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第7話 岩地

 風を感じる。肌を焦がし水分を枯らす暑さの風。だけど俺が良く知るジメッとした暑さではなく、カラッとした暑さ。だからか体感温度はそこまで暑いとは言い難い。


 まぁ普通に暑いのだけれども……。


 ――ブオン!!


 砂漠に影。砂丘を飛んで着地したスカイバイクだ。


 そう。俺は今モナさんが運転するスカイバイクに跨り砂漠を爆走している。


「――あん♡ 体に手を回してと言ったけど、お腹でいいの? もっと上でもいいのよ? 両手でね♡」


「勘弁してください……」


 そんな一幕が先ほどあったばかり。先ほどと言っても数分前か。スカイバイクを二ケツで乗る関係上、振り落とされないように腕をまわせとモナさんが提案。もちろん断る理由なんてないから言う通りにした。


 スカイバイクのキューブと同じように、腰のポーチから四角いキューブを取り出すと、それがみるみるうちにヘルメットに変形した。


 ――ブオン!!


 そしてヘルメットの形だが、俺に宛がわれたのは普通のヘルメット……というか未来型? な感じで、口部がシャコっと両側から閉まり、上からバイザーが下りてきた。


 へぇ~すごいもんだと感心するも、うさ耳がイイ感じに収納できるモナさん専用みたいなヘルメットで更に度肝を抜かれた。


 そしてだ。スカイバイクがドッシリとした感じのバイクじゃなくてスタイリッシュな造形故、前かがみになる関係上モナさんと密着することに。それと同時にだ。


 ――ガコ。


「……ぅ」


 うさ耳収納スペースが後ろに流れている作りだから俺のヘルメットとめちゃくちゃ干渉する。つまりはそう。


(むっちゃ邪魔……)


 語弊。語弊がある。邪魔と言ったが邪魔ではない。むしろバイクの速さを追求する様なヘルメットはめちゃくちゃカッコイイまである。


 だけども後ろに人が居ればそれがガコガコと当たって非常に気が散る。まぁ普通に考えて後ろに人が居ない想定で作られているのかも知れない……。


 ――ッピピ!


 そしてこの砂漠を進んでからこの辺りをフィードバックしているかのように視界に砂漠の輪郭が浮き出ている。たぶん自動でマップを作成する機能なんだろうけど、今のところそれが役に立っているかと言えば謎である。


「ボウヤ。座り心地はどう?」


「!」


 突然ヘルメット内に響くモナさんの声。どうやら内側にスピーカーが内臓されているらしい。しかもかなりクリアな音声で響いて来る。


「乗り心地はまぁ、普通ですね」


「うふ、そう。じゃあお腹の触り心地はどうかしら♪」


「すごく柔らくてーって何言わせるんですか! 普通ですよ普通!」


「恥ずかしがっちゃって~」


 モナさんはことあるごとに蠱惑手で情緒を煽る言葉をかけてくる。出会ったばかりの人だけど、受付嬢のドロシーさんとのやり取りでもわかる通り、これがデフォルトの人らしい。ゲーム世界とはいえ本当にキャラが立っている。


 ――ブオン!!


「そう言えばさっきの街の話をしていなかったわね」


「あ、お願いします」


 スカイバイクが砂煙を巻き上げて進んでいく。


「あの街はセシェージ。名前の由来はここ、セシェージ砂漠の入り口の街だからセシェージなの」


「安直ですね」


「物事は簡単な方がいいのよ♪」


 確かに……。


「セシェージ砂漠は豊富な資源が眠ってる永久の砂漠なの。ある人は商業目的で。ある人は古代遺跡探索クエストの依頼で。ある人は街に住む家族に会いに。そして資源を求めて色んな人が訪れるの」


「へぇ~」


 確かに砂漠のイメージはお宝が眠っている印象をゲームから強く受けている。それこそ古代遺跡だったり、昔に滅んだ国の跡地だったりと、イベントも沢山だろう。


「あれ? そういえばですけど、栄えてるにしてはあんまり人が居なかった様な……」


 未来都市オルケストルほどはないにしろ、栄えてるにしては余りにも人が居なさ過ぎだ。

 いや、モナさんが例えて言ったセシェージに住む家族ファミリーというか現地人は居たけど、商業目的の人やクエストを受けたであろうそれっぽい人すらいなかった。というか現地民が妙にピリついてるまである。


