今、最も壊れてしまいそうなのは我が身ではなく、
ましてやペンダントでも無い。
泣きながら縋りつき、人と交わる事で己の不安を
溶かそうとする悲しき少年だと思ったのだ。
抵抗せずに、ただ静かにその頭を抱きしめると、
相手の動きが止まった。
「ユレカ……?」
「ニル、一人で泣かないで……」
幼子にするように背中をさする。
だが、相手は尖った言葉を投げかけた。
「泣いてなんか……それに、オレは、オマエ達と違うんだ!
泣いても笑っても、これは全部、オマエ達の感情パターンの
模倣だ。効率優先で……オマエに触れても
何も感じなくて……楽しいとか、オマエが『美味しい』って
食べるモノ、オレはナニも感じれない。ナニも共有出来なくて……
そのたびに、オレは思い知る。
キカイなんだと、突きつけられるんだ」
「ニル……」
「……一緒にいようと言ってくれても……そんなの、ムリだ。
無機物は、レムナントの伴侶になんてなれない。オレには
遺伝子が無いから……何も遺せない。
オマエが大好きな子供だってオレは、与えてやれない。
そんなヤツなんて何の価値も無いじゃないか。
遺伝子を遺せない存在なんて、無意味じゃないか!」
「ニル、そんな事ないよ。私、赤ちゃんが欲しいからって
それだけで誰かを選んだりしないもの。ニルだからだよ。
ニルは、いつも優しくて、私を守ってくれてたもの。
ニルがいてくれたから……」
だが、この言葉は届いていなかった。
彼瞳は、押し寄せる蒼い波の如く、
雫を溢れさせていた。嗚咽交じりの声はブレ続けている。
こらえきれなかった涙が頬を伝い落ちていた。
「だって、ニンゲンは……役立たずなんて、
直ぐに『いらない』って、言うじゃないか! キカイには
遺伝子も肉の器も心も無いから、誰かと繋がる術が無いから……
オレも、いつか、捨てられて……みんなみたいに、
捨てられちゃうんだ……! 捨てられ、ちゃうんだ!」
頭部を押さえて首を振る仕草は、葛藤で頭痛を覚える
人間そのもので、そんなニルに声をかけ続けていた。
その『心』に、この声が届くように。
「捨てたりなんかしないよ。ニルと私、ずっと一緒だもの」
「……ユレカは優しいから、オレを捨てないけど……
他のニンゲン達がユレカからオレを離そうと
するに決まってる! ユレカにも
『そんな古いの捨てろ』って言う! 何でニンゲンは古く老いても
捨てられないのに、オレ達キカイは
使えなくなると捨てられるの? 廃棄されたくない……
皆みたいに廃棄されたくない……」
ボロボロと泣き出す様は、感情を片付けられずに
振り回す子供に瓜二つだった。そのニルの髪や背を撫でるも、
触覚の無い相手は気づかない。
ニルは同胞である機械達が『死に逝く』様を
見続けてきたのか。
圧縮機で潰され、熔解される同胞の姿に何を思ったのか。
そして、共に過ごした相手に見向きもされずに最期を迎える
事に異常なまでに怯えている。
「イヤだ……離れたくないよ……ユレカと離れたくない。
ユレカを死なせたくない。オレは壊れてもイイ。でも、
ユレカが壊れるのはイヤだ。ユレカが不幸になるのはイヤだ。
オレ、どうしたらいい? ユレカ、教えてよ、ユレカ……」
「うん、うん……」
しがみついて名前を呼び続ける相手に、声をかけ続ける。
まとまりの無い言葉を投げ続けるニルの身体を
抱きながら、全部受け止めていた。
ぽつりぽつりと話されたのは、秘めていた彼の思いだった。
レムナントはEシティにおいて種の保存を強制される事。
自分は人間なのだと誤魔化し続け、人と
交わった時に気づいてしまった絶対的な五感の差。
