「気を付けて下さい、ロボットは青、赤、白、黒の順に強くなっています」
なんでウィンディアがそんな事を知っているのだろうか?
でも水色のシーカーは一番の雑魚だが、今の武器の無い俺では戦えない。
何か武器は……俺は宇宙船の小型ビーム砲を取り外し、シーカー二機に向かって放った。
ビームを受けたシーカーは爆発、俺達は最初の敵に勝利する事が出来た。
瓦礫と乾いた大地の先、丘の向こうに見えるのは、鬱蒼とした森だった。
だが、この世界では自然があまりにも少ない。廃墟と死の風景の中、あの森だけが、浮いて見えた。
「……あそこに、人がいるの?」
ウィンディアの声に、俺は頷く。あの森の先にあるはずだ。**“人類最後の町”**が。
ゲームの中では、「グリーンガーデン」と呼ばれていた拠点都市。終末戦争を生き延びた連邦残党の、最後の砦。
足元のパネルがカチリと音を立てる。画面が切り替わり──
──画面が切り替わらない。
その瞬間、プレイヤーとしての記憶が蘇る。
(ああ……そうだ、ここ、クソゲーだった……!)
メモリ不足から外観マップに町のグラを表示できず、「森の床パネル」を踏むことでいきなり画面切り替え、インスタント入場。
スタートから右に一歩進めば街に入れるという形で問題ないと思われたのだろう。
旧版では、開始と同時にただフィールドに放り出され、説明もなく、右に一歩動けば町、逆に進めば即エンカウント&死亡という無慈悲仕様だった。
だが──ここでは違った。
墜落宇宙船のバリアフィールドにより、一定時間は外に出られない。
やがて、頭上のモニター越しにウィンディアの声が響く。
「バリアフィールドが安定しました。…右方向、およそ30セル先に都市反応を検知」
……これは、かつての“プレイヤーが踏み損ねた床”を、この世界が自ら修正した証なのかもしれない。
あの伝説の有名ゲーム、ドラゴンズ・スターもテストプレイの時はフィールドスタートにして下にある城の形のアイコンに入ればいいというスタイルだったが、未経験のプレイヤーはそんなもの知らないので外で全滅、仕方なく城の中に閉じ込めてそこからスタートという流れにしたと聞く。
ただし踏み損ねると永久に町にたどり着けず、逆方向に行くとエンカウント→死亡。
でも──今の俺はプレイヤーじゃない。この世界に“生きて”いる。
じっと森を見つめると、不自然なことに気づいた。
木々の重なり、光の反射、空の見え方……どこか、物理法則がおかしい。
「これ……投影だな」
俺は呟く。ゲーム制作時代に仕込んだ設定の一つ。『高位屈折投影によるカモフラージュ偽装』。
本来、未実装の都市外観グラフィックをカバーするために、設定だけが残った背景処理の名残。
ならば、どこかに“入り口”があるはずだ。
ウィンディアと共に森を抜け、足元の枯葉を踏みしめながら注意深く進む。
風が止み、空気の密度が変わった瞬間──前方の木々が、ゆっくりと透けていった。
数秒後、そこにはまったく違う景色が現れた。
灰色の高層構造物。壁に埋め込まれたセンサー、風力吸引タービン。
地表に露出しないよう、森の中に巧妙に埋め込まれた小さなドーム都市。
「ここが……“グリーンガーデン”」
その瞬間、視界の端にチカリと何かが光った。
警告ドローン。ここを防衛する無人機だ。
あの森を抜けた先、空気が変わった。
「……まさか、本当に“人類最後の町”があるとはな」
無骨な防壁に囲まれたその都市には、確かに俺がゲームで何度も見たロゴ――“銀河連邦”のマークがあった。
でも画面で見るより、ずっと冷たくて、重い。
俺とウィンディアが歩を進めると、突如として警報が鳴った。
「止まれッ! そこから一歩も動くな!」
武装した兵士たちが俺たちを取り囲む。その銃口が、ウィンディアに集中する。
「ターゲット、反応あり。……が、識別コード不明。ロストコードの可能性高し」
