激しい爾が地表をたたいていた。
連日の日照りで乾ききっていた砂漠に染み入る間も持たず降り注ぐ豪雨。表面にうっすらたまった水たまりを、ばしゃんと音立てて踏み敷き、走りを止めるやいなや右手に持った長剣を一気に鞘走らせる。刹那、夜気を切り裂くような薄氷のきらめきが銀の水滴を弾いて目標物――彼に向かって跳んでいた宙の妖鬼へと飛び、真っ二つに裂いたと思うやその背後にいたもう1匹の首までも落とした。
しかし彼はそれを確かめもせず、振り抜いた剣を再び鞘へ収めた瞬間にきびすを返して走りだす。
(きりがない)
舌打ち1つ、周囲へ視線を走らせる。
自分を追ってくる、紅い複眼を持つ妖鬼の数は、気が滅入るほど多かった。
群れを作っては数にものをいわせ、動くものなら何にでも襲いかかるこの矮小な輩は、個としての力は子どもにも劣る、とるに足らないものなのだが、こうも群れとなって向かってこられるとなかなか厄介な相手だ。
ただの獣であれば、まず得物を持つ人間を警戒する。
仲間が斬られればさらにそれを強め、己の不利をさとっておとなしく消えるか、それを克服する手段はないか考えを巡らせるだろう。だがこいつらは猛進するだけだ。
仲間が何匹やられようとおかまいなし。滝のように流れる
何を考えているか、一目瞭然。
食欲が生存本能を上回るなど本末転倒だ。それにも気付けずひたすら攻撃を繰り返すのは、ある意味一途ではあるが、やられるほうからすれば面倒極まりない手合いである。
これでへたに足を止めて相手をしようものなら争いの気配を嗅ぎ取って、それこそ砂漠中からぞくぞくと集結してくるに違いない。
かといって、いつまでもこうして追いかけっこをしているわけにはいかなかった。
砂漠の終点が見えているからだ。
踏み出した足の裏に響く抵抗が大きい。硬い土の地盤がすぐ下にあるのが分かる。
はたしてどうするべきか。
体への負担がなるべく少ない、最適な手段を考えているうちに、彼の目の前には見覚えのある風景が広がった。
緑色の濃い下生えが所々に固まって生え広がり、防砂の岩盤が左右に長く続いている。
黄色の砂が黒土にとって変わり、平らな地表よりも突起した岩や石のほうが多く、走るには適していない。
これではむしろ、後ろのやつらにとって絶好の足場になってしまう。
これ以上引き伸ばすわけにはいかないだろう。
仕方なし。
意を決め、振り返る。
雨でできた泥のぬかるみに足を取られないよう気をつけながら、彼は、自身を取り囲もうとする妖鬼たちをにらみつけながら剣を鞘抜きした。