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第4話  前へ

 私はフリーター生活を辞めて、正社員になることを選んだ。ハローワークの紹介で、受けた会社で中途採用が決まったのだ。仕事内容は「事務」としか記載がなかったが、仕事してみたら、「一般事務」と「介護保険事務」の、兼務だった。毎日定時に帰れることはなく、かといって残業代も1円も付かず、お給料だって、手取り10万円…。これでは一人暮らしやっていけない・・・。会社の就業規則で副業も禁止されていた。これならフリーター生活のままの方が良かったかも、と後悔したりもした。お昼休憩もまともに取れたことはなかった。休憩中に来客があれば、対応しなければならず、電話が鳴れば対応しなければならず…。お弁当は五分程度で掻き込むように食べていた。


また、これまでの事務の方はずっと手書きで「紙媒体」の資料を使っていたため、私はパソコンで全て作り直した。誰も教えてはくれなかったけれど、やらなければいけなかったという状況だったため、WordもExcelもなんとか使いこなしていた。収支一覧表、売掛金買掛金一覧表、日報、介護保険レンタル料金請求書兼領収書、休日出勤までして作成した。


ある日、部長が私のいる部署まで来て、こう言う。

「君もそろそろ、結婚とかどうだ?ここに営業に来る、松下君なんてどうだ?」

当たり前に繰り広げられる、ハラスメント。迷惑していた。それは、営業マン、松下さんも同じだったらしく、その後すぐに担当者が変わった。


また、別の日には、中途採用で入社した社員(試用期間中)が、部長からおつかいを頼まれ、買い出し中に携帯電話に着信があり、出てみれば、

「君、明日から来なくていいから!」

といきなりの解雇を言い渡された、と私に言いにきた。

「あなたなら、こんな会社より、もっといいところに就職出来ますよ。」

私は優しくなだめた。彼は酷く落ち込んでいる様子だった。


こんな安月給で、ハラスメントに耐えながらやっていくのは、さすがに精神的につらかった。


きっかけとなった出来事は、経理部が私が提出した、売掛金買掛金一覧表を元に、銀行にそれぞれの会社にお金を振り込むのだが、A社に送金すべきお金をD社に、B社に送金すべきお金をC社に間違えて送金してしまう、というミスをしてしまった。


部長は、すぐさま、ミスをした彼女を解雇した。


私の部署にきた彼女に、

「あなたらしくない、ミスしたね?何かあったの?」

と聞いた。彼女は、

「自分でも、何で間違えたのかよくわからない…。でも、これで解放される…!」

彼女も苦しめられてきたのだろう。私は彼女の肩を抱き寄せ、耳元で、

「私も、すぐに辞めるつもりよ…。」

と小声で言った。彼女は、

「私の味方なんて、誰もいないと思ってました…。でも、違った…。少なくとも、あなたは私にとって、よき理解者でした。」

涙を流しながら、言った。


二階の部署は息が詰まりそうなくらい、緊迫した空気が張り詰めていた。私の部署は、来客があれば、仕事そっちのけで世間話したりするなど、息抜きは出来ていた。


私は、この、任されている仕事だけ終わらせたら、辞めよう。そう考えていた。


いつまでもこんなブラック企業にいたら、心身がもたない。そうだな、次は派遣会社に登録して、派遣社員にでもなろうか?


そんなこんなで、私が退職出来たのは私が入社してから二年後だった。




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