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赤い帽子のウェネーフィカ Venefica Pilei Rubri
赤い帽子のウェネーフィカ Venefica Pilei Rubri
まめいえ
異世界ファンタジー冒険・バトル
2025年07月25日
公開日
2.4万字
連載中
 極度のお人好しが災いして、魔法学校で最低ランクの「赤帽子」を手渡された少女――それがウェネーフィカ。  今日も卒業試験の日だというのに、彼女は他人のために魔法を使ってばかり。  素質はあるのに、自分のことはつい後回しにしてしまう。  そんな彼女が出会ったのは、かつて魔王を封印した偉大なる大魔法使い、ルーシアの記憶を受け継ぐ「赤帽子」だった。  お人好しなのは相変わらず。  でも、出会う人々に寄り添い、助け続けるウェネーフィカの姿は、やがて多くの人の心を動かしていく。    小さな優しさは、やがて世界を変える大きな力となる。  仲間たちと共に歩むその旅路は、封印の綻びから現れた「闇の王」テネブラルムとの戦いへとつながっていく――。  ウェネーフィカの成長と冒険の物語、どうぞお楽しみください。  マッチョ?  それを すてるだなんて とんでもない!

第1章

第1話

 遥か昔――。

 世界は、闇の王テネブラルムによって支配されていた。

 空は黒雲に覆われ、陽の光は届かず。大地は魔物が蹂躙じゅうりんし、人々は希望を失っていた。

 誰もが闇に屈しようとしていたとき、一人の魔女が立ち上がった。

 名はルーシア。

 大いなる叡智と魔力を携え、彼女はいくつもの試練と戦いを超えて、ついに闇の王を封印した。

 世界に光が戻り、人々はようやく平穏を取り戻した。

 偉大なる第魔法使いルーシアの名は希望の象徴として語り継がなければならない。

 彼女の功績を、ここに「ルーシアの書」としてまとめる。

 これから先、魔法を学ぶものたちの教典となることを願って――。

《ルーシアの書 第1章 第1節要約》



 抜けるような青空が、どこまでも高く広がっていた。

 緑の木立の隙間から陽光が差し込み、小鳥たちが楽しげにさえずる。


 ここは魔法学園ルメノーラ。


 魔法使いの卵たちが、旅立ちを迎える朝だった。


 今日は、卒業試験の日。

 生徒たちは緊張の面持ちで、学園内にある学生寮から、ぞろぞろと試験会場の本校舎へと向かっていた。


「うわぁ、いよいよだ……。ねぇ、ルーシアの書って暗記できた? ウェネーフィカ」


 濃紺のセーラー服と同じ色のケープをまとった二人の少女が、朝日を浴びながら並んで歩いている。


 金髪の少女が不安げに声を漏らすと、隣を歩く黒髪の少女――ウェネーフィカはにこりと笑って、彼女の肩を軽く叩いた。


「もちろん! 第3章第3節までばっちりよ!」

「いいよなぁ、ウェネーフィカは成績優秀で……!」


 照れくさそうに笑うウェネーフィカのボブヘアが、風に揺れて光を反射する。


「そんなことないわよ、フラウィア。私だって自信満々ってわけじゃないわ」


「いやいや! もしかして黒帽子、もらっちゃったりして!」

 フラウィアの目がきらりと光る。


 魔法学園ルメノーラの卒業生は、卒業証書の代わりに「とんがり帽子」を授与される。その帽子の色は、卒業試験の成績によって決まり、魔法使いの実力を象徴するものだった。

 最高位が黒帽子。その次に白、青、緑、紫、赤と続く。


 今日の結果次第で授与される帽子の色が決まる。

 生徒たちの歩みには、自然と緊張が滲にじんでいた。


「ウェネーフィカが黒帽子ですって? そのセリフ、聞き捨てならないわね!」


 背後から、ピンと張った声が飛んできた。


 二人が振り返ると、茶色の長髪を一つに結んだ少女が立っていた。

 少し吊り上がった目元に、強気な微笑みを浮かべている。


 アルカナ。

 彼女もまた、黒帽子候補と目もくされる成績優秀者だった。


「あら、アルカナ。魔力の揺らぎを感じるけど……もしかして、寝不足かしら?」


 ウェネーフィカが彼女を一目見るなり、さらりと言った。


 図星だったらしい。アルカナは一瞬固まり、ぎこちなく眉間に皺しわを寄せた。


「なっ、なんでわかったの? 確かに緊張して、全然眠れなかったけど!」

「このままだと実力が出せないわ。少しだけ……魔力、整えてあげる」


 ウェネーフィカはそっと両手をアルカナの頬に添えた。


 ふわり――。


 光がにじむように指先から広がり、淡い金色の魔力がアルカナの体を包み込んだ。

 緊張がほどけていく。まるで温かな光に抱かれているようで、彼女は自然と目を閉じていた。


「ふぁ……。え……? 私、今ちょっと……寝てた?」


 目を開けたアルカナは両手を握ったり閉じたりしながら、確かに自身の魔力が充実していることを実感した。


「もう大丈夫ね。さぁ、アルカナも試験、一緒にがんばろうね!」

「おっ、お礼は後で必ずするんだからっ! これで勝ったと思わないでよねっ、ウェネーフィカ!」


 真っ赤になったアルカナがぷいっと顔をそむける。

 その様子を見たフラウィアが、やれやれと肩をすくめた。


「まったく、あんたってほんとお人好しなんだから……」

「実力を出しきれないのは、もったいないじゃない?」


 ウェネーフィカが笑顔で応えると、一部始終を見ていた他の生徒たちが、わっと彼女のもとへ押し寄せてきた。


「ウェネーフィカ! 私にもやって!」

「頼む! 昨日、夜中まで勉強してて!」

「朝から筋肉の張りが悪くてさ!」

「お願い……私も!」


 あっという間に彼女の周囲は生徒の波に囲まれた。


「わかった! わかったから順番にね! でも私の魔力にも限界があるから、少しだけだよ?」


 ウェネーフィカは、試験会場である本校舎の目の前で、最後まで仲間たちの魔力を癒やし続けたのだった。


 魔法学園ルメノーラ。

 その年の卒業試験は、かつてないほどハイレベルだったという――。

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