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第16話 狭い道での出会い


その男の顔は彫りの深い輪郭で、シャープな顎ライン、精巧に彫られたような端正な容貌を持っていた。威風堂々とした眉の下、深く物憂げな切れ長の目がわずかに吊り上がり、口元にはいつものように含み笑いを浮かべていた。だらりと腰かけているだけなのに、彼の放つ洒脱な雰囲気を隠しようがなかった。


前田愛子は眼前の人物に呆然とした。


中村拓真。


なぜ彼がここに?


次の瞬間、彼が男モデル兼運転手など複数の肩書きを持つことを思い出し、その仕事の幅の広さに内心ため息をついた。


「結果は五日以内って言ってなかった?」愛子は約束の期限までまだ二日あることを確認しながら言った。「前倒しでわかったの?」


中村は気さくに笑い、書類を彼女の前に滑らせた。「前田さんが迅速に動いてくれたから、サービスで急ぎましたよ」


愛子が書類を手に取ると、指先が微かに震えた。そこには五年前の一月三日から五日までの前田健太の行動記録が、時間単位で詳細に記されていた。数枚のぼやけた防犯カメラの画像には――顔は判別できなくとも、そのシルエットが彼女を氷の檻に閉じ込めたかのように全身の震えを抑えられなかった。


やはり彼だった!


「これらは……」愛子の声はかすれていた。「どうやって入手したの?」


「職業倫理ですよ」中村は笑みを引っ込め、真剣な表情に変わった。「ご安心を。彼には気づかれてません」


それ以上詮索せず、愛子の視線は書類の末尾にある署名へ向かった。乱れてはいるが力強い筆跡は、彼女のパソコンにある幾つかの契約書の署名と瓜二つだった。


深く息を吸い込み、書類を中村に押し返した。「費用は?」


「緊急手配料は前田さんが既に支払ってますから」中村の笑みが深まった。「今回はサービスです」


愛子は一瞬固まり、すぐに悟った――彼は最初から彼女が調べている内容を知っていたのだ。自然とバッグに手を伸ばした。中には護身スプレーが入っている。五年前の経験以来、外出時は必ず携帯するのが習慣になっていた。


「なぜ助けるの?」警戒した眼差しで彼を見つめ、整った顔に答えを探ろうとした。


中村がエンジンをかけ、淡々と言った。「力に物を言わせる奴が気に食わないだけです」


愛子はそれ以上何も言わず、渡辺結衣の家までの行き先を告げた。今はあの名ばかりの「自宅」に戻りたくもなければ、前田健太の顔も見たくなかった。


車が滑るように走り、窓外のネオンが彼女の顔を明滅させた。先ほど書類で目にした内容――五年前の健太の動きと彼女に起きた事件の時期が完全に一致していたことを思い出し、心の底から冷たいものが這い上がってくるのを感じた。


「そういえば」愛子が突然思いついたように言った。「富田航平って知ってる?」


中村がハンドルを握る手が止まり、横目で彼女を見た。「富田グループの御曹司のことか?」


「ええ」愛子がうなずく。「あの写真で、五年前の件に関わってるのが見えたの」


中村は合点がいったように、口元に含み笑いを浮かべた。「前田さん、彼を調べたいのか?」


「ただの好奇心よ」彼女は目をそらした。「写真に写った人物との関係は?」


「元々はビジネスパートナーだった」中村は簡潔に説明した。「ただ、後に決裂したらしい」


それ以上は聞かず、愛子は心の中で考えを巡らせた。五年前の出来事は、彼女が想像していた以上に複雑なようだ。


車が渡辺結衣のマンション前に到着し、愛子が降りようとした時、携帯が震えた。前田健太からのメッセージだった:


「どこにいる?」

「なぜ返信しない?」

「結衣の家にいるな!ドアを開けろ!」


愛子が顔をしかめると、中村拓真を見た。「あなた、いったい誰なの?」


中村が振り返った。街灯の光が彼の整った横顔の輪郭を浮かび上がらせ、彼は澄んだ笑顔で答えた。「ただの、君を助けたい人間さ」


何も言わず、愛子はドアを開けた。おそらく、すべての仮面を剥がす時が来たのだろう。


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