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第8話 奥

「ッキッキ!!」


「キギャ!!」


 土色の肌をしているゴブリン――デザート・ゴブリン。砂漠デザートで出現するゴブリンだからデザート・ゴブリン。何とも捻りのない安直な名称。


 一メートルくらいの高さで、チュートリアルで戦ったゴブリンと同じくらいの大きさ。腰に布を巻き手には得物の棍棒。


 俺と対峙したゴブリンとは体色が違うだけのようだが、心なしかデザート・ゴブリンの方が耳が尖り脚が発達しているように思える。


 例の如くゴブリンは群れを成すモンスター。まるでお手本を踏襲する群れは俺たちを値踏みするように息巻いていた。


「ほら、こっちが相手よ」


「ッキ?」


 先ほどまで戦っていた俺に注目していたデザート・ゴブリン。モナさんの人差し指をクイと動かして呼ぶ挑発に、ゴブリンたちは一斉にヘイトをモナさんへと向けた。


 そして俺もモナさんに注目する。


(いつの間に武器が……)


 後ろ姿を見せるモナさん。その腰には……いや、する物に自然と目が向く。


(刀だ……)


 そう、刀。正確には複数の刀を差した得物。得物には持ち手があり、下段に刀、中断に脇差、上段に短刀と、下から刀の大きい順に整列。それが腰辺りに浮いてるもんだから驚きだ。


(どういう原理……。というか刀て……)


 モナさんはギルドメンバーだから戦える手段を持っているとは思ってたけど、まさか刀を扱うとは思わなかった。


(でもなっとくか……)


 モナさんの生まれは出国いずるくに。つまりは日本を基にした国と考えるのが妥当。日本と言えばニンジャやサムライが有名どころ。それゆえの武器だと思う。


「ッキキィ!!」


 そう思っていると、ゴブリンの一体が飛び掛かって来た。


 両手で棍棒を仰ぎ、一直線にモナさんへと叩きこむルート。


「――紅炎こうえん!」


 ――ッボウ!!


「――」


 瞬間火柱。否、下段の刀を抜刀した居合が炎を発生させて空中のゴブリンを股から頭蓋にかけて両断。


「二式」


 ――ッボウ!!


 更に追加攻撃。真横からの一閃。四等分にされたゴブリンは瞬く間に粒子へと消えた。


「キエッ!!」


「ッハ!」


 後ろに構えていたゴブリンの棍棒投擲。クルクルと回りながら迫りくる棍棒を、モナさんは綺麗な回し蹴りで明後日の方角へと飛ばした。


「ニヘェッ!!」


「キャギ!!」


 その隙に急接近してきたゴブリンたち。


(マズイ!! ――え)


(大丈夫よ♡)


 援護するために駆けだそうとしたが、回し蹴りの振り向きざまに合った一瞬の視線。余裕綽々と言わんばかりのアイコンタクトが俺にズキュン。


「――甘露かんろ


 ――ッザバ!!


 逆手持ちで脇差を抜刀。波の濃い水の斬撃が迸り、ゴブリンたちを一刀両断。光の粒子へ。


 そして脇差を元の鞘に戻すと続けて――


「――電霆でんてい


 最後は奥のゴブリンに向け、流れる様な投げで短刀を投擲。


 ザクりとゴブリンの眉間に命中したと思った瞬間。


 ――ッバリバリッッ!!


 一気に放電し周囲のゴブリン共をことごとく倒した。


 粒子となって消えるゴブリンたち。まだバチッと電気が辺りに残っている辺り、放電の威力がどれだけ凄いか視覚的にわかる。


 そして先ほど放った短刀をいつの間にか握り込んだモナさん。短刀を得物に収めて振り返って来た。


「これが私の戦い方。『桜刃さくらば』抜刀術よ。ボウヤのお眼鏡にかなったかしら?」


 うさ耳をぴょこぴょことして上機嫌なモナさん。心なしか声も弾んでいる様に聞こえる。


「すごいですよモナさん! あんなに刀を自在に操るなんて! 炎も水も雷もブワンブワン出ててマジでヤバいです!!」


「そう? 語彙力がなくなるほど驚いてるって受け取るわね♪」


 モナさんは実際凄い。ギルドメンバーだからモンスターに物怖じしないのはもちろんだが、得物の刀――桜刃に装備してある刀を使い分けて闘う様は美しいとも思えた。


「とりあえずお互いの戦い方はわかったし、モンスターが集まらない内に行きましょうか」


「え、あ、はい!」


 そう言って岩地を歩いて行くモナさん。俺はモナさんの斜め後ろを歩く。


(……さっきのモナさん戦い、凄かったなぁ。……すごいのは俺もか)


