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第39話:1日体験店員と形見のネックレス

午後、学校から帰ると兄たちやクラスメイトが次々とお店にやってきた。


「ネセレ、今日はお約束の日だよね!」


「うん!みんなで遊ぶって言ったけど……おみせやさんごっこもしよう!」


「ええ!? 本物のおみせやさんで?」


「もちろん、体験できるよ!」


私はエプロンを並べ、みんなに配った。


兄たちが帽子を渡してくれると、子どもたちは嬉しそうにかぶり、目を輝かせてカウンターに並んだ。


「じゃあ今日は、1日体験店員さんだよ!」


「はーい!」元気な声が響く。


護衛のおじさんは腕を組んで見守り、母は「大丈夫かしら?」と微笑む。


◇◇◇


最初のお客さんは、ゆっくりと杖をついたおばあちゃんだった。


穏やかな笑顔だけれど、手には壊れたネックレスが握られている。


「こんにちは……このネックレス、もう使えないから、売ろうと思って……。」


「わぁ、素敵なネックレスですね。」


私はそっと手に取り、じっと見つめた。


チェーンが切れていて、宝石を留めていた爪もゆるんでいる。


「これ……旦那さんの形見なんです。」


おばあちゃんの目が少し潤んだ。


体験店員たちが顔を見合わせ、私を見つめる。


私は大きく頷いた。


「大丈夫ですよ。直せます!」


◇◇◇


作業台にネックレスをそっと置き、両手をかざす。


おばあちゃんが大事にしてきた想いを大切に包むように、心の中で強くイメージした。


「等価交換……元通りのネックレスに!」


光がネックレスを包み、やがて輝きが収まると、そこには切れ目もゆるみもない、きらきらとしたネックレスがあった。


「……まあ!」おばあちゃんの目が見開かれ、口元が震える。


「これ、あの頃のままだわ……!」


「はい、大事にしてくださいね。」


おばあちゃんは涙をぬぐいながら笑い、「ありがとうね……本当にありがとうね……!」と深く頭を下げた。


体験店員の子どもたちは「すごい!」「やったー!」と声を上げて喜び、兄たちも誇らしげに胸を張った。


◇◇◇


その後も子どもたちはお釣りを渡したり、袋詰めをしたりと大活躍。午後の店内は笑顔でいっぱいになった。


「ネセレ、また手伝わせて!」


「うん、また来てね!」


ネセレ、6歳。みんなで迎えた1日体験店員の日、形見のネックレスを修復して笑顔を届けた春の出来事である。

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