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第14章_氷上の鏡

 北壁湖の中央で手に入れた第四の結晶は、淡い青色の光を放っていた。晃がその輝きを見つめていると、湖面全体が鏡のように滑らかになり、空を映し出した。

  「……湖面が光ってる?」純也が驚きの声を上げる。

  エマーソンが目を細めてつぶやいた。

  「この現象、伝承にある“氷上の鏡”だな。過去と未来を映す、と言われている」

  湖面には、まるで別の世界のような光景が映っていた。そこには巨大な門の輪郭が浮かび上がり、星々がその周囲を取り巻いている。

  彩夏が息をのむ。

  「転移門……なの?」

  「可能性は高い」晃が応じる。「結晶の反応が、門を呼び覚ましたんだ」

  優太は計測器を確認し、数字を読み上げた。

  「エネルギー値が急上昇してる。門の座標と時刻に関わるデータも含まれているかもしれない」

  佳那は嬉しそうに手を叩いた。

  「これで帰還の条件が一歩進んだね!」

  ジョーダンは仲間たちに向き直り、穏やかに言った。

  「でも、湖が教えてくれたのは未来だけじゃない。過去も映っている」

  再び湖面に目を向けると、そこには人々が集い、何かを誓い合っている映像が現れた。古代の衣装をまとった人々が結晶を掲げ、門を開いている場面だ。

  晃は心を震わせながら呟いた。

  「これは……この世界の人々も、かつて異なる世界を行き来していた証拠なのか」



 湖面に映る映像はさらに変化した。人々が門をくぐり、見たことのない風景に足を踏み入れていく。そこには緑豊かな平原と、星の輝きのような都市が広がっていた。

  彩夏が息をのんで言った。

  「これって……私たちが元いた世界じゃないよね?」

  エマーソンは腕を組み、考え込んだ。

  「いや、似ている部分はある。だが、技術と文化がまるで違う」

  晃は湖面の映像に釘付けになりながら呟いた。

  「ここは一体どこなんだ……そして、なぜこの鏡はそれを映す?」

  ジョーダンは仲間たちに穏やかな笑顔を見せた。

  「理由は分からない。でも、こうして私たちに何かを伝えようとしている」

  優太は計測器のデータをさらに確認する。

  「門の起動には結晶が五つ必要だ。今、四つ目を手にしたことで条件がそろい始めているのかもな」

  佳那は興奮を抑えきれずに言った。

  「じゃあ、あと一つで……!」

  その時、湖面の映像が揺らぎ、別の影が現れた。暗いフードをかぶった人物が結晶を奪おうとする場面だ。

  純也は驚きの声を上げた。

  「な、なんだ今のは!?」

  彩夏は湖面に手を伸ばしながら言った。

  「未来の出来事かもしれない……結晶を狙っている人がいるの?」

  晃は表情を引き締め、仲間に言った。

  「結晶はもう争いの火種にはさせない。この未来を変えよう」



 下山の途中、風は一段と強まり、雪煙が視界を奪った。晃は先頭に立ち、滑空道具を装着した佳那と共に足場を確かめながら進んだ。

  「さっきの鏡に映っていた未来……あれ、本当に変えられるのかな」純也が後方でつぶやいた。

  「変えるしかないわ」彩夏が力強く答える。「結晶が未来を映したのは、きっと警告のためだよ」

  ジョーダンは微笑みながら純也の肩を叩いた。

  「あなたの声も、この未来を変えるために必要なんだと思う」

  「俺の声が?」純也は驚いたように振り返る。

  「そう、あなたは人の気持ちを動かす声を持ってる。だからこそ、場を和ませられるの」

  晃は黙って雪道を進んでいたが、心の中で考えが渦巻いていた。

  (未来の俺は悩んでいた。門の前で立ち止まり、決断できずにいる……。でも、それでいいのか? 俺は何を選ぶべきなんだ)

  エマーソンが後方で呟いた。

  「未来は予言ではなく、可能性の一つに過ぎない。我々は常に選択している。それが道を形作る」

  晃は足を止め、深呼吸をした。

  「そうだな。俺は……もう迷いを恐れない」

  その声に仲間たちが振り返る。彩夏が優しく微笑んだ。

  「晃、今のその言葉だけで、私は十分安心できる」

  彼らの間に一瞬、言葉にならない絆が生まれた。雪原を吹き抜ける風が、その決意を祝福するかのように鳴り響いていた。

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