なら生身を得ようと思い、その方法を知っている事。
だが、生身を得ても、それは他人の身体である事。
病室から出した所為でIDを悪化させてしまった事。
初めて同列に扱ってくれた事への感謝があるのに、
役立てないという相反する理念が渦巻き、処理しきれずに
暴走しかかっている事。
泣いて弱音をぶちまけた後、ニルは床に座り込む。
吐き出しても、目をそらして正面に向き合おうとしない。
その手を握ると、こちらの反応に怯えているのが分かった。
だが、Eシティへ行ってIDを完治させる方法があるのに、
何故それを拒むのかは絶対に言わなかった。
それも今は重要な事では無いと割り切り、
目の前の相手に向き直る。
「ニル、あのね、どうしたらニルは安心するかな?」
「……」
「私は、今のままでいいと思うの」
ニルの言葉をまとめると、一緒にいたいのにいられない。
一緒でいたいのに、身体が違う……そんな印象を受けた。
「……オレはイヤだ。オマエと、一緒がいい。
空を見てキレイだと感じたり、音楽を聴いて楽しいと
思えるようになりたい。
今のままじゃ空は青いだけ。何を食べても味がしない。
音楽はノイズか音の羅列にしか聞こえない。
何よりオマエとずっと一緒にいて……共に笑って
生きて、いたいんだ……。ずっと、ずっと。
二人で、生きていたいんだ……」
種族の壁に苦しむのはバイオロイドとレムナントだけでは
無かった。
混ざり合いたいのに、相手との違いを知り、
そのたびに葛藤が心をひび割れさせてゆく。
苦しみ叫ぶ姿に、何かが吹っ切れた気がした。
「でも、ずっと二人で居たよね? 生きてたよね?」
「……」
ニルは目を逸らしていた。
「ちょっとの間だけだったけど、いっぱい笑ったよね?」
「……」
「楽しかった、よね?」
「……」
「一人じゃないよ。一人にしないよ。
だって、あんなに一緒に『生きた』もの。
私、しあわせだった。
ひとりだったら知らなかったよ、こんな気持ち」
どんな言葉も届かないのか。
その渇きを癒す水にはならないのか。
ならば、証を作って贈ろう。今の自分が在るのも、全ては
ニルの存在あってこそなのだから。
手を握り締め、微笑んだ。
「じゃあ、ニル、その身体を入れ替える方法……
私に、してくれる?」
「……え?」
意図を掴みかねている相手に向かって再度、微笑んだ。
「私、ニルと同じになる」
「……ユレカ?」
「私、アンドロイドになる」
過去への未練の為に病室での『安息』を捨てた先が、
ニルの言う『絶望』であるのならば、それはきっと、
過去になど戻れないという暗示のような気がした。
「何言っているんだ? 貴重なレムナントの身体を……
捨てるって言うのか?」
「うん」
「な……いや、レムナントでいるというだけで優遇処置がある。
アンドロイドは奴隷と同じだ! 元レムナントであろうと、
ソレは変わらない。それに、生身からバディに取り替えれば、
五感を失うだけじゃない。歩けなくなる。ニンゲンの赤子のように
這うコトから始めなければならない。這うコト、歩くコト、
走るコト……今まで持ちえていた身体機能をやり直さなければ
ならなくなる。なのに……」
戸惑いを見せる相手の手を握り締め、頬に寄せた。
「いいの。だって、どれだけ他の人から必要とされても、
私の寂しさを埋めてくれたのは、ニルだから。私の『寂しい』を
癒してくれた大好きなニルが寂しい想いをしているのは、
私も哀しいから……ニルが苦しんでるのは、イヤだから」
「……」
「私が歩く事も出来なくなっても、ニルは傍に居てくれる?
