目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第31話 周囲に実力が判明する

「迎撃の準備は終わったから、ドラゴンを地下1階へ呼び寄せることにした。位置情報に動きがないか、常に注意しておいてくれ」

「呼び寄せる? どんなことするの?」


 ダンジョンに出現する魔物は上下の移動はしない。上におびき寄せるなんて普通は不可能だ。


 俺の知らない特別な方法があるのかと聞いてみた。


「軽い攻撃をして上に逃げるだけだ」

「普通に釣る感じなんだね。そんな単純な作戦で成功するのかな?」

「地上に向かって進むドラゴンだぞ。ダメ元でやってみる価値はあるだろ」


 やってみないとわからない、みたいなことを言われて共感してしまった。


 錬金術だって色んな素材を組み合わせ、試行錯誤を続けていく。ダメ元で成功したこともあるんだし、おびき寄せ作戦だって上手くいく場合もあるだろう。


 それに長く待ち続けたせいで気が抜けているときに襲撃されるより、こっち側でタイミングを調整できた方が良いのは間違いない。


「成功するのを祈っているよ」

「ありがとな」


 軽く手を挙げて。久我さんは迎撃ポイントに戻ってしまった。


 ミスラムのソファでくつろいでいても文句を言われなかったのは、俺たちを信用してくれているからだろうか。もしそうなら、期待に応えなきゃね。


 誠からドラゴンの居場所を表示するスマホを借りて、ディスプレイを見る。


 動きはない。


 地下1階に通じる階段の近くで待機したままだ。


 探索者が近づいているはずなので、細かい動きは発生しているはずなんだけど。


 あまり精度は良くないのかな?


 もしそうなら、現場への投入は早かったんじゃないだろうか。


 手抜きとまでは言わないけど、もう少し性能にこだわるべきだよね。錬金術師なら。


 時間があれば俺が改造してもいいんだけど、一秒後にはドラゴンが動き出しているかもしれない。今回は頼りない機械に任せると決めて、スマホのディスプレイを眺める。


 十分ぐらい経過しただろうか。


 階段付近が騒がしくなった。ドラゴンに動きはない。


 視線を向けると下に降りていった探索者が戻ってきたようだ。


 そのうちの一人は肩から腕にかけて肉体を喪失している。また足も片方は吹き飛んでいるみたいだ。大量の血を流していて、控えめに言って瀕死状態なのは間違いない。


 他の探索者も体のあちこちに氷が付いていて、凍傷を発生していそうだ。おびき寄せに参加した探索者は満身創痍といった感じだった。


 待ちに待った、死にかけの探索者だね!


「行ってくる」


 立ち上がると走って瀕死の探索者の元へ行った。


 出血が酷いのか顔色が悪い。意識は混濁していて一刻を争う状況に思えた。


「ポーションは残っている?」

「使い切った! 俺を守るために、智紀は死にかけているんだ! 頼む! 何とかしてくれ!!」


 まだ動ける探索者に、すがるような声で言われてしまった。


 期待に応えないと、俺がここにいる意味はないよね。


「任せて」


 腰に付けたポーチから自家製の上級回復ポーションを取り出すと、少しだけ傷口に振りかけて止血してから、残りを飲ませようとするが、喉が動かないので口からこぼれてしまった。


 これでは回復ができない。


 俺は回復ポーションを口に含んでから、死にかけている探索者の唇に接触すると、無理やりに流し込んでいく。


 ごく、ごく、と喉が動いた。


 すぐに効果が出てくれて、失われた腕や足が再生されていく。


 容体も安定して息は落ち着いてきたので、死ぬことはないだろう。


「すげぇけど…………これって回復ポーションなのか?」

「上級って、こんなすぐに再生した?」

「もっと時間がかかる。それに普通は死にかけの状態じゃ再生も難しいぞ……。エリクサーでも使ったんじゃないか!?」

「本当に、即死さえしなければ生き残れる!」

「ギルドが派遣するだけはあるってことだな」

「頼りになるぜっ!」


 様子を見守っていた探索者たちが、騒いでいるけど何で驚いているんだろう。


 上級であれば、このぐらいは普通なのに。


 疑問に思っていると、死にかけていた探索者を支えていた男が俺の手を掴んだ。


「ありがとう! 助かった!」


 感動しているようで涙を流している。


 ドラゴンから逃げ切った安心感で、涙腺が緩くなっているんだろう。


 それでも情緒は、おかしくなりすぎだとは思うけど。


「気にしないで。俺ができることをしたまでだから」


 暑苦しいので手を離してもらってから、他の探索者たちにも回復ポーションを飲ませ、俺はミスラムのソファに戻って腰を下ろす。


 隣には待っていたユミがいて、こちらの顔を見てニコニコとしていた。


「何かいいことあったの?」

「赤字が回避できました」


 ああ、確かにそれは重要だ。回復ポーション一本で350万円だっけ? ばーちゃんの家にあった素材を購入していたと仮定しても、元は取れている。


 お金を管理しているユミからすると、嬉しい出来事なんだろう。


「それにマスターの回復ポーションが評価されています。探索者の見る目が変わっていますよ」


 指摘されたので改めて探索者を見てみる。


 確かに侮るような感じはなくなっていた。


 今までどれだけ低品質な回復ポーションを使用していたんだ? ドラゴン討伐に参加するぐらいだから、上位の人たちばかりなのに。


 サポート役はレベルが低かったのかな。


「裕真、俺との約束は覚えているよな?」

「なんだっけ」

「お前なぁ……」


 ため息を吐かれても困る。


 約束と言われても、すぐに思い出せるもんじゃないでしょ。絶対に覚えて欲しければユミに言って欲しかった。


「どんなことがあっても、回復ポーションを俺にも売るって話だ」

「ああ、そのことね。ちゃんと覚えているよ。誠には優先的に売るから安心して」


 そういえばそんな約束もしたね。ヒントさえもらえれば、ちゃんと思い出せるんだから。


 俺が断言すると、ようやく誠は、ほっとした顔になった。


 約束を忘れることはあるかもしれないけど、俺は友人を裏切るようなことなんてしない。


 だから安心してね。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?