目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第40話:反抗期気分と仲直りのコップ

その日、午後の店はいつもより静かだった。兄たちがカウンターの奥で腕を組んでいる。


眉間にしわを寄せて、ちょっと偉そうな顔をしていた。


「……お兄ちゃんたち、どうしたの?」


「俺たち、もう親の言うことは聞かないぜ。」


「おやつも、いつもより多く食べちゃうんだぜ。」


そう言いながら、クッキーの箱を抱えてぼりぼり食べている。


私が首をかしげていると、兄たちは笑って一枚くれた。


「ほら、ネセレも食べな。」


「ありがとう……優しいね。」


母が台所からちらりと見て苦笑いし、護衛のおじさんは「お前ら、そんなことで反抗期か?」と肩を揺らして笑っていた。


◇◇◇


そのとき、ドアがきぃっと開いて、小さな男の子が入ってきた。


肩を落として、手には割れたコップのかけらを大事そうに握りしめている。


「こんにちは……。」


「いらっしゃい。どうしたの?」


「……お母さんの大事なコップ、割っちゃったんだ。」


男の子の目には涙がたまっていた。


兄たちはクッキーを口に入れたまま顔を見合わせ、「そりゃまずいな……」とぼそり。


私は優しく笑って言った。


「大丈夫、直せるよ。」


◇◇◇


作業台の上にコップのかけらをそっと並べ、両手をかざす。


お母さんと一緒に使っていた思い出が、きっとこのコップには染み込んでいる。


だから、その気持ちをこめて――


「等価交換……元通りのコップに!」


光がふわりと包み、かけらが吸い寄せられていく。


やがて現れたのは、ひびひとつない綺麗なコップ。


男の子が目を見開いて手を伸ばす。


「……ほんとに、直った……!」


「これで、お母さんに謝って、一緒に使えるね。」


男の子はぎゅっとコップを抱きしめ、「ありがとう……!絶対、仲直りする!」と駆け出していった。


◇◇◇


兄たちは黙ってクッキーをかじりながら、その背中を見送っていた。そしてぽつりとつぶやく。


「……俺たちも、ちゃんとお母さんに謝るか。」


「そうだな。」


私は思わず笑ってしまった。クッキーの甘さと、胸の温かさが混じり合って、春の午後の光がやさしくお店を包んでいた。


ネセレ、6歳。反抗期気分のお兄ちゃんたちとともに、壊れたコップを直して一つの仲直りを生んだ春の出来事である。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?