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第28話  子どもたちの成長

春の風がやわらかく吹く朝。


桜並木の下、ピカピカのランドセルを背負った娘が、誇らしげに立っていた。制服のリボンを何度も直しながら、「ちょっと緊張してるかも」と、笑ったその顔は、いつの間にかずいぶんお姉さんらしくなっていた。


「ママ、行ってきます!」


元気にそう言って校門をくぐる娘の背中を、私と優斗は少し離れた場所から見守っていた。まるで昨日まで幼稚園児だったように思えるのに、その背中はもう、未来に向かって歩き始めている。


「大きくなったなぁ…」

と優斗がつぶやく。


「うん…なんか、泣きそう」


希美の入学式の日。家族写真を撮るために、私たちはちょっとだけおめかしをして、まだ小さな雅紀も参加していた。


雅紀もこの春、保育園に入園したばかりだった。初めての集団生活に戸惑いながらも、少しずつ慣れてきたようで、最近では元気に手を振ってくれる日も増えてきた。


朝の送りの時、先生の腕の中で泣いていたあの子が、今日はニコニコしている。その姿に、なんとも言えない誇らしさと寂しさを感じる。


「家がちょっとだけ、静かになったね」

と、帰宅途中、優斗がぽつりと言った。


「ほんとに。ちょっと前まで、朝からずっとバタバタしてたのに」


私たちは、二人の成長を喜びながらも、日々の忙しさの中にいた小さな幸せが、思い出へと変わっていくことに気づいていた。


希美は、学校で新しい友達ができたことや、学校での出来事を毎日話してくれるようになった。


「今日ね、国語で詩を書いたの!」


と見せてくれたノートには、大きく「わたしのおとうと」と題された詩が書かれていた。


「ないたら わたしが だっこする

 わらったら いっしょに わらう

 だいすきな だいすきな おとうと」


それを見た瞬間、私はもう、泣きそうだった。


この子たちは、これからも互いに寄り添いながら、成長していくのだろう。親として私たちにできるのは、その道のりを、少し後ろから見守ること。


そんな春の始まりだった。


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