 モンスターと戦いなれているモナさんは別として、そもそも今回の戦闘、実は俺の初の実戦だったりする。


 チュートリアルでスライムや緑肌のゴブリン、岩のゴーレムをやら何やらを相手したけど、それは勝利ありきの戦闘だ。


 そして今回の初実戦。相手はデカいサソリ。強靭そうな顎や腕なんてちょん切れそうな鋏、そして胴体貫きそうな針。思い返すだけで身震いする。


(そんな奴相手によく戦ったなぁ俺……)


 よく戦ったのもあるが、よく動けたもんだ。


 選挙投票行くだけで身震いしていた大学生の時とは違い、アンドロイドになって一日と経ってないのにキモが座っている。チュートリアルで戦闘経験を積んでいるとはいえ、余りにも鋼のハート過ぎるのはアンドロイド故なのか……。


 回転蹴りやバク中、敵に対してどう動けばいいかと自然と動いた。体が思った通りに動くのはこうも気持ちがいいと、不健康大学生の時には味わえない気持ちだ。


「ッフ!」


「!」


 突然モナさんが跳躍。一戸建ての家ほどの高さがある岩壁の頂上にスタッと着地した。


「ボウヤは同じようにジャンプできる? それとも壁を伝って昇って来る?」


 ニヤニヤとした笑みで俺を見下しているモナさん。なんとも挑発的なもの言いだ。"これくらいできないと話にならない"。そう言っている風にも思える。


「っほ!」


 脚を力んで跳躍。モナさんと同じ放物線を描くラインで岩壁の頂上に着地した。


「あん♡ ホントに生まれたばかりとは思えないわね」


「からかわないでくださいよ」


「あらん、拗ねちゃった?」


「拗ねてないですよ」


 拗ねてはない。それは本当。でも俺を試そうとしているモナさんの行動が妙に嫌になる。


「拗ねてないの? 下唇が尖ってるのに?」


「え?」


 そう言われて下唇を触った。特に尖った様子はない。


「はい騙された~。生まれたばかりはホントね♪」


「ちょ、勘弁してください……!」


 そんなやり取りをしながらもひたすら岩壁の頂上を歩いていく。辺りは砂漠で砂まみれ。なのにあんまり砂が舞わないのは風が無いからなのか、それともそういう物なのか判断がつかないが、俺たちは進んでいく。


 そして俺は、歩く度にハミ尻を揺らすモナさんに唐突に聞いた。


「あの、モナさん。砂漠に来たはいいんですけど、お手伝いの目的を教えてください……」


 物理カードの発行手数料立替。その恩返し、清算のためにお手伝いを買って出た俺だが、砂漠に来てまで未だに目的を知らない。


「あれ、言ってなかったっけ? てへぺろ!」


「ドジっ子属性追加するの止めて下さい……」


 下をチロっと出してうさ耳をぴょこぴょこするモナさん。エッチなお姉さんにドジっ子属性は盛り過ぎた。


「オルケストルからわざわざセシェージ砂漠に来たのは、ここでしか手に入らない物があるの」


「でしょうね」


 予想的中。


「でもそれを手に入れるのは私みたいなか弱いオンナじゃ無理なの」


 か弱い? なんて疑問に持ったら負け。


「でもアンドロイドなら……。ボウヤなら可能なの」


 そう言いながら立ち止まったモナさん。正面には人一人が通れる穴倉。下へ下へと続いている。


 そして俺の視界に映る穴倉を示すメッセージは……。


『ダンジョン:腐れ洞窟』


「奥♡ までイってくれるわよね♡」


「……」


 とんでもないのに巻き込まれた。

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