様に使っているので、たまに寝ているのだが、部屋に行かなくていいのだろうか。


 中途半端な睡眠になりそうなので心配なんだけど、作業が終わるまではずっといると言って、俺の意見を聞かない。


 ワガママな娘を持った気分だ。


 回復ポーションを飲んで手の傷を回復させると、小さい欠片になったドラゴンの鱗をすり鉢に入れて、ブルーボルド草のように粉末にしていく。


 ジャリジャリと音を立てながら、たいした抵抗を感じず細かくなっていった。


 小さくなると意外と脆くなるんだな。


 思っていたよりも作業は早く終わって粉末状になったので、ポーションを入れている瓶に入れるとちょうど一本分になった。これで完成だ。


「うーーん! 終わったーー!」


 立ち上がって腕を伸ばし、凝り固まった筋肉をほぐしていると、ユミが小さな手で拍手をしてくれた。


「おめでとうございます……と言いたいところですが、もう23時ですよ? ご飯ぐらい食べてください。倒れてしまいます」


 外を見ると真っ暗だった。


 朝から作業を始めていたんだけど、こんな時間になっているなんて気づかなかったな。


「夜ご飯はない、かなぁ?」

「お師匠様が作って冷蔵庫に入れてくれたようです。食べに行きましょう」


 さすがばーちゃん! 助かる!


 作りたてのドラゴンパウダーが含んでいるエーテルが拡散しないよう、素材保管の棚にいれて扉を閉めると、俺たちは倉庫を出て遅すぎる食事を始めた。


 * * *


 二人で焼き魚とサラダ、白米、味噌汁という和食を堪能していると、薄いピンクの寝巻きに着替えたばーちゃんが入ってきた。


 昔から可愛い物が大好きなんだよね。


 歳を取っても乙女らしい。


「ドラゴンパウダーは完成したのかい?」

「うん。完璧なはず」


 作ったのは初めてだけど、細かい粒子になっているし、エーテルの含有量も豊富だ。


 だから問題ないと判断している。


「ふむ、だったら明日、鍛冶師がいる場所に案内してやる」

「おお! ついにヒヒイロカネを加工できるんだね!」

「マスター、おめでとうございます」


 隣で一緒に食事をしているユミと、手を合わせて喜んだ。


 今日は疲れているのに、興奮して寝られそうにない。


 寝不足になっちゃうかな。


「何を作るか決めているのかい?」

「脇差がいいんだけど作れそうかな」

「日本刀は得意な男じゃ。問題ない」


 男といったときに、ばーちゃんの表情は緩んだ気がした。


 意味深だ。


 どういった関係なのか知りたくなってきたぞ。


「もしかして、ばーちゃんの男?」

「…………はぁ。育て方を間違えたかね」


 呆れたように言われてしまった。


 気になったことを聞いただけなのに、何が悪かったんだろうか。


「違ったの?」

「いや、あながち間違いじゃない。元旦那だ」

「ええっ! 結婚してたの!?」

「裕真を引き取る少し前までな」


 これは驚きだ! あのばーちゃんと結婚できる男がいるなんて!


 師匠としては最高なんだけど、こう、自立しすぎていて誰かと一緒にいるイメージがわかないんだよね。


「なんで別れたの?」

「裕真は何でも突っ込んで聞くねぇ」


 ユミが「え? 聞くの?」みたいな顔をしているけど、気になるじゃん。


 ばーちゃんは呆れていても怒っていない。まだ一線は越えてないはず。


「嫌なら答えなくて良いけど」

「性格の不一致さ。よくある話だろ」

「そうなの?」


 常識っぽく言われてもよく分からない。


 恋愛ドラマや漫画をよく見ているユミに聞いてみた。


「そうですね。そういうことも、多いと聞いたことはあります」


 チラチラと師匠を見ながら、ユミは答えてくれた。


 なるほどね。よくあるのか。


 また一つ賢くなったよ。


「気まずかったら俺とユミだけで行くけど」

「昔の話さ。それに、たまには顔を見てやらんとな」


 ツンツンと指で腹を押されたので、ユミの顔に耳を近づける。


「マスター、あれはきっと会いたいんだと思います。三人で行きましょう」


 言っていることと内心が違う。これが乙女心ってやつか!


 何歳になっても乙女だと言っているばーちゃんだけあるな。


「絶対に余計なこと言わないでくださいね」

「わかった」


 心配性なユミの顔から話すと、乙女モードのばーちゃんに話しかける。


「それじゃお願いするよ」

「任せな。ケツでも叩いて、いい仕事をさせるさ」


 いつもと変わらず強気発言だけど、どこか照れ笑いしているようにも見えた。


 ヒヒイロカネの武器を作るだけじゃなく、別れた二人の再会に協力できるのであれば、恩返しになるのかも。


 そういったのも悪くはないよね。


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