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第13章_北壁への進軍

 晃たちは炎都ガルドを後にし、北壁と呼ばれる険しい山岳地帯へ向かった。そこには第四の結晶が眠ると伝えられており、転移門再起動の鍵を握る重要な場所だった。

  道中は次第に冷気が強まり、森の緑もやがて薄れていく。標高が上がるにつれて、地面には雪が現れ始めた。

  「これは……思ったより寒いな」純也が肩をすくめる。

  「だから新しい滑空道具を持ってきたんじゃない」佳那が得意げに笑った。「雪上での移動にも対応できるんだから」

  その滑空道具は板状の脚部装置で、地面の摩擦を減らしながら高速で移動できるよう設計されていた。

  「実験用だから安全性は保証できないけどね!」佳那が笑うと、純也の顔色が青ざめる。

  「おい、それ先に言えよ……」

  一行は雪原に出て、滑空道具を装着しながら進んだ。足元が軽くなる感覚とともに、今までの移動とは段違いの速さで雪原を駆け抜ける。

  「すごい! 本当に滑ってる!」彩夏が歓声を上げる。

  「ちょ、待て速い、速すぎ……!」純也が半ば悲鳴を上げた。

  途中、雪原の裂け目に差し掛かると、佳那はためらいもなく滑空して飛び越えた。

  「ほら、こうやって――」

  純也は顔を引きつらせたまま後に続き、なんとか着地に成功した。

  ジョーダンは彼を褒めながら笑った。

  「やればできるじゃない」

  「いや……心臓止まるかと思った……」



 標高が上がるにつれて、雪はさらに深くなった。風が強まり、吹き付ける雪が顔を刺すように痛い。

  優太は風向きを確認しながら言った。

  「この先に峠があるが、強風で普通の通行は難しい。佳那の滑空道具がなければ進めなかったな」

  佳那は得意げに微笑んだ。

  「でしょ? でもまだ改良の余地はある。重心をもう少し後ろにしたら安定すると思う」

  純也は疲れた顔で愚痴をこぼす。

  「これ、慣れるまでに命いくつあっても足りない……」

  ジョーダンは彼の肩を軽く叩いて励ました。

  「でもあなた、前よりスムーズになってるわよ」

  「本当か?」

  「ええ、本当」

  休憩の間、彩夏は小さな火を起こし、冷えた手を温めながら呟いた。

  「この寒さ……フェランディアの気候って、地域差が本当に激しいんだね」

  エマーソンが答える。

  「王国の北壁は古くから『境界』と呼ばれてきた。伝承では、この先に別の世界との扉があったとも言われている」

  晃はその言葉に反応し、地図を開いた。

  「結晶があるとされる場所は……この北壁湖のほとり。もしかすると転移門の痕跡があるかもしれない」

  その瞬間、遠方から不気味な咆哮が響いた。雪煙を切り裂いて現れたのは巨大な雪獣だった。

  純也は目を見開き、半歩後ずさる。

  「な、なんだあれ!」

  佳那が冷静に言った。

  「北壁固有種……攻撃性が強いよ!」



 湖の周囲は凍りつき、足元は滑りやすかった。晃は慎重に歩を進めながら、湖中央で輝く結晶を見つめた。

  「この結晶……今までのものよりも強い反応を示している」

  優太が計測器を確認しながら言った。

  「確かに出力が高い。おそらく転移門との相性も一番いい」

  佳那は滑空道具を再調整し、湖面を渡る準備を始めた。

  「氷の上を渡るなら、これが役に立つよ。摩擦が少ない分、スピードも出る」

  純也は顔を引きつらせた。

  「またそれか……」

  ジョーダンが笑って肩を叩いた。

  「あなたならできるわ。昨日だって上手く飛んだじゃない」

  彩夏は氷上に足を踏み入れ、仲間たちに振り返った。

  「結晶を取りに行くけど……晃、大丈夫?」

  晃は深くうなずいた。

  「行こう。これは俺たちの未来をつなぐための一歩だ」

  氷の湖面を渡る間、晃は自分の中の迷いを感じていた。

  (帰還したら、この仲間たちとは別々になるのか? それとも残る道を選ぶのか?)

  心の奥底で揺らぐ思考を振り払うように、彼は結晶へと手を伸ばした。

  結晶に触れた瞬間、湖面に微かな振動が走った。青白い光が湖全体に広がり、過去の記憶のような映像が彼の脳裏に流れ込む――人々がこの湖の前で何かを誓う姿だ。

  晃は目を閉じて呟いた。

  「……この結晶もまた、誰かの誓いの証なんだな」

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