私、頑張るよ。頑張って、少しづつ出来る事を増やしてく。
平気だよ。今持ってる全てを手放しても、ニルが
苦しむより、ずっといいもの」
例え残された時間が僅かであろうとも、満ち足りた日々を
送れるのならば……愛する者と過ごせる今があるのならば……。
人も動物も機械も、本来は未来に進むしか出来ないのだと
思い出した。
「ニンゲンは指輪とか、そういうもので証をたてたがるんだって
言ってたよね? だから、私は私自身を証にする。
それに、オズさんに私の身体を標本になってる
お父さんやお母さんの身体と交換してくださいって、
お願いして、それで二人のお墓を作ってあげて……。
私、お父さんとお母さんが出来なかったコト、ニルと叶えたいな」
「……」
「一緒にいよう。朝起きたら二人で『おはよう』って笑お?
ケンカしても仲直りして、二人で海を見たり、空を見たりして
もっと二人の時間、増やそうね」
呆然とする少年の腕を撫で続けた。
「だから二人は、ずっと一緒だよ? ね?」
「……う、うぅ……」
その時、ニルが声を押し殺して泣いた。
歓喜なのか悲哀なのか何なのかは分からないが、
混ざり合って弾けるモノは間違いなく『感情』だった。
身体をかき抱かれ、拒まずに背中を撫でると、
温もりを感じた気がした。
「ごめん、ユレカ……。オレはオマエに全てを
捨ててもらいたかったわけじゃないのに……その言葉で、
ココが、胸が、『熱い』。涙ばかりが溢れて『苦しい』のに
『嬉しい』んだ。……そこまで、思ってくれたコトが、嬉しい……」
「そっか……私が、はっきり伝えなかったから、きっと…本当に
繋がっていられてるか、不安になっちゃったんだよね。
ごめんね、ニル」
相手は涙を拭って顔をあげた。
「ごめん、ユレカ。オレは、本当にオマエに
必要とされてるのか……愛されてるのか、
実感したかったんだと思う。こんなに愛されてるのに、
オレ、バカだった」
その言葉に顔中に熱が集まるのを感じた。言葉にしようと
思うと妙に気恥ずかしくなる。
「あ、う、うん、ニルの事、大好き。ニ、ニルは?」
「……」
黙りこみ、顔を逸らした姿に覗き込むと、
相手は真っ赤になっていた。それが可愛らしくて、袖を引く。
「ね、ニルは?」
「そ、そんな感情、オレ、わっ、わわ、わからないよ……」
「……そっか。うん、わからないよね」
「……あ、ああ。ごめん、ごめんね、ユレカ。
オレの、スペックじゃ……ニンゲンがよくわからない……」
項垂れるニルの声は暗いが、そんなニルと額を合わせる。
「誰も、自分の感情に名前をつけてハッキリ言えないもの。
愛情とか信頼とかの感情の証拠なんて、無くて当たり前だよ。
だから、たぶん、あやふやでも、『これは愛情なんだな』って
思って言葉にしちゃえば、ちょっとはカタチが見えるのかも
しれないって、感じたの」
「……」
そこでニルは唖然としていた。
「……そんな、曖昧なモノなのか?」
「うん。だって、感情に物理学とか無いよね。きっと曖昧
だけど……でも、強いと思う」
ニルと生きていく為に身体を捨てるなど、一人では
決断出来なかった。だが、守りたいものがあるから、
強くなれるのを知ったのだ。
「何だ……。ニンゲンも、わかってないんじゃないか……」
深い知識とムダ嫌いな思考回路や観察眼を持ちながら、
彼の人間観は、あまりに幼かったようだ。
