午後、学校から帰ると兄たちやクラスメイトが次々とお店にやってきた。
「ネセレ、今日はお約束の日だよね!」
「うん!みんなで遊ぶって言ったけど……おみせやさんごっこもしよう!」
「ええ!? 本物のおみせやさんで?」
「もちろん、体験できるよ!」
私はエプロンを並べ、みんなに配った。
兄たちが帽子を渡してくれると、子どもたちは嬉しそうにかぶり、目を輝かせてカウンターに並んだ。
「じゃあ今日は、1日体験店員さんだよ!」
「はーい!」元気な声が響く。
護衛のおじさんは腕を組んで見守り、母は「大丈夫かしら?」と微笑む。
◇◇◇
最初のお客さんは、ゆっくりと杖をついたおばあちゃんだった。
穏やかな笑顔だけれど、手には壊れたネックレスが握られている。
「こんにちは……このネックレス、もう使えないから、売ろうと思って……。」
「わぁ、素敵なネックレスですね。」
私はそっと手に取り、じっと見つめた。
チェーンが切れていて、宝石を留めていた爪もゆるんでいる。
「これ……旦那さんの形見なんです。」
おばあちゃんの目が少し潤んだ。
体験店員たちが顔を見合わせ、私を見つめる。
私は大きく頷いた。
「大丈夫ですよ。直せます!」
◇◇◇
作業台にネックレスをそっと置き、両手をかざす。
おばあちゃんが大事にしてきた想いを大切に包むように、心の中で強くイメージした。
「等価交換……元通りのネックレスに!」
光がネックレスを包み、やがて輝きが収まると、そこには切れ目もゆるみもない、きらきらとしたネックレスがあった。
「……まあ!」おばあちゃんの目が見開かれ、口元が震える。
「これ、あの頃のままだわ……!」
「はい、大事にしてくださいね。」
おばあちゃんは涙をぬぐいながら笑い、「ありがとうね……本当にありがとうね……!」と深く頭を下げた。
体験店員の子どもたちは「すごい!」「やったー!」と声を上げて喜び、兄たちも誇らしげに胸を張った。
◇◇◇
その後も子どもたちはお釣りを渡したり、袋詰めをしたりと大活躍。午後の店内は笑顔でいっぱいになった。
「ネセレ、また手伝わせて!」
「うん、また来てね!」
ネセレ、6歳。みんなで迎えた1日体験店員の日、形見のネックレスを修復して笑顔を届けた春の出来事である。