 そしてその答えは凄く簡単だった。


「うふ♪ みんな避難してるわよ」


「避難?」


「ええ。だってセシェージ砂漠に超巨大サンドワームが出現したから♡」


「……あっ」


 瞬間、俺の脳裏に映し出されたのは受付上部のメッセージ。『砂漠に超巨大サンドワーム出現!! 迂回して渡るべし!!』


「ちょ!? 大丈夫なんですか俺たち!? 現地の街の人たちもビビり散らかすヤバイモンスターなんでしょ!?」


 俺が想像するサンドワームはマジでデカくて小さな街なら丸のみできる巨大さだ。それの上を行くサンドワームとかもはや天変地異と言っても過言ではないのでは……。


 だからこそ一抹の不安どころか生まれて早々お陀仏の可能性に俺は震えた。


「そんなに声を張らなくても大丈夫よ。サンドワームの生息地はこんな街の近くじゃなくて砂漠の中心部だから」


 そう言いながらスカイバイクが減速。岩地に乗り出すと完全に停止し、モナさんが地に足付けた。


「ンン♡ それに広い岩地には近寄らない性質があるから、ここの周囲に居ればなんの問題もないわ」


「ップハ! そうなんですか……」


 お互いにヘルメット脱いだ。そして何故モナさんはヘルメット脱ぐ拍子に喘いだのか……。こんなのゲームキャラ吹き替えしてる声優さん赤面だぞ。あ、でもそこはプロだから実直に仕事するのか。


「……はえ~」


 ポータルを抜けた先はどこまでも続く砂しかない砂漠だった。しかしスカイバイクに跨り小一時間ほど移動すると、岩地が反り立つ場所へとやって来た。


 そして来しなにでた問題のサンドワームは、岩地を好まない故にこの辺りには顔を出さないとの情報。こりゃ一安心と思ったのも束の間。


「――カチカチ」


「!?」


 中型犬ほどの大きさのデカいサソリがワラワラと姿を現した。


『ラピッド・スコーピオン』


 モンスターの名称が視界に映る。なんともタイミングがいいことで。


「モナさん後ろに!!」


 戦闘用故の臨戦態勢。正面のサソリ集団を見据えて拳を握りメリケンサックを生成した。


「カチカチ!!」


 顎を打ち合わせた様な音で威嚇するサソリ。その内の一体が跳躍して俺に襲い掛かるも。


「ッフ!」


 ――ッバコ!!


「――」


 振り抜いた右ストレートでサソリを撃破。脚を束ねる様な昆虫の死に様に習って陀仏。


「ッハ!!」


 襲い来るもう一体をメリケンサックで撃破。


「グロウ・スパイク!!」


 ――ッバシュ!!


 腕を飛ばしてロケットパンチ。予想だにしない攻撃に驚いて動けないサソリ。そのままサソリごと岩を打ち砕くと、岩の破片を飛ばしながらサソリは粒子に成って消えた。


「カチカチ!!」


 ロケットパンチが腕に戻った時、不意に岩の影からサソリが出現。飛び掛かる勢いのまま毒針を脚に突き刺そうと攻撃を仕掛けてきた。


「ッハ!」


「!?」


 タイミングを見計らってサソリに蹴りを打ち、本体ごとかち上げた。そしてそのまま後ろ回りをサソリに食らわせ、吹き飛びながら粒子へと還った。


「っと。モナさん、大丈夫ですか」


 サソリ集団の急襲が落ち着き、後ろを振り向くとモナさんが腕を組んで俺を見ていた。


 ニヤニヤした顔で自慢のお胸を腕で持ち上げながら。


「あん♡ 素早いラピッド・スコーピオンを物怖じせず倒すなんてステキじゃない♪ しかも身のこなしが素人のソレじゃないわね。ボウヤ、本当に生まれたばかりのアンドロイドなの?」


「ホントに生まれたばかりです……。褒めてくれるの嬉しいですけど、別にさっきのサソリは早くなかったですよ」


 褒めてくれるのは嬉しいが過大評価が過ぎると思う。襲って来たサソリが集団で襲って来たのは驚いたけど、ラピッド・スコーピオンなんて名前負けしてるトロい奴だった。


「無知って罪よねぇ~」


「? それに俺って毒効かないんで相性もありましたね。……。……え。俺って毒効かないの?」


 スッと出た言葉に自分自身驚いた。毒が効かない体だと驚いたけど、そもそもアンドロイドだから効かないのかと妙に納得した。


 自問自答極まれり。


 そんな事を思っていると。


「ッキッキ!!」


『デザート・ゴブリン』


 またもやモンスター。次は肌の色が砂漠の色のゴブリンの集団が現れた。


「ッム!」


 身構えて睨む俺。


 しかし。


「次は私でしょ♡ ボウヤは下がってちょうだい♪」


 複数の刀を腰に携えたモナさんが前に出た。

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