ロストコード……確か、ゲーム中で語られていた“人間に偽装したアンドロイド兵器”。
その一部が暴走し、人間の街を壊滅させたって設定があった。
「お前たち、人間のフリをしてここに何しに来た!」
鋭く詰め寄ってきたのは、銀髪にバイザーの男――ヨシュア。俺は思わず口を開いた。
マリアといい、ヨシュアといい、銀髪が多いのはグラフィック的な問題だったのかもしれない。
だから青みかかった銀髪は表現が難しくて、ウィンディアが紫の髪にあったという可能性もあるな。
「待ってくれ! 彼女は――ウィンディアはそんな存在じゃない!」
「じゃあ説明してみろ。“何も知らない”あんたが、どうやってそのロストコードと一緒にここまで来たんだ!?」
怒気を帯びた声。
その一言で、ヨシュアが心底、彼女の存在を恐れているとわかった。
……ああ、これが“本来のスターゲイザー”の展開なんだな。
以前やったゲームでは、こんな風に物語が動くことはなかった。
仲間にヨシュアがいる状態でこの町に入ると、なぜか街の中央に別のヨシュアが出現し、唐突に「お前はロボットか!?」と叫び、いきなり殴ってくる。
殴られた次の瞬間には元通り仲間に戻ってる。意味不明だった。むしろバグだと確信してた。
でも、今は違う。
この世界では、ちゃんと彼には理由がある。
ロストコードに家族を奪われた怒り。
感情を模したアンドロイドに裏切られた恐怖。
それでも、俺は――
「……それでも、信じたい。彼女が……人間じゃなくても、誰かを守ろうとしてるなら、それでいい」
ヨシュアの拳が、俺の顔に飛んできた。
頬に衝撃が走る。痛みよりも、重みがある。
でも――これでいい。ようやく、俺は“物語”の中に立てた気がした。
この一連の流れが、本来描かれるべきだった人間ドラマなんだと、俺は実感していた。
昔のゲームでは、このイベントのせいでプレイヤーが混乱して攻略を諦めたって、よく聞く。
「仲間が二人いる」
「意味不明のセリフで殴られる」
「何も説明されない」
――まさに理不尽の塊だった。
でも、今の俺は、あの頃のプレイヤーじゃない。
もう一度、この世界で「やり直す」ことができるのなら――
きっと、エリカが見たかった“本当の物語”に辿り着ける。
「どうした、スパイめ。さっさと化けの皮をはがせよ!」
だがおれは反論も抵抗もしなかった。
何故なら本来なら、この後これどころじゃなくなるイベントが襲来するからだ。
それなら下手にストーリーに逆らうより、あるように話の流れに沿った方がいい。
「な、何だあれは!!」
「まさか、ついに見つかってしまったのか」
「大佐に、早く大佐に報告するんだー!」
来たか! ゲームの本来のイベントボスの襲来、つまり……機動兵器ガーディアンの登場だ!
「ギガガガッ……ガギギッ」
不気味な機械音を立てながら、多脚歩行型の円盤に脚の付いた蜘蛛にウニの付いたような巨大兵器。
そう、これはスタジオきまいらのデザインした本格SF機動兵器のボスだ。
ゲームではこの多脚歩行が再現できず、四本足のカニ扱いだったが、確かに巨大なハサミに見えるパーツとか、どう見ても黄色のカニだな。
って、躊躇している場合じゃない。
こいつは執拗にウィンディアを狙ってくる。
でもウィンディアはこの時点ではほぼ戦闘できない役立たず、でも戦闘不能になるとゲームオーバーだ。
だから何が何でもウィンディアをあの機動要塞ガーディアンから守り抜かないといけない。
本当はウィンディアを戦闘不能にしてしまってはいけない理由があるんだが、ゲーム中ではそれが語られないままだった。
「上からくるぞ、気をつけろ!!」
先程まで俺と敵対していたヨシュアだったが、人類の敵が現れた事で、俺ではない本当の敵に気が付いたようだ。
さあ、どうやってこの巨大ボスを倒せばいいんだろうか。