何処かで人間を完璧視していたのかも知れない。
憑き物が落ちたかのような表情で、ニルは繰り返していた。
「だから、定義に当て嵌めようとしても嵌らないワケか……
感情だけじゃなく、美意識の概念もワクが無いから……。
あ、ユ、ユレカ……」
「うん、何?」
ニルは白い頬を赤く染めながら、己の服をいじっていた。
「オマエ……その、キ、キレイ、だな」
「え?」
問い返すと、ニルが顔を真っ赤にしながら目を逸らし、
所在なさげに両手をいじくっていた。
「オ、オレは、その、有機生物の持つ美的感覚が理解不能だ。
だから、オマエが美人かそうでないかなんて、全然分からない。
でも……オマエに触れてる間中、ずっと見惚れてた。
他のモノなんて目に入らなくて、オマエしか見えなくなって……
だから、きっと、オマエは、もの凄く
キレイなレムナントなんだな、って、そう、思った。……うん、
キレイだ。ユレカはキレイだ、すごく……」
「……」
幼い言葉の盛大な愛の告白に、
こちらまで照れてしまいそうだった。
「わ、私より、ニルの方が綺麗だよ!」
その時、相手は怒り出す。何故ここで怒るのか。
「いや、オマエの方がキレイだ! オマエ以外の存在なんて
皆同じにしか見えない! だから、気をつけろ!」
「え? 何を?」
肩を掴まれる。真剣な表情でニルは叫んだ。
「オマエが外を歩いているだけで、他のヤツが、オマエを
物欲しげな目で見てるんだ! オレは、ソレが我慢ならない!」
「え? ニル、何、言ってるの?」
感情が理解出来ないものだと『理解した』彼は、
持て余し続けた想いを暴走させているようだった。
「でも、オレはそんなオスには負けないから! シザーにも緋牡丹にも
インソムニアにも負けない! オマエに相応しい存在になる!
ダレよりもオマエを大切にする! 絶対、守る!
もう、泣かせたりしない。お、オマエの事、……大好き、だから……」
語尾は、やはり小さくなっていたが、ようやくニルは
不可解極まりない人間の『大好き』を口にした。
しかも真っ赤になりながら。
真顔で宣言され、気恥ずかしくて俯こうとしたが、
そこで相手は少し困ったように目をそらしている。
「ご、ごめん。おかしかったんだな……」
「う、う、おかしくないよ! おかしくないよ!
でも、ちょっと、びっくりしちゃった」
「う……すまない、努力、するから」
「うん。頑張ろ でも、頑張り過ぎないで、甘えてね?」
「……あ、ああ。そのっ、努力して、甘える……ようにする」
そう呟く相手に、どちらからともなく笑い合う。
他愛も無い話をし合う事で、確かめられる絆がある。
二人で床に座り込み、ベッドにもたれて夜空を
見上げていた。
星空を見ると思い出す。
「ユレカ、覚えているか? オマエが病室から出た日の事……」
「うん。つい最近なのに、何だか遠い昔みたい」
「よく考えてみると……オレがオマエを連れ出した理由は
オマエの言葉だったんだ」
「ことば?」
ニルの手が左手に触れた。
「オマエの夢……叶えたかったから」
「夢?」
「……おヨメさんに、なりたかったんだろ?」
「え?」
「お、お、おヨメ、さんに……な、なり、なりたかったんだろ?」
照れながら口にしているが、確かに何気なく言っていた。
だから一番美しい少年のバディを奪い、
連れ出してくれたのか?
