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第32話 和解

 誠と話していたら、久我さんが俺の所に来た。


「ありがとう。天宮さんのおかげで仲間が死なずに済んだ」


 何を言われるんだろうと疑問に思っていたんだけど、いきなりお礼を言われて頭を下げられてしまった。


 当たり前のことをしただけなのに。


 誠に似ていて真面目というか、律儀だ。


「お礼はいらないよ。これが俺の仕事だからね」

「そう言ってもらえると助かる」


 頭を上げた久我さんは、ふっと笑ってくれた。


 力が抜けたように見える。ドラゴン討伐の現場責任者として、かなりの重責を感じていたのだろうか。


 必要以上に緊張していたのであれば、ブリーフィング前、俺に突っかかってきたのも理解はできる。


 1級で経験豊富だから大丈夫だと思っていたけど、無理して頑張っていたんだね。


「即死しなければ助けられる。安心していいよ」

「あの言葉は本当だったんだな。さっきは酷いことを言って申し訳なかった。よければこれからも頼む」


 ブリーフィング前の言い合いを気にしていたようだ。


 今度は深く頭を下げられてしまって居心地が悪い。


「気にしてないから、頭を上げてくれないかな」


 俺の言葉を聞いても動かなかったけど、黙って待っていたらようやく俺を見てくれた。


 責任感が強いだけで、悪い人じゃないんだろうな。


 近くにいるユミは満足そうにしているので、わだかまりは残っていないだろう。


 討伐隊はようやく、お互いを信じ合えるチームになれた気がした。


「これからどうするの? しばらく待つ?」


 おびき寄せ作戦が失敗して、ドラゴンは移動していない。


 予定通りに進めるのか気になって聞いてみた。


「どれほど挑発しても、ドランゴンは上にこようとしなかった。待つしかないだろう」


 地下10階から2階まで上がってきたのに、それ以上は行きたがらないのか。


 目的は地上ではなく、今いる場所なのかな?


 魔物の考えなんてわからないや。


「それなら俺たちは、ゆっくり待とうか」

「今のうちに、な」


 子供が見たら泣き出しそうなほどの凶悪な笑みを浮かべて、久我さんは討伐チームの方へ戻っていった。


 やることが終わったので、ミスラムのソファに座る。


 護衛の誠はディスプレイを睨みつけていて、他の人たちは周囲を警戒している。たまに魔物が襲ってくるので、戦っているけど相手にはならない。怪我をすることなく完勝していた。


 何もすることがないので暇だ。


 他の探索者たちも同じみたいで、ほどよい緊張感を持ちながら談笑をしている。


 ずっと高い緊張感を維持するなんて不可能なんだから、このぐらいがちょうどいいのかもしれない。


「誠たちは休憩しないの?」

「護衛だからな」

「疲れちゃわない?」

「いつものダンジョン探索より楽だから問題はない。裕真は気にせず、ゆっくりしててくれ」


 相変わらず真面目な男だ。


 これなら安心して任せられるな。


 ダンジョンの中だというのに気が抜けてしまい、眠くなってきた。頭が重い。


 朝早かったからなぁ。


「マスター、何かあれば起こします。少し休みませんか?」

「ありがとう」


 お言葉に甘えて仮眠をしよう。目を閉じるとすぐに意識が遠のいていく。




 夢は見なかった。


 体を揺さぶられると目を覚ます。


「おはよう。何時?」

「マスター! それどころじゃありません! ドラゴンに動きがありました!」


 急速に目が覚めた。


 立ち上がって周囲を見ると、談笑していたはずの探索者たちは、ブレス用に設置した壁の裏に隠れていて、武器を持っている。


 位置情報を表示するディスプレイを見ると、地下2階にはいないようだった。階段を登っている途中なんだろう。


「ユミは対冷気ポーションを飲んでくれ」


 指示を出しながらマジックバッグから、俺は対冷気ポーションを取り出して飲む。


 うん。マズイね。口の中に残る苦みが最悪だ。ユミも渋い顔をしているので、似たような感想を持っていそうだ。


 誠たちは準備できているようなので、ブレスがここにまで来ても耐えられるだろう。


「グアアァァアアッ!! ィィアアァッ……アア……ッ!!」


 とんでもない叫び声が、階段の方からした。


 暗闇からぬっとドラゴンの顔が出てくると、俺たちの存在に気づく。口を開いてブレスを吐いた。


 冷気はここまで襲ってくるが、技術の粋を集めた壁は防いでくれている。壁の後ろに隠れている探索者は、対冷気ポーションを飲んでいるようで無事だ。


 ブレスで邪魔な壁が破壊できないと分かり、ドラゴンが突進してくると地雷が発動した。爆発音が鳴り響き、煙が舞う。


「ゴホッ、ゴホッゴホッ」


 ホコリが入って咳き込んでしまった。腕で口と鼻を塞ぎながら前見ると、煙の中に炎や土、エネルギー体の魔法が飛んでいた。地雷が発動したと同時に魔法スキルを使って攻撃をしているのだろう。


 魔法攻撃が止むと静かになり、竜巻が発生した。


 大規模魔法だ。初めて見た!


 煙は吹き飛んでドラゴンの姿が見える。地雷と魔法の組み合わせによって、鱗は傷ついている。また竜巻の中で斬りきざまられているらしく、鱗が吹き飛び肉の見える箇所も発生していた。


 先制攻撃は成功だ。


 ブリーフィングで計画していた通りの流れが作れている。ドラゴン討伐としては順調に進んでいるとみていいだろう。


「いくぞ!」


 竜巻の魔法が消えたのと同時に、久我さんは声を出して先頭を走った。


 手には大きなハンマーがあって、途中で跳躍するとドラゴンの脳天に叩きつける。鱗が砕けて宙に舞い、ドラゴンはバランスを崩して横に倒れた。


 続く探索者たちが追撃のために集まって、鱗が取れた部分を攻撃し始めた。


 序盤は順調だ。


 このまま凶暴化する前に倒せれば、本当に無傷の勝利ができるぞ!


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