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第6話 砂漠

 この世界で目覚める前の大学生の時、世間で大いに賑わっていたのが"国際博覧会"。略称で"万博"が世間を沸かせていた。


 各国が自国の文化や技術を世界に発信する場と同時に、他の国々の文化や技術に見て触れることができる交流の場の側面もあったり、近年の問題である環境問題や世界全体の課題が強く出されるテーマ性を全面に出した側面も。


 そして万博に人が集まる故の経済効果も視野に入れての開催だが、世間の話題はやれ企業の中抜きだ工事未払金だとネガティブなイメージ。そしてケツの毛までむしり取られる程の個人情報提供の陰謀論まで湧いて出た。


 そんな中、客寄せパンダ。近い将来実現可能であろう"空飛ぶ車"が万博の目玉の一つとして宣伝された。


 映画で見た夢の車。それが出来たのなら一目見たと客が殺到するも、一同愕然。そして誰もが思った。


「これドローンじゃね……?」と。


 そう。車とは名ばかりの人が乗れるサイズのドローンに外ならず、先行で画像が出回ったとはいえ実物を見て更にガックリしたのはコレ人類共通だろう。


 そして何故俺が万博なんて話を持ち出したかと言うと……。


 ――シュイィィィン。


「……浮いてる。バイクが」


 バイクが浮いていたからだ。


 バイクの本体は俺が知るバイクのソレだが、地面と接地するタイヤの存在がどこにも無い。そしてタイヤの代わりにソリみたいなのが下に着いており、特徴的な音を立てて浮いている。


「スカイバイクよ。どう? 感想は?」


「マジで……カッケェッス」


「素直な感想でよろしい♪」


 スカイバイク。直訳して空のバイク。何の捻りも無い名称だが、逆にそれが良いまである。


 カッコイイはカッコイイ。だがしかし俺が感動したのはスカイバイクが出来上がった、いや、組み立てられた過程だ。


 モナさんが腰のポーチからおもむろに出した三つの四角いキューブ。それを地面に放り投げると、蕾が開き花になる様にキューブが展開し、三つが一つに結合。カチカチと音を立ててスカイバイクが完成した。


 まるで映画鋼鉄男のワンシーンを彷彿とさせる見事な変形合体。


 そしてスカイバイクは燦々と輝く太陽の下、砂の大地――砂漠にて完成された。


 そう。砂漠。


 俺は今、砂漠に居るのだ。


 事の経緯を思い出してみよう。



「……よ、よろしくお願いします!!」


「そう♡ 楽しくなりそう♪」


 誠心誠意のお願いします。原作キャラには極力関わりたくないが、"お金を出してもらった"という事実がある以上、モナさんとの関係性は泥沼に発展するかもしれない側面を持つ。


 つまりは右も左もわからない俺は必然的にモナさんと関わざる得ない状況だ。


(エッチなお姉さん系キャラなのに笑った笑顔がめっちゃくちゃキュートじゃないかッ!! だがしかし!! そのお手伝いが終わったら俺は自分探しの旅に出てやる!!)


 頬を緩ませて心底楽しそうに笑うモナさん。惜しむらくは友達で居たいが、原作キャラはごめんだ。自分でも薄情だと思うけど、借りを返したらトンずらする算段だ。


 ちなみにどこにトンずらするかは未定だ。


「じゃあ善は急げって言うし、行きましょっか♪」


「え!? もう行くんですか!? まだお手伝いの詳細を聞いてないんですけど……」


 組んだ脚を解きスッと立ち上がったモナさん。善は急げと歩き出そうとしたモナさんに待ったをかけ、急すぎると俺の言い分を言った。


 するとモナさんはクイと上げた腰に手を当てて俺を見た。


「歩きながら説明するわ。なぁに大丈夫よ? だってボウヤは戦闘用アンドロイドだし♡」


「てことは、戦闘するってことですか……」


「それは状況次第じゃないかなぁ~」


 そう言って歩き出したモナさん。


「あ! 待ってくださいよ!」


 俺は少しだけ駆け足でモナさんに着いて行った。


 ギルドを出るとそこはネオン光る大都市。といってもまだ太陽は昇っている時間帯。多種多様な人種がせっせと動いている中、俺はモナさんの斜め後ろを歩く。


「あの、どこに向かうんですか」


「転移ポータルよ」


「転移ポータル……ですか」


 ――ッピピ!


