廊下を歩き部屋へと案内される中、私は窓の外へと視線を向けた。
ここは高台にあるみたいで、街並みがよく見える。明らかに日本のそれとはちがう風景だ。
その向こうに海が見える。
そして廊下。どこかの大きなお屋敷っていうかんじで、紅いじゅうたんがしかれ、天井が高い。
本当に、ファンタジーのゲームみたいだ。扉も普通の木の扉じゃなくて、飾りが彫られているし。
貴族のお屋敷とかかな。
「こちらのお部屋をお使いください」
メイドさんに案内された部屋は、とても広かった。
何畳くらいあるだろう。
テーブルにソファー、風景画が飾られた壁に、暖炉。奥には天蓋のついたベッドが置かれている。しかも大きい。ダブルベッドかな。
「こちらにクローゼットがございます。浴室はこちらでトイレはこちらです」
と、室内の説明をしてくれる。
「お洋服ですが、夜までにはご用意いたします」
と言い、メイドさんは去っていった。
私はキャリーバッグを部屋の隅に置き、窓の向こうを見つめた。
たぶん夕暮れ前、なのかな。
少し、空がオレンジ色に染まってきている。
ここ、異世界なのよね。なのに、空の色、一緒なんだ。
ここ、ひいおばあちゃんが生まれたところなのかな。
不思議なおばあちゃんだったけど、世界を救うために自分を犠牲にしたんだ。
かっこいいけど切ないな。
頭の中に、おとぎ話を話していた時の、ひいおばあちゃんの顔が思い浮かぶ。
ひいおばあちゃんが話したこと、本当だったんだ。
そして私がひいおばあちゃんの役目を引き継いだ。
まさかそんなことになるなんて……
もしかしてお母さんが泣いていたのはこれが理由?
そう思うと、背筋が寒くなる。
「お母さん……」
呟いて、ぎゅっとこぶしを握りしめる。
私、帰れるのかな。それとも、ひいおばあちゃんみたいに帰れなくなるのかな……
せっかく大学入れたのにな。
帰れなくなったらどうしよう。
そう思うと心が痛くなってくる。
異世界転移ってもっとわくわくするものかと思ってたけど、現実って厳しいな。
事故で死んだわけでもないし、召喚された訳だし。
勇者様! みたいに言われたわけでもないし、淡々としてて、なんか盛り上がりもない。
そういうもんか。
私はひいおばあちゃんの話を思い出す。
勇者と聖女の物語。
勇者は国の王子だったと言っていたっけ。
「勇者のこと好きだったの?」
て、私が聞いたらひいおばあちゃんは笑ってたな。
「勇者はどうしたんだろう」
そう呟き、私は首を傾げた。
聖女がいたなら勇者もいたはずよね。そして同じように子孫が……いるとは限らないか。
どうなんだろうな。
あとでアレクシスさんに詳しく聞いてみよう。
日が暮れてきたころ、メイドさんが服をたくさん持ってきてくれた。
ワンピースに幅広のズボン、ブラウス。それにドロワーズや下着など。
「サイズが合えば良いのですが……」
と、遠慮がちに言われたけれど、まあたぶんだいじかだろう。
目の前のメイドさんは私とあまり体型が変わらないと思うし。
「ありがとう」
礼を伝えると、彼女はほっとしたように微笑んだ。
「聖女様、お食事のご用意ができておりますので、ご案内いたしますね」
なんて言われ、私は目を丸くした。
「せ、せ、せ……」
「聖女様……ですよね……?」
私の反応を見て、メイドさんは自信なく言う。
そうかもしれないけれど、いざ、そう呼ばれるとむずむずしてしまうのよ。
私は目をぐるぐると回したあと、
「り、莉央と呼んでください……!」
と、裏返る声で言った。
「莉央様ですね、かしこまりました」
様づけもむず痒いけどそれは仕方ないか。
私はメイドさんの案内で、食堂へと向かった。