春の光が、窓から差し込んでいた。
食卓には、優斗が作ってくれたサンドイッチと、私のいれたコーヒー。
希美は小さな椅子に座って、お気に入りのスプーンでヨーグルトをすくっていた。
「おいしい?」
と聞くと、にこっと笑って、ぺたんと手を叩く。
その姿を見ているだけで、涙が出そうになる。
ああ、これが――
私の欲しかった“家族”だ。
声を荒らげる人もいない。
誰かと比べられることもない。
ここには、優しさと、穏やかな時間がある。
希美が昼寝した後、私は押し入れから、ずっとしまい込んでいた封筒を取り出した。
「陳念さんからの、最後の手紙──」
何度も読み返してボロボロになった手紙。
でも今日は、何かが違っていた。
ゆっくりと、心の中で語りかける。
「ねえ、陳念さん。やっとここまで来たよ。あなたの言葉に、私は何度も救われて……。でも、もう私は、大丈夫だよ。あなたがいなくても、自分で立ち上がれるようになったから。」
風に舞うように、涙が一筋、頬を伝う。
私は、そっと封筒を元の箱に戻した。
「ありがとう。そして、さようなら。」
それは“永遠の別れ”ではなく、“心の中で生き続けてもらう”という新しい形の“お別れ”だった。
夜、優斗がそっと寄り添ってくる。
「……どうしたの?」
「ううん、なんでもない。ただ、やっとちゃんと前を向けた気がして。」
「なら、よかった。」
優斗はそれ以上、何も聞かなかった。ただ、黙って手を握ってくれた。
私は、もう誰かに認められようと無理をすることはやめた。
私が私であることを許してくれる人たちと、生きていく。
「ねえ、私たち、将来のこと、ちゃんと考えていこうね。」
「うん。一緒に、幸せになろう。」
“復讐”とは、自分の人生を取り戻すことだった。
“幸せになる”ことは、かつての自分を裏切ることではない。
むしろ、あの苦しみの中で、必死に生きてきた“私”への最高のご褒美だ。
これから、私たちの未来がどんな色に染まっていくのかは、まだわからない。
でも、私はもう、過去に振り回されることなく、目の前の愛を、信じて進んでいける。
そう、ようやく私は、“本当の自分”を生き始めたのだから。