「こんにちは。ドロシーちゃん」
「モナさん! お久しぶりです! 本当にしばらくぶりですね!」
腰に手を当てたうさ耳の人――モナさんと、ドロシーって名前の受付嬢さんは顔見知りらしい。
「ちょっと実家に帰っててね。オルケストルみたいな大都市じゃないド田舎。オルケストルに住んで長いからド田舎は退屈してたわ」
「そうだったんですねぇ。あ! 今度お土産話を聞かせてくださいね!」
「そうね、またお茶しましょうか。と言っても、特に何も起こらなかったけどね」
「それでも聞きたいです!」
どうやら普通の顔見知りじゃなくお茶をしばく仲だと。方やお目目クリクリ可愛い系なドロシーさん。方やセクシーダイナマイトのモナさん。キャラとしては対極にある二人だが、人の縁はどう繋がるかわからないモノだ。
「それはそうとして、ボウヤはお困りの様だけど?」
そう言いながら俺と目を合わせて来るモナさん。凄くセクシーで顔もベッピンさんときた。大学生の俺だったら生足や下乳から目が離せないとんでもなく失礼な行動をとっていたが、アンドロイドだからかその辺の情が湧かない。
それとボウヤってなんやねん。これでも元大学生やぞ。
おっと、つい関西弁になってしまった……。
「モナさん。こちらはサンドリヨンさんです」
「どうも……」
ドロシーさんの紹介に預かり、モナさんに軽く会釈した。半目で警戒しながら会釈したからか、モナさんのうさ耳がピクリと動いた。
「こちらのサンドリヨンさんは身分証の物理カードを発行しに来られたんですけど、生まれたばかりなのもあって、その、事務手数料を払えないと困ってて……」
「うぅ……すみません……」
申し訳ない。本当に申し訳ない。困り顔のドロシーさんを見ると自分の過ちが如何に人様に迷惑をかけているかわからされる。
「説明ありがとうドロシー。でも困ってる内容は聞いてるの。ほら、私ってウサギだし」
そう言ってうさ耳をぴょこぴょことするモナさん。器用に動かすなぁってのが素直な感想。
そう思っていると、ズイとモナさんが俺の横を通り、コトりと受付のテーブルに硬貨を置いた。
「コレ、私が代わりに払っておくわ」
「そんな! 悪いですよ俺のためになんて!」
モナさんのまさかの行動に、俺は目を見開いた。代わりに払ってくれたことと、硬貨を置いた拍子に下乳がブルンと揺れたことに。
「生意気言わないのボウヤ♡。ここはお姉さんに任せてちょうだい」
「でも……」
「でもも何も、他にクレジットの宛てはあるの?」
俺は渋々と首を横に振る。
「だったら大人しく受け入れなさい。こう見えても私、けっこうお金持ちだから♡」
「うぅ……ウス……」
ぐうの音も出ない俺。
――チャリーン♪
「お支払いありがとうございます!」
結局モナさんにお金を肩代わりしてもらい、俺は無事に物理カードを発行できた。
場所は受付から変わり、エントランスのソファ席へ。
「あの、モナさん。本当にありがとうございました!」
感謝。圧倒的感謝。
ソファに座るモナさんに対し、45度頭を下げる最敬礼にて感謝申し上げた。
今は床を見ているが、頭を下げた拍子に見えた組んだ生足がものすごく印象的だ。ムチムチだ。
「頭を上げてちょうだい。悪目立ちよ?」
「……はい」
言われた通り頭を上げた。目では見てないけど周りの視線が集まっているのを肌で感じている。
「後頭部が見えるくらい随分とご丁寧なのね。まるで故郷の
出国。いずるくに。何とも日本を想起させる国名だ。そこがモナさんの故郷なのか。
「出国……? わからないですけど、感謝は精一杯示したいと思ってます」
「ふ~ん」
ピンと張ったうさ耳から垂れミミに。脚を組み直しながら腕組み。下乳が盛り上がる。
一挙動一挙動がセクシー大臣よりセクシーでヤバい。
なお俺の下半身は反応しない模様。
そしてモナさんは興味深そうに俺を見ていた。
「なんだろ。普通のアンドロイドは効率を求めて行動するけど、ボウヤってアンドロイドにしては人間寄りの考えよね。胴体も顔も人間に近いし」
「はあ……そう、ですか? 確かに見かけたアンドロイドはロボットに近い容姿が多い印象でしたけど……」
