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第4話 食事

 案内されたのは、広いひろい食堂だった。

 アニメでしか見たことないような、長いテーブル。

 赤い椅子に、暖炉や絵画が飾られている。

 ゆらゆらと揺れる、シャンデリアの灯り。

 ここがどこなのかわからないけど、すごくお金持ちのお屋敷なんだろうなぁ……

 アレクシスさんはすでに席に腰掛けていた。

 長いテーブルの隅の方に。

 彼は椅子から立ち上がると、向かい側を手で示して言った。


「莉央さん、こちらにお掛けください」


「はい」


 椅子に近づくと、メイドさんが椅子を引いてくれる。


「ありがとうございます」


 礼をつげ、私は椅子に腰掛けた。

 すると、料理が運ばれてくる。

 コース料理みたいで、前菜にスープと続く。

 用意された飲み物はワイングラスに入っていて、私はおそるおそる、中身について尋ねた。


「あぁ、ワインですよ」


「てことはお酒……」


「そうです」


 その答えに私は首を振り、飲めないことを伝えた。

 だって私、十八だもの。


「ああ、そうなんですね。ではお茶を用意させます」


 よかった、気がついて。

 料理を食べながら、私は疑問に思っていることを尋ねた。


「あの……聖女がいるなら勇者もいたわけですよね? 勇者はどうなったんですか?」


 すると、アレクシスさんはフォークを置き、こちらをじっと見つめて言った。


「勇者は……僕の祖父でした」


「祖父?」


 待てよ?

 私はひいおばあちゃんなのに、祖父……?


「祖父は、聖女を呼び戻すために手を尽くしたそうです。それでなかなか結婚しなかったと。けれどどうやっても聖女は呼び戻せなかった。だから婚期が遅れたと聞いています」


 あぁそうか。

 勇者は聖女が好きだったのね。だから諦めず、結婚しないで呼び戻そうとした。でも、できなかったんだ。


「だから、同じ方法で貴方を呼び寄せることができて驚きました。そうなるとなぜ、今まで聖女を呼び戻す事ができなかったのかと」


「代償……だからじゃないですかね。ひいおばあちゃん、言ってたから。魔王を封じるのに代償が必要だった。それでひいおばあちゃんは異界に送られたって」


 おばあちゃんはその事を後悔していなかったみたいだけど。


「なるほど……だから呼び戻せなかったと……」


「そういうことだと思います」


 勇者は諦めなかったのか……ロマンチックに感じるけど哀しい話でもあるわよね。


「アレクシスさん、その、魔王の城ってどこにあるんですか?」


「ここから汽車で移動して、二日ほどですね。観光地なので、移動にはさほど時間はかからないです。道も整備されてますし」


 だから何なのよ、魔王城を観光地にしちゃうその発想。

 心の中のもうひとりの私が横転してるわよ。


「人気、なんですね」


 苦笑浮かべて言うと、アレクシスさんは頷く。


「はい、とても大事な観光資源ですよ。魔王の城の地下でとれる鉱石で作ったネックレスが、御守としてとても人気です」


 商魂たくましいわね、ほんと。

 その話だけだとほんと、危険を感じないなあ。


「魔王の椅子に座れますし、封印の間にも入って見学ができます」


 ……ほんと、私の想像の斜め上すぎてどう反応したらいいかわからないのよ。


「封印の間に近づけるんですか?」


「ええ、危険はないですからね」


 と、笑顔で言われる。

 まあ、封印されてるものね。


「我々でも封印をとくことは不可能なのです。だから誰かが封印を解く心配もありません」


「そ……そうなんですね」


 だから誰でも近づき放題なのか。

 驚きしたかない。


「そこに行って、私は封印をし直せばいいんですか?」


「はい、それだけでいいはずです」


「封じたら私……帰れますか?」


 すると、空気がピーン、と張り詰めた。

 私はアレクシスさんの顔をじっと見る。

 この沈黙が全てを物語っている。帰れる保証、ないんだろうな……

 それはそうよね、ひいおばあちゃんは帰れなかったんだもの。

 あー……私の人生、どうなるんだろう。

 虚無の心になっていると、アレクシスさんがふかく頭を下げた。


「申し訳ないです。必ず貴方を元の世界に帰す、とお約束できなくて。勝手に呼び出して、魔王を封じろと言われても困惑するだけだと思います。僕には、そうするしか方法がなかったのです。そのペンダントは、魔王の力を封じるために神から与えられた特別な物。だからどうしても、そのペンダントとその力を扱える聖女が必要だったんです」


 苦しげな声で、アレクシスさんが言う。

 そんな話されると、胸が苦しくなるなぁ。それはアレクシスさんも一緒なのか。

 にしても、こういう時って、お願いだから魔王封じて、とか必死に頼むものかと思ったけど違うのね。

 まさか謝られるとは思わなかった。

 そして、こんな態度でこられて断れるほど私、ず太くもないのよ。

 私は手に持つフォークをぎゅっと握る。

 手の中には汗が溜まっていて、緊張しているのがわかった。

 放っておくわけにはいかないよね。ここはひいおばあちゃんが生まれて育った世界。

 おとぎ話ではすごくきれいで、かつてはドラゴンもいたとか言っていたっけ。

 でもその世界が今、危ないんだ。

 私はすっと息を吸い、決意を込めて告げた。


「わかりました……あの、私、やります」


 出た声は震えていて、上ずっている。

 あぁ、いっちゃった。もう後戻りはできないわね。

 すると、アレクシスさんはばっと顔をあげて驚きの顔をみせる。


「本当に……?」


「はい……私、子供の頃ひいおばあちゃんと約束したんです。『魔王を倒す』って。だから……倒すのは無理かもだけど、お手伝いができるなら、やります」


 どうせ帰れないのならやれることやるわよ。

 じゃなくちゃ、私が召喚された意味、無くなるもの。

 アレクシスさんはまた頭を下げ、


「ありがとうございます」


 と、震える声で言った。

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