目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第3話 聖女様?

 廊下を歩き部屋へと案内される中、私は窓の外へと視線を向けた。

 ここは高台にあるみたいで、街並みがよく見える。明らかに日本のそれとはちがう風景だ。

 その向こうに海が見える。

 そして廊下。どこかの大きなお屋敷っていうかんじで、紅いじゅうたんがしかれ、天井が高い。

 本当に、ファンタジーのゲームみたいだ。扉も普通の木の扉じゃなくて、飾りが彫られているし。

 貴族のお屋敷とかかな。


「こちらのお部屋をお使いください」


 メイドさんに案内された部屋は、とても広かった。

 何畳くらいあるだろう。

 テーブルにソファー、風景画が飾られた壁に、暖炉。奥には天蓋のついたベッドが置かれている。しかも大きい。ダブルベッドかな。


「こちらにクローゼットがございます。浴室はこちらでトイレはこちらです」


 と、室内の説明をしてくれる。


「お洋服ですが、夜までにはご用意いたします」


 と言い、メイドさんは去っていった。

 私はキャリーバッグを部屋の隅に置き、窓の向こうを見つめた。

 たぶん夕暮れ前、なのかな。

 少し、空がオレンジ色に染まってきている。

 ここ、異世界なのよね。なのに、空の色、一緒なんだ。

 ここ、ひいおばあちゃんが生まれたところなのかな。

 不思議なおばあちゃんだったけど、世界を救うために自分を犠牲にしたんだ。

 かっこいいけど切ないな。

 頭の中に、おとぎ話を話していた時の、ひいおばあちゃんの顔が思い浮かぶ。

 ひいおばあちゃんが話したこと、本当だったんだ。

 そして私がひいおばあちゃんの役目を引き継いだ。

 まさかそんなことになるなんて……

 もしかしてお母さんが泣いていたのはこれが理由?

 そう思うと、背筋が寒くなる。


「お母さん……」


 呟いて、ぎゅっとこぶしを握りしめる。

 私、帰れるのかな。それとも、ひいおばあちゃんみたいに帰れなくなるのかな……

 せっかく大学入れたのにな。

 帰れなくなったらどうしよう。

 そう思うと心が痛くなってくる。

 異世界転移ってもっとわくわくするものかと思ってたけど、現実って厳しいな。

 事故で死んだわけでもないし、召喚された訳だし。

 勇者様! みたいに言われたわけでもないし、淡々としてて、なんか盛り上がりもない。

 そういうもんか。

 私はひいおばあちゃんの話を思い出す。

 勇者と聖女の物語。

 勇者は国の王子だったと言っていたっけ。


「勇者のこと好きだったの?」


 て、私が聞いたらひいおばあちゃんは笑ってたな。


「勇者はどうしたんだろう」


 そう呟き、私は首を傾げた。

 聖女がいたなら勇者もいたはずよね。そして同じように子孫が……いるとは限らないか。

 どうなんだろうな。

 あとでアレクシスさんに詳しく聞いてみよう。




 日が暮れてきたころ、メイドさんが服をたくさん持ってきてくれた。

 ワンピースに幅広のズボン、ブラウス。それにドロワーズや下着など。


「サイズが合えば良いのですが……」


 と、遠慮がちに言われたけれど、まあたぶんだいじかだろう。

 目の前のメイドさんは私とあまり体型が変わらないと思うし。


「ありがとう」


 礼を伝えると、彼女はほっとしたように微笑んだ。


「聖女様、お食事のご用意ができておりますので、ご案内いたしますね」


 なんて言われ、私は目を丸くした。


「せ、せ、せ……」


「聖女様……ですよね……?」


 私の反応を見て、メイドさんは自信なく言う。

 そうかもしれないけれど、いざ、そう呼ばれるとむずむずしてしまうのよ。

 私は目をぐるぐると回したあと、


「り、莉央と呼んでください……!」


 と、裏返る声で言った。


「莉央様ですね、かしこまりました」


 様づけもむず痒いけどそれは仕方ないか。

 私はメイドさんの案内で、食堂へと向かった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?