「スパイク!!」
――ドコッ!!
棍棒を持って襲い来るモンスター――ゴブリン。そいつの顔面にメリケンサックの『スパイク』攻撃を強打。
「――」
声を上げずに光の粒子となって消える。
「ビギャ!!」
助走をつけて飛び掛かって来るゴブリン。
「ッフ!」
そいつの顔面に裏拳を強打し、攻撃。先ほどと同じく光の粒子となって消える。
「ギャギ!!」
「ピギャギャ!!」
まだまだ存在するゴブリンの群れ。数はまだこっちが上だとヘラヘラ笑っている二体をターゲットと定める。
「グロウ・スパイク!!」
――ッピシィ!!
肘から先の機械の腕。それを発射してロケットパンチ。
「ッギ――!?」
繋がった魔力線を巻く容量で右腕を戻し、次に左腕を発射。
強打した音と共に、ヘラヘラしていた二体目が粒子となって消える。
「ッギギィ!!」
「ッギャイ!!」
「ッギ!!」
仲間がやられてもお構いなし。飽きもせず同じく飛び掛かって来るゴブリンたち。
「同じ手を! ッオラ!!」
――ブンッ!!
左脚を軸にして右脚回し蹴り。三体まとめて蹴り貫き吹き飛ばす。
「ア゛ア!!」
「ッ!!」
二度ある事は三度ある。蹴り貫いた矢先にまたもや飛び掛かってくるゴブリンたち。次は右脚を軸にして左脚で回し蹴り。そして右脚でまた回し蹴りと、襲い掛かってくる度に何度も何度も蹴り倒した。
そして最後の一体。
「ギギャギィィイイ!!」
棍棒を振り回しながら半狂乱で襲ってくる。
「ッハ!」
「!?」
飛び掛かるゴブリンにアッパー攻撃で浮かせる。そして俺は跳躍し、そのまま右回し蹴り。
――ッドス!
ゴブリンの腹部に回し蹴りを当てず、足裏を当てた。
そして。
――ッガンッ!!
踵から発射された魔力弾が破裂し、ゴブリンの腹部に文字通り風穴を空けた。
「――」
声を上げる事も無く消えるゴブリンを他所に、俺は静かに着地。
『モンスター集団を倒せ:クリア』
「ふぅ……」
無事に課せられたチュートリアルをクリアできたようだ。最初のスライムを倒すチュートリアルから既に何個かクリアしている。俺が身に着けている技の出し方だったり、このモンスターはこう戦おう、こういったモンスターはここが弱点だ、とかいろいろ。
中には分厚い体を持つゴーレムみたいなモンスターが相手だったり、光の玉みたいなフワフワしたモンスターも相手取った。
この真っ白な空間でチュートリアルをこなしていく中、四肢が機械のこの体に順応していくのがわかった。
普通の人間だった時とは違い、物凄く体が軽いし心なしか視力もよくなっている印象。何より体の柔軟性が凄い。バレエダンサーや中国拳法の達人並に柔らかく、そして強靭だ。
『チュートリアルクリアおめでとうございます』
――イエーイ!!
「お。メッセージが変わった」
しかも某だるまさんがころんだ風ホラーゲームの6、時を迎えたSE、つまりは子供たちのファンファーレが脳内に響いた。
『今まで戦ったモンスターは、この世界のごく一部のモンスターです。さらなる危険、さらなる強敵がサンドリヨンを待っています』
スライムをやゴブリン、ゴーレムはザコモンスターだとこのメッセージは言っている。
そして俺の名前は元の世界の時の名前じゃなくて、"サンドリヨン"だと。そして俺ことサンドリヨンを強敵たちが待っていると。
今し方戦い方を覚えたけど、つい数時間前はどこにでもいる大学生。普通に考えてアブナイ奴らが俺を待ってるとか恐怖でしかない。
『ソロで世界を探索するも良し。ギルドに入りメンバーと切磋琢磨するも良し。王国や帝国の騎士となり国を守るのも良し。サンドリヨンの生き方はサンドリヨン次第なのです』
イモータルワールド――そのゲームのパッケージ裏には"自由を謳歌せよ"とのキャッチフレーズが書いてあった。視界に映るメッセージ然り、この世界を生きるための選択は正に俺次第だ。
『さあ! 冒険の始まりだ!!』
――グワン。
そうメッセージが綴られた瞬間、向こうに見えている重厚な扉が音を立てて開いた。外からの光が漏れ出している。
「よし」
意を決して歩を進める。
この部屋は何なのか。俺の四肢はなんで機械になったのか。そして俺はどうなるのか。正直、ハッキリとした理由も訳も分からず、チュートリアルの流れに身を任せてた。
