私の言葉に全員が機嫌よく返事をしてお皿を持って移動していく。何だか本気で一気に三人の子持ちになった気分だ。
ビールが進む照り焼きチキンを食べながら私はよく分からない聖女について聞いてみる事にした。
「ところでさ、その聖女って何なの? どういう存在な訳?」
「聖女? そうねぇ、高位妖精と勇者様の次に重要人物ね。この国というか世界では、何十年かに一度だけ異世界から誰かを召喚する事が出来るのよ」
「へぇ。ていうか何十年かに一度って随分曖昧ね」
「星回りのせいよ。惑星が直列になる日がね、あるのよ。それは予測不可能で、直近にならないと分からない。その日は星や精霊の力が強まる時で、勇者、もしくは聖女を召喚出来るって言われてたのよ」
「言われてた? 今まで召喚した事ないの?」
「無いの。前に召喚したのはそれこそ90年前よ。私はもちろん生まれてないし、パパもまれて無かったわ」
「ふぅん。でもあれだね。勇者か聖女って結構な賭けだね」
せめて選ばせてくれたらいいのに、と思いつつ私が言うと、ルチルもトワも頷いた。
「勇者は召喚出来れば当たりだって言われてるわね。まぁ、一番の大当たりは高位妖精が国に留まってくれる事なんだけど」
そう言ってルチルはちらりとクリスを見た。クリスはさっきから羽を虹色に輝かせながら照り焼きチキンを口いっぱいに頬張っている。
「そんな珍しいの? これが?」
「おいヒマヒ! コエっへ言うな!」
「食べながら話さないの! 行儀悪いでしょ!」
思わず私が言うと、クリスはバツが悪そうにチキンをワインで流しこんでまたチキンを貪っている。
「ふふ、ヒマリは信じないかもしれないけど、この国に高位妖精が住み着くなんて実に376年振りなんだから!」
「え、めっちゃレアじゃん! あー……なんでティンカーベルみたいなの来なかったんだろう。こんな所で運使いたくなかったなぁ」
「ヒマヒ!」
「食べながら喋るな!」
「……んぐ」
間髪入れずに叱った私を見てトワがとうとう声を出して笑い出した。
「はは! ヒマリにかかると高位妖精も騎士団長も姫でさえも形無しですね! ここではヒマリがルールですもんね」
「ふぃ~。全くだ。僕にこんな事言うやつ初めてだよ」
「でもその割に楽しそうじゃないですか」
トワがおかしそうに言うと、クリスは照れくさそうに耳を赤く染めた。
「でもクリスは聖女さまのとこ行くんだもんね?」
何気なく私が言うと、ルチルもトワもギョッとした顔をしてクリスを見る。二人の視線を一身に受けたクリスはさっきとは別の意味でそっぽを向いてしまった。
「ど、どういう事なの? ヒマリ!」
「なんかね、間違えたんだってさ。私と聖女を」
「ま、間違えたぁ!? クリス様! 一体どういう事なんです!?」
フォークを持って詰め寄るルチルを見て流石のクリスもヤバいと感じたのか、慌ててトワの後ろに隠れると顔だけ出して早口で言った。
「予言書が! 悪いんだ! 曖昧でいつも僕たちは大変なんだからな! ヒマリ、タッチ」
「タッチって。えっとね、何か妖精の所には予言書っていうのがあって、それで高位妖精は居場所決めるんだって。それで、聖女と私を間違えたんじゃないかーって」
チキンを切り分けながら言うと、トワが呆れたような顔をして背中に隠れているクリスに言う。
「そんなもの間違えます? あなた達のパートナーはその人間が死ぬまで変える事は出来ないと聞いてますよ?」
「え、そうなの? ちょっとクリス! そうなの!?」