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第12章_第三の結晶と炎の誓約

 炎都ガルドでの宴が終わり、翌朝、晃たちは領主から正式に第三の結晶を託された。

  結晶は他の二つと比べて赤みを帯びており、内部で炎のように揺らめく光を放っていた。佳那が慎重にケースに収めながら言う。

  「これで三つ目。見た目からして強力なエネルギーを感じるよ」

  優太はデータを確認しながら頷く。

  「温度に反応して出力が変動するタイプだな。扱いには注意が必要だ」

  領主は彼らの前に立ち、静かに告げた。

  「我らは昨日、争いを終わらせると誓った。この結晶もその象徴として、お前たちに託す」

  彩夏は深く頭を下げた。

  「ありがとうございます。必ず、この世界と人々の未来のために使います」

  ジョーダンが笑みを浮かべ、周囲の作業員たちに声をかけた。

  「みなさん、本当にありがとう。あなたたちの協力がなければ、この街は変われなかった」

  作業員の一人が照れくさそうに答える。

  「俺たちももう争いたくないんだ。だから結晶も、あんたたちに預けるさ」

  純也は結晶を見つめ、ため息をついた。

  「なんか、こうやって託されるたびに緊張するな……壊さないようにしなきゃ」

  晃は微笑しながらも真剣に言った。

  「これはただの鉱石じゃない。人々の誓いが詰まった証だ。絶対に失くさない」

  結晶を手に、晃たちは次の目的地に備えて出発の準備を整えた。



 ガルドを発つ朝、街の中央広場では人々が見送りに集まっていた。前日まで対立していた労働者と領主の兵士たちが、肩を並べて立っている。その光景に彩夏は胸が熱くなった。

  「昨日まで剣を向け合っていた人たちが、こんなふうに並んでいる……」

  ジョーダンが微笑んだ。

  「あなたたちの言葉が届いたからよ」

  晃は領主と握手を交わし、真剣な声で言った。

  「この街を守るのは、結晶ではなく人々の絆です。どうか忘れないでください」

  領主は短く頷いた。

  「忘れんよ。私も、もう二度と争いを起こさせないと誓おう」

  佳那が荷物を整え、結晶のケースを背に担いだ。

  「準備完了。行こうか」

  一行は街を離れ、北へ続く道を進み始めた。火山の地熱を利用した街を出ると、冷たい風が頬を撫でる。

  しばらく歩いた後、純也が小声でつぶやいた。

  「なあ……俺、ああいう調停の場って苦手なんだ。見てるだけで手が震えてさ」

  ジョーダンが肩を叩く。

  「でもあなたの歌声が場を和ませたのよ。みんな笑顔になったじゃない」

  「……それならいいけどさ」純也は照れたように笑った。

  晃は歩きながら結晶の輝きを眺めた。

  (この結晶には、人々が争いをやめると誓った想いが宿っている。それを裏切るわけにはいかない)



 その晩、一行は峠道手前の林に野営地を構えた。昼間の余韻がまだ残っており、誰もが言葉少なだった。

  焚き火を囲んで座った晃は、結晶を取り出してじっと見つめた。内部で揺らめく赤い光が炎のように脈打っている。

  (これは争いを終わらせた証……。けれど、もし俺が迷っていたら、あの街は滅んでいたかもしれない)

  彩夏が静かに隣に腰を下ろし、焚き火を見つめながら言った。

  「晃、少し肩の力抜いてもいいんじゃない?」

  晃は苦笑した。

  「そうしたいけど……いつも考えすぎてしまうんだ」

  「でもそのおかげで救われた命もあるよ」彩夏はにっこり笑った。「決断が遅いって言う人もいるけど、私は晃のその慎重さに助けられてる」

  純也が串焼きを持って笑った。

  「そうそう。おかげで俺の心臓も止まらずに済んでるし」

  「いや、お前は緊張しすぎなんだよ」佳那が笑う。「次の峠越えでは新しい滑空道具を試すから、純也も覚悟してよね」

  「うえぇ……」純也は肩を落とし、ジョーダンに慰められていた。

  優太は焚き火の炎を見つめながら呟いた。

  「結晶が揃えば、転移門が開く。だけど……戻るかどうか、もう考えておかないといけないかもな」

  その言葉に、一瞬場が静かになった。晃は結晶を握りしめ、はっきりと答えた。

  「戻るか残るか、その選択から逃げないよ。最後まで考えて答えを出す」

  炎の誓約は、街だけでなく彼ら自身の未来にも影響を与え始めていた。

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