俺への感想を口にするモナさんはどこか面白がっている印象を受ける。そして見かけたアンドロイドだが、男性タイプのアンドロイドは顔も体もロボット。そして女性タイプは身体的特徴はあるのしろロボットのソレだった。
モナさんが言う人間寄りの考えや容姿は、俺でも思うところはある。
「生まれたばかりのアンドロイドだとも、伝説のZシリーズだとも耳にしたけど、それが原因なのかしら」
そう言いながら組んだ脚を組み直すモナさん。とてもセクシーだ。
「そう言えばちゃんと自己紹介してなかったわね」
また脚を組み直した。
「私はモナ。モナ・サクラハ。ここオルケストルギルドに所属しているしがないギルドメンバーよ。よろしくねボウヤ♡」
「!」
細めた目は妖艶な雰囲気を醸し出す。そんな中、ピピっと視界にメッセージ画面。モナさんの隣に吹き出しが出現し、『モナ・サクラハ』と名前が。そしてその下にはバイタルの詳細とあり、アクセスして覗くと心電図が現れた。
「よろしくお願いしますモナさん」
心電図に驚かされるも取り乱さず。何事も無かった様に再び頭を下げた。
(サクラハ……。なんだか日本人みたいな苗字だな)
イモータルワールドには夜空に桜が舞う日本風の世界がパッケージ裏に描かれていた。たぶんだけど、モナさんの故郷はそこの可能性が高いかも。
それとだ。受付嬢のドロシーさんと仲が良いのは、二人が顔見知りなのもあるがモナさんがオルケストルギルドのギルドメンバーでもあるからだろう。普通に納得した。
「あの、さっきのお金……クレジットですけど、ホントに助かりました」
「あん。いいのよ。お姉さんからのボウヤ♡への施しだし」
笑顔を浮かべるモナさん。妖艶な雰囲気とは打って変わり、どこかあどけなさも感じられる可愛い笑顔。大学生の俺だったら惚れてるな。
それに「あん」てなに……。なに喘いでんの……。そんなの耳にしたら大学生の俺じゃなくて陽キャ大学生も顔染めるだろ……。
「モナさん。俺、今は一銭も持ってないですけど、必ずお返しします」
モナさんの気まぐれの施しで逮捕されなかった事実。感謝してもしきれないが、事はお金が絡む話。500クレジットがこの世界でどれくらいの価値かわからないけど、ちゃんと耳を揃えて返したいと思う。
「別に返さなくていいけどぉ、お返ししますってどう返すのよ」
「えっと、働いてお金を稼ぎます」
そう。働いてお金を稼ぐ。どの世界も貨幣の概念があれば自ずと働き出る。ドロシーさんの様な受付嬢から始まり外ではキッチンカーで商いをしている人もいる。
そしてギルドがあると言う事は、ギルドに登録してクエストやらを受け、稼げるという訳だ。そもそもがゲームの世界な訳だし。
「働くねぇ……。見たところボウヤは戦闘用アンドロイド。つまりは戦うために生まれた存在。クエストを受けて達成。報酬を得る……と」
「……はい。そうです」
戦うために生まれた存在。半目のモナさんにそう言われて一瞬心がチクリとした。
「それは別にいいけどぉ、ホントにクエスト達成できると思ってるの?」
「え? まぁ、はい」
「生まれたばかりで何も知らないのに?」
「うぐっ!?」
クエスト達成できるのかと問われナニクソと思ったのも束の間、オルケストルという都市のことも外の世界のことも、そもそもこの世界の常識すら知らない俺なのにと、ド正論パンチをお見舞いされた俺は図星をつかれて返す言葉もなかった。
(甘えた言い繕いは通用しないか……)
そもそもだ。モナさんは『イモータルワールド』のパッケージに載るほどの原作キャラだ。この世界の右も左もわからない今、確実に起こるであろう未知の原作再現に巻き込まれるなんて以ての外だ。
「うふ♡ 提案があるんだけど」
「な、なんですか……」
「私のお手伝い、してみない?」
「お手伝いですか……」
「報酬は弾むわよ?」
だけども、無一文かつ心細い生まれたばかりの子羊な俺には。
「……よ、よろしくお願いします!!」
モナさんの提案はまさに極楽から垂れて来た蜘蛛の糸だった。
「そう♡ 楽しくなりそう♪」