晃たちが次に目指したのは、火山の麓に築かれた都市――炎都ガルドだった。金属加工と鉱山資源で栄えるこの街は、結晶の管理拠点としても知られている。だが今、街では内乱が起きているとの情報が飛び交っていた。
到着した彼らの目に映ったのは、煙と焦げた匂いが漂う緊張感に包まれた街の姿だった。通りには武装した兵士と反乱軍らしき者たちが睨み合い、住民たちは家の影に隠れて様子をうかがっている。
「これは……予想以上に深刻だな」優太が眉をひそめた。
「この状況で結晶を探すのは無理じゃない?」純也が弱気な声を上げる。
「無理じゃない、方法を考えるだけだ」晃が静かに言った。「ただし、衝突を避けることが最優先だ」
彩夏は決意に満ちた目で街を見渡した。
「まず、争っている理由を知らなきゃ。誰も無意味に争いたいはずがない」
ジョーダンは一歩進み、街の老人に声をかけた。
「すみません、何があったのですか?」
老人は怯えながらも答えた。
「王家の管理する鉱山を巡って、労働者と領主が対立しておる。領主は結晶を売り払い、軍備に回そうとしているらしい」
佳那は息を呑んだ。
「結晶を軍事利用なんて……それじゃますます争いになる」
晃は地図を取り出し、作戦を立て始めた。
「領主側と労働者側、両方の意見を聞く必要がある。僕たちができるのは対話による調停だ」
晃たちはまず労働者側の代表に会うことにした。反乱軍と呼ばれているが、その実態は鉱山で働く人々の集まりであり、武器も粗末なものばかりだった。
代表の男は深い皺を刻んだ顔で語った。
「領主は我らの声を聞かん。結晶をすべて軍備に回そうとしている。我らの生活はどうなる……」
彩夏が一歩前に出て言った。
「あなたたちの生活を守るために、結晶を使ってほしいということですね?」
「そうだ。なのに、奴は聞く耳を持たん」
晃は慎重にメモを取り、次は領主側と話すことを約束してその場を離れた。
領主の館は厳重な警備に守られていた。面会を申し出ると、側近が不審そうな目を向けてきた。
「あなたたちは何者だ?」
晃は落ち着いて答えた。
「