盗賊団との交渉を終え、結晶を確保した晃たちは、次の目的地を巡って意見を交わしていた。
王都に戻ったその夜、作戦会議の場は宿の一室。机の上には地図と記録された航路データが広がっていた。
優太が真剣な表情で言った。
「選択肢は二つだ。一度王都に戻り結晶を安全に保管するか、このまま次の都市へ直行するか」
佳那はすぐに反応した。
「直行だよ! 時間が勝負。特に北方の森都カロニアは、今の季節を逃すと雪で通行が困難になる」
彩夏は腕を組み、慎重に口を開いた。
「でも、結晶を持ったまま移動するとリスクが大きい。盗賊や闇商人に狙われる可能性がある」
ジョーダンは場を和ませるように微笑んだ。
「どちらも正しいわ。だからこそ迷うのよね」
晃は沈黙し、地図を見つめていた。彼の頭の中では利点と欠点が高速で整理されていく。しかし、その結論はなかなか言葉にならなかった。
純也は苦笑し、軽口を叩いた。
「なぁ晃、そろそろ結論出してくれよ。俺、寝不足で死んじゃうぞ」
晃は小さくうなずきながらも、すぐには答えられなかった。
「……もう少しだけ考えさせてほしい」
時間は過ぎ、気付けば深夜。会議は結論が出ないまま終わり、出発は翌朝に持ち越された。
翌朝、窓の外はまだ暗く、街は眠っていた。通常なら夜明けと同時に出発する予定だったが、晃はまだ机に向かって地図を見つめていた。
彩夏が起き出し、彼の肩に手を置いた。
「晃、まだ決まらないの?」
晃は深く息を吐いた。
「王都に戻るのは安全。でも時間を失う。直行すれば早いけど、結晶を狙われる危険がある。どちらも捨てきれないんだ」
彩夏は優しく微笑んだ。
「どちらを選んでも間違いじゃないよ。でも迷って止まってる方が危ない」
その時、宿の外から轟音が響いた。急いで外に出ると、砂嵐が遠方で巻き起こっていた。
優太が計測器を確認し、声を上げた。
「これは……もし早朝に出発してたら、進路のど真ん中に突っ込んでたぞ!」
佳那が驚いた表情で言った。
「じゃあ、晃が悩んでたおかげで助かったってこと?」
ジョーダンは苦笑しながら肩をすくめた。
「たまには遅れるのも悪くないってことね」
純也はホッとしたように笑った。
「よかった……朝から死ぬところだったよ」
晃は苦笑し、少しだけ肩の力を抜いた。
「結果的には……良かったのかもしれない。でも、これからはもう少し早く決めるよ」
嵐は昼過ぎまで続き、その間に晃たちは出発準備を整えた。
昼過ぎ、砂嵐が収まり、晃たちは出発の準備を終えた。馬車と荷物、滑空装置も全て点検を済ませてある。
明日美が荷物を確認し、報告した。
「水と食料、三日分。応急道具と予備の魔力石も完備。これで問題ないわ」
優太が天候データを見て頷いた。
「この後三日は安定してる。進むなら今がチャンスだ」
晃は深呼吸し、仲間たちを見回した。
「次は迷わない。このまま北の森都カロニアへ直行する」
彩夏は微笑んだ。
「いい決断だと思う。昨日迷ったおかげで嵐を避けられたし、今日はしっかり進もう」
純也が笑った。
「それにしても、人生で初めて『遅れてよかった』なんて思ったよ」
ジョーダンも頷いた。
「遅れたことで守れた命もある。それは悪いことじゃないわ」
佳那は滑空装置を抱えて言った。
「次は遅れないように全力でサポートするからね」
晃は全員の顔を見渡し、少し照れくさそうに言った。
「ありがとう。みんながいたから助かった」
一行は森都カロニアへ向けて進み始めた。荒野の道を踏みしめる足音は、迷いを振り切った彼らの決意を物語っていた。
夕暮れ、彼らは小高い丘に到達し、そこから見える北の森を見つめた。遠くには巨大な樹海が広がり、その奥に次の結晶が眠っているという。
晃は拳を握り、静かに言った。
「次は、遅れずに決めてみせる」
その言葉に仲間たちは無言で頷いた。新たな冒険への覚悟が、また一つ強固になった瞬間だった。