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第7章_追跡と説得

 結晶を取り戻して数日後、晃たちは再び王都からの連絡を受けた。南方の渓谷で盗賊団が目撃され、別の結晶を狙っているという情報だった。

  「結晶は五つ。ひとつでも失えば帰還条件は崩れる」晃が地図を指差して言った。

  「盗賊団が狙っているのは、たぶん『風の結晶』だ」

  彩夏は迷いなく答えた。

  「また交渉するしかないね。争うよりも、話し合いで解決できれば」

  純也は肩をすくめて笑った。

  「お前ら交渉とか説得とか簡単に言うけど、相手は盗賊だぞ? 話聞いてくれるのか?」

  ジョーダンが柔らかい声で言った。

  「人は信頼されれば応えたくなるものよ。彩夏の言葉なら届くわ」

  エマーソンは静かに付け加えた。

  「盗賊団が盗むのは、必ず理由がある。生き延びるため、あるいは正義のため……。動機を知らずに動けば、道を誤る」

  優太はすでに周辺データを整理していた。

  「彼らの行動パターンを追えば、次に向かう地点が絞れる。明日美、物資の補充は?」

  明日美は短く答えた。

  「すでに済ませてある。どんな状況でも対応できるように」

  佳那は新型滑空道具を手にして笑った。

  「これ、前回より改良したよ。渓谷でも動きやすい」

  こうして晃たちは再び渓谷へと向かった。道中、彩夏は深く息をつき、仲間たちに言った。

  「怖くないと言えば嘘になるけど……必ず話し合う。誰も傷つけたくない」



 渓谷に到着した晃たちは、まず地形を確認した。切り立った岩壁と、底を流れる細い川。足を踏み外せば命の保証はない。

  優太が地図を広げながら言った。

  「盗賊団の拠点はこの先の洞窟だ。時間的にまだ間に合う」

  佳那が持参した改良型滑空装置を取り出した。

  「この地形なら、滑空で一気に近づける。ただし着地は慎重にね」

  晃はしばらく考えた後、決断した。

  「よし、滑空で接近する。戦うためじゃない、話をするためだ」

  全員が頷き、装置を身に付ける。冷たい風が渓谷を吹き抜け、晃の心臓は高鳴った。

  洞窟の前に着地すると、複数の盗賊たちが警戒の目を向けた。武器を構える者もいる。

  彩夏は一歩前に出て、堂々と声を上げた。

  「私たちは争いに来たんじゃない! 話がしたいだけ!」

  盗賊の一人が笑った。

  「話? 交渉するくらいなら、とっくに武器を置いてるさ」

  だが、その中の一人、まだ若い男が眉をひそめた。

  「話って……何を言いに来たんだ?」

  彩夏は真剣にその瞳を見つめ、静かに告げた。

  「結晶を盗む理由を教えてほしい。それを知れば、きっと別の方法がある」

  晃は隣で冷静に補足した。

  「盗むことでしか得られないものなら、それを解決する道を一緒に探せるかもしれない」

  盗賊たちは互いに視線を交わし、ざわついた。彼らの心が揺らいでいるのが分かった。



 ルルイエに戻った晃たちは、盗賊団の村への支援を約束した手前、すぐに王都へ向かった。帰路の船上で、晃は資料を広げながら声をかけた。

  「王都に戻ったら、農業支援と水資源調査を提案する。干ばつが長引いている原因を突き止めれば、村は盗みに頼らずに済むはずだ」

  彩夏は静かに微笑んだ。

  「ありがとう、晃。あの人たち、きっと救われる」

  王都に到着すると、晃はすぐに連絡塔で会議の申請を行った。王国官僚たちは突然の提案に驚いたが、彩夏のまっすぐな言葉とジョーダンの感謝を忘れない姿勢が功を奏し、特別会議の開催が決定した。

  会議の場で、晃は冷静に提案を述べた。

  「このままでは盗賊行為が増え、治安が悪化します。しかし水路と農業技術の支援で、彼らは生計を立てられるようになる。結晶を守り、国全体の安定にもつながる」

  官僚の一人が渋い表情を見せた。

  「前例のない対応だ。だが、理には適っている……」

  最終的に支援は承認され、盗賊団の村は王国の支援対象として記録されることになった。

  会議を終えた晃は、深く息を吐いた。

  「……決断が遅いって、よく言われるけど。今日は迷わなかった」

  彩夏が笑顔で答えた。

  「うん。晃の判断で一つの村が救われたんだよ」

  純也は照れ隠しのように笑った。

  「なんか俺たち、ヒーローみたいじゃないか?」

  エマーソンは静かに呟いた。

  「これはまだ序章に過ぎない。我々はまだ道半ばだ」

  結晶は再び彼らの手元で輝き、次の目的地への道を照らしていた。

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