確かにここはゲームの世界だ。でも、現実でもある。
大学生の時は何の生産性も無い一般的な人間だった。友達も少なかったし、恋人なんて居たためしはない。
でも、やり直せる。この世界なら。この世界から。
そう思いながら、俺は新しい第一歩を進む。
漏れ出す光の中へ。
手をかざして眩しさを過ぎるとそこは……。
「――ッ!?」
光の塊だった。
いや、それは余りにも抽象的すぎる。光の塊と認識したのは立ち並ぶ高層ビルの部屋明りや街灯、ビルに埋め込まれた大画面モニターの映像。
空飛ぶ大型ドローン、小型ドローン。アスファルトとは違う物で作られた道。そこには光が通るラインが進行方向へと流れている。
道行く人は作業員みたいな人からアーマーを装備した人。
「エッホエッホ」
「ふむ……」
ケモ耳が付いた人や鍔の長い帽子を被る耳長の人。
「ポーション買おうかな」
「シュワシュワなのがいいニャ!」
「最近肩の調子がなぁ」
「パーツ取り替えたら?」
そして俺と同じっぽいアンドロイドみたいな人たちが歩き、語り合い、または商いをしている。
「……」
呆気にとられるのも無理はないと思う。確かにゲームの世界に転移? 転生? ダイブ? したのはもう後の祭りで覚悟をしたけども、現代社会では創作物でしかない世界を実際に目にすることは文字通り衝撃が違う。
「ッ!?」
当たりを見て目の当たりにしていると、不意に視界に違和感。まるでこの地域をスキャンする様にオレンジ色の波が波及。一定距離を建物の輪郭部分が透視する程だ。
「ス、スゲェ……」
この現実に、この身体に、心底震える程に驚愕。
そんな呆然としていた時だった。
「おいアンタ」
「え、あ、はい!」
突然背後から話しかけられ、キョドリながら振りかえった。
声をかけてきた人は男の人だった。声からして男だとはわかっていたが、着ている服が何かブルーの制服? でバッジも付けている。
「驚かせてすまない。俺は公安の者だ」
そう言いながら懐から手帳を見せて来た。日本警察を彷彿とさせるバッジに加え堂々とした出で立ち。どうやら警察……公安の人と信じられる。
そして警察とわかると俺は背筋を伸ばした。高校生や大学生の頃に何度か職質を受けて以来、どうも警察に話しかけられると不安が募る。別に悪い事してないのに……。
「ハハハ。そう身構えなくてもいい。別に捕まえようとして声をかけたつもりはない」
「は、はぁ……」
身長は俺と同じ180cm代で目と目が合う。笑った拍子に目じりに小皺が寄せたから、中年くらいだと思う。
「まぁまずは場所を移そうか。ここは転移ポータルのすぐそばだからな。突っ立ってたら利用者に迷惑だ」
「え?」
そう言われて上を向きながら視界を広げると、天井が高くて幅が広い、光の輪が上昇している装置の間隣りだった。
それを詳しく見る暇もなく、公安の人に連れられて直ぐ側の角まで移動した。
「俺の見立てだが、アンタは生まれたばかりのアンドロイドだろ」
「え、あ、――」
「ああ大丈夫だ何も言うな。転移ポータル付近でぼーっと立ってる奴の大抵は生まれたばかりのアンドロイドだと相場が決まってる」
公安の人はしたり顔で俺を見てニヤついている。察するにどうやら俺みたいな奴は珍しくないらしい……。
「あー……。アンドロイドにしては胴体と顔が人間すぎるしぃ、腕と脚の部分がエライ特徴的だな……。アンタ戦闘用のアンドロイドだろ」
「せ、戦闘用……ですか?」
「基本的にアンドロイドはポータルを通る前にチュートリアルを受けている。そしてアンタが受けたチュートリアルは戦闘チュートリアルだろ」
首を縦に振って同意した。
「やっぱりな。俺はこの辺の警備を任せられて長い関係上、アンタみたいな連中のサポートも任せられている。と言っても、生産系アンドロイドなら生産系の場所へ。戦闘系ならば戦闘系の場所を教えるだけだけどな」
そう言いながら公安の人は腕を組んだ。
「早速だが、電子身分証……IDを見せてくれ」
「……」
「どうした? IDだ」
「……あの」
「なんだ」
「身分証ですよね……。その、IDってどこで貰えるんですか……」
申し訳ないと後頭部を掻きながら口にすると、公安の人は口を開けて呆れていた。