ウェディングドレスの白に似た、純白のワンピースまで
用意して。
「ニル……」
涙が出た。
ほんの些細な願いが全ての始まりだったのか。
「ニル……もう、そう言ってくれれば良かったのに……」
「いっ、言えるわけないだろ! オマエはEシティで
両親と対面する事だと思い込んでるのに、
後から……オレがそんな事言ったら、
メーワクになるかな、って……」
ボソボソと語尾を小さくさせながら、上着の袖を弄んでいる。
「う、それもそっか。ご、ごめんね。
ニル、ずっと我慢しててくれたんだ……」
「が、我慢なんかしていない! オマエが望むなら、何でも
叶えてやりたいって、思ったから……オマエのシアワセだけが
オレの望みだったから……」
そう照れ隠す姿に愛しさが募った。
こんなに愛して想ってくれていたのだと、ニルの身体を
抱きしめる。
「ユレ、カ……?」
「私も、ニルの幸せが私の幸せだから、貴方を
満たせるように、私、頑張る………」
「……オレもだ。オマエを、オマエだけを愛してる……」
微笑を浮かべて口づけてきたニルは、触覚が無いにも
関わらず、頬を染めていた。
「ん……」
冷たい舌も唇も愛しい少年の一部で、夢中で貪ると、
回された腕が優しく身体を包んできた。その手つきは
柔らかな羽のようで心地よい。
その時、感覚を『共有』したのだと互いに実感した。
ひとしきり確かめ合ってから、ニルはこちらを
真っ直ぐに見つめた。
「詳細は言えないが、オレは、やっぱりオマエを
Eシティに連れて行きたくない。行っても、オマエの為にならない。
オマエが傷つくのが分かっているから」
「……あ、ありがとう。でも、お父さん達の事なら覚悟してるから
ホントのホントに大丈夫」
「……そうじゃない。そうじゃないんだ……」
何かを知っているらしいニルは、眉間を寄せて
表情に『痛み』を浮かべていた。
「でも、ナニがあろうと、忘れないでくれ。
オマエの存在が何であろうと、世界中がオマエを拒んでも、
オレは絶対に裏切らない。傍にいる。だから、
自分自身を否定するコトは、しないでくれ……」
そのニルの言葉の意味がわからなかった。
ID保持者である事を示しているのかと思っていた。
この言葉が、己の生き筋を守る盾となる事も知らずに。
その時、ニルの携帯電話が鳴る。
携帯電話を開いて相手の名前を確認したニルは
眉を寄せながらも、電話に出ている。嫌いな相手からなのに、
何故出るのかと思うと、会話の内容からインからだと分かった。
「オズとの面会の時間が取れた? そうか。ああ、
こちらは問題無い。IDの進行状態は……」
そこでニルが此方を見た。
「……末期症状の一端が出ている。だが、今は
小康状態を保っている」
ニルという拠り所を得てから、IDの事を思い出した。
生きていられるのだろうか?
死にたくない、と強く感じるようになった。
死ぬのが怖いわけではなく、ニルと離れるのが怖かった。
この身が朽ちれば、再びニルは寂しさに包まれるのかと
思うと、生き足掻く覚悟が出来ていた。
通話を終えたニルに近づき、その目を見つめる。
この青い瞳を見ていると、いつでも安心出来た。
ニルの服を握り締めると、相手は手に触れ、撫でながら
優しく微笑む。
「そんなカオするな。オマエは笑っている方がキレイだ」
立ち上がったニルが手を差し伸べる。
「行こう、ユレカ。外にインソムニアが居る」
「ど、どうして? こんな時間に?」
「……さあな」
テーブルの上に置いていた小銃を取り、弾数を確かめてから
懐に仕舞う。予備の弾装も確認していた。
DADポケットから赤いボタンを取り出すと、ニルは
それを握り締め、胸ポケットに入れていた。
「オレはオマエと共に生き抜く……。もう、逃げない。
誰にもオマエを道具扱いなんかさせない……」
その瞳は、蒼空の如く澄み切った鋭さを見せていた。
・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・
部屋のドアの傍に居たインソムニアは、
腕を組んだまま壁に寄りかかり、相変わらず表情が読めなかった。
漆黒の髪を結い上げていたが、長く垂れたそれは横顔をも
隠してしまっている。
「インさん、こ、こんばんは……」
突然の来訪に及び腰になりながらも挨拶をすると、相手は
振り返らずに「ああ」とだけ応える。
宿の灯りは細く頼りないが、ディーバの証である真紅の制服を
着用している事は判った。
その態度に疑問を問いかける気になれず、黙ると
歩み出たニルがインを見据えている。
「さっさと案内しろ。キサマらの思惑に、いつまでも振り回される
オレじゃない」
「……話が早くて助かる。が……」
インが袖から小銃を取り出し、ニルの額に突きつけた。
「申し訳ないが、今後、一切の行動の権限は
我らが得る。会話は許可するが、それ以外の全てに対しては
許可しない」