 俺の声に反応したのか、視界に白いラインが出現。方向的に俺とニックさんが初めて会った転移ポータルへと続いているとわかる。


「あのぉふと思ったんですけど、転移ポータルって事はどこかに転移するんですよね。その、利用料金みたいなの発生するんじゃ……」


「あん。はいここでお姉さんからのアドバイス♡」


「!」


 ぴょこぴょことうさ耳が動き人差し指を立てて来た。そして爪がよく整えられていて関心する。


「未来都市オルケストルはいくつかの地区に分けられた大都市で、都市内のそれぞれの地区に転移するだけなら利用料金は発生しないわ。だけど外のフィールドやポータルが設置してあるダンジョンへは料金が発生。目的地が遠くなればなるほどお金がかかるのよ」


「へぇ~」


 都市内は無料だけど、外にアクセスするにはお金がかかると。そして遠くへ行くほどにお金がかかると。


 まぁ電車の切符みたいな認識で問題ないようだ。


「引き落としに関しては電子決済に統一されてるから、現金クレジットは必要ないの」


 そんな話をしていたら、いつの間にか転移ポータル付近まで辿り着いた。


 斜め前を歩くモナさんは腕に着けているスマートウォッチみたいなのを操作。もう見慣れた半透明のディスプレイを操作している。


「あの、何してるんですか」


「転移ポータルの決済人数を二人に設定してるの」


「え……。ってことはなんですか。転移先はフィールドかダンジョンってこと!?」


「ええ♪ だから戦闘になるかは状況次第って言ったじゃない♡」


「……」


 ここに来て更なる追加の借金。思わず白目になって現実逃避。俺を連れ出すって事はそういうこと。お手伝いの行先はフィールドかダンジョンだと薄々思っていたからこそ、白目を向く程度で収まっている。


 そうこうしているうちに転移ポータルに到着。知り合いのニックさんの姿を探したけど見つからず。せっかくだから一言話したかった。


「ほら、ボウヤ」


「?」


 幾つもの光の輪が上昇するポータル内。そこに入ったモナさんが手を差し伸べて来た。


「ほら手を繋いで。じゃないと転移できないから」


「……ッ」


 光の輪から差し伸べられた指空きグローブを付けた手。母親以外に繋いだことのない手だからか、妙に恥ずかしくて繋ぐことに戸惑いを感じている。


「あん。もしかして恥ずかしい? 生まれたばかりだから余計にかしら♪」


「いや別に……」


 図星を乱れ突きされた童貞の意地。一応は否定したが、モナさんの優しい表情は俺を見抜いている。


 勇気を出して手を差し伸べる。でも女性の手に触れていいのかと一瞬戸惑った。


「サンドリヨン」


「――ッ」


 不意にモナさんに手を引かれてポータルの中へと足を踏み入れた。


 一瞬バランスを崩したせいでモナさんに抱き着く形となった。


 フワッと香水のいい香りが俺の鼻腔をくすぐる。


「あん♡ 至近距離で肩を抱くなんておませさんね♡ このままキスでもしてくれるかしら?」


「え!? いや、その、えと、ワザとじゃな――」


「転移。セシェージ砂漠」


 腹部に感じるのは柔らかな胸の感触。そして蠱惑的な声で惑わせてくるモナさんの声。気が動転してしどろもどろの俺を他所に、視界は一瞬だけ白色に染まった。


「――」


 そして視界がクリアになり、最初に感じたのはそう。熱さ。


 それは唇に感じた柔らかな――なんてロマンスなこともなく。


「暑い!? いや暑い!?」


 ちょうどいい気温のオルケストルとは違い、俺の身体が一気に気温の変化を感知。おもわず目を見開いて辺りを見回した。


「スゲぇ……マジで砂漠だ……」


 砂。砂。砂。そして砂丘。光の輪が上昇するポータルの中から見た景色だが、確かな気温の変化と静かに舞う砂埃を見て、本当に砂漠に来たんだと感じた。


 そもそもの話、砂漠なんて来たのは大学生の時も経験した事のない体験だ。それこそ砂漠なんてテレビやネットの動画、ゲームのステージでしか見た事が無い。


 それを一瞬で移動しにこれるなんて本当にファンタジーだ。


「ふふ。感動してるのはイイコトだけど、ずっとくっついてるつもり? 別に私は構わないのだけれど♡」


「え!? あ! ごめんなさい!!」


 慌てて離れる俺にクスリと笑うモナさん。


 ポータルから出ると、そこは砂漠を拠点として小さな街だった。よくある砂漠の街を踏襲している風景だと思いつつも、人の往来が少ない印象。


 そんな風景だからこそ、時代錯誤のポータルが変に悪目立ちしてるとも思った。


 そう思っていると、モナさんが三つのキューブを放り投げ、スカイバイクが完成した。


 はい。回想終了。


「さあボウヤ♡ 移動するわよ♪」


「はい!!」


 本格的にお手伝い開始だ。

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