炎都ガルドでの宴が終わり、翌朝、晃たちは領主から正式に第三の結晶を託された。
結晶は他の二つと比べて赤みを帯びており、内部で炎のように揺らめく光を放っていた。佳那が慎重にケースに収めながら言う。
「これで三つ目。見た目からして強力なエネルギーを感じるよ」
優太はデータを確認しながら頷く。
「温度に反応して出力が変動するタイプだな。扱いには注意が必要だ」
領主は彼らの前に立ち、静かに告げた。
「我らは昨日、争いを終わらせると誓った。この結晶もその象徴として、お前たちに託す」
彩夏は深く頭を下げた。
「ありがとうございます。必ず、この世界と人々の未来のために使います」
ジョーダンが笑みを浮かべ、周囲の作業員たちに声をかけた。
「みなさん、本当にありがとう。あなたたちの協力がなければ、この街は変われなかった」
作業員の一人が照れくさそうに答える。
「俺たちももう争いたくないんだ。だから結晶も、あんたたちに預けるさ」
純也は結晶を見つめ、ため息をついた。
「なんか、こうやって託されるたびに緊張するな……壊さないようにしなきゃ」
晃は微笑しながらも真剣に言った。
「これはただの鉱石じゃない。人々の誓いが詰まった証だ。絶対に失くさない」
結晶を手に、晃たちは次の目的地に備えて出発の準備を整えた。
ガルドを発つ朝、街の中央広場では人々が見送りに集まっていた。前日まで対立していた労働者と領主の兵士たちが、肩を並べて立っている。その光景に彩夏は胸が熱くなった。
「昨日まで剣を向け合っていた人たちが、こんなふうに並んでいる……」
ジョーダンが微笑んだ。
「あなたたちの言葉が届いたからよ」
晃は領主と握手を交わし、真剣な声で言った。
「この街を守るのは、結晶ではなく人々の絆です。どうか忘れないでください」
領主は短く頷いた。
「忘れんよ。私も、もう二度と争いを起こさせないと誓おう」
佳那が荷物を整え、結晶のケースを背に担いだ。
「準備完了。行こうか」
一行は街を離れ、北へ続く道を進み始めた。火山の地熱を利用した街を出ると、冷たい風が頬を撫でる。
しばらく歩いた後、純也が小声でつぶやいた。
「なあ……俺、ああいう調停の場って苦手なんだ。見てるだけで手が震えてさ」
ジョーダンが肩を叩く。
「でもあなたの歌声が場を和ませたのよ。みんな笑顔になったじゃない」
「……それならいいけどさ」純也は照れたように笑った。
晃は歩きながら結晶の輝きを眺めた。
(この結晶には、人々が争いをやめると誓った想いが宿っている。それを裏切るわけにはいかない)
その晩、一行は峠道手前の林に野営地を構えた。昼間の余韻がまだ残っており、誰もが言葉少なだった。
焚き火を囲んで座った晃は、結晶を取り出してじっと見つめた。内部で揺らめく赤い光が炎のように脈打っている。
(これは争いを終わらせた証……。けれど、もし俺が迷っていたら、あの街は滅んでいたかもしれない)
彩夏が静かに隣に腰を下ろし、焚き火を見つめながら言った。
「晃、少し肩の力抜いてもいいんじゃない?」
晃は苦笑した。
「そうしたいけど……いつも考えすぎてしまうんだ」
「でもそのおかげで救われた命もあるよ」彩夏はにっこり笑った。「決断が遅いって言う人もいるけど、私は晃のその慎重さに助けられてる」
純也が串焼きを持って笑った。
「そうそう。おかげで俺の心臓も止まらずに済んでるし」
「いや、お前は緊張しすぎなんだよ」佳那が笑う。「次の峠越えでは新しい滑空道具を試すから、純也も覚悟してよね」
「うえぇ……」純也は肩を落とし、ジョーダンに慰められていた。
優太は焚き火の炎を見つめながら呟いた。
「結晶が揃えば、転移門が開く。だけど……戻るかどうか、もう考えておかないといけないかもな」
その言葉に、一瞬場が静かになった。晃は結晶を握りしめ、はっきりと答えた。
「戻るか残るか、その選択から逃げないよ。最後まで考えて答えを出す」
炎の誓約は、街だけでなく彼ら自身の未来にも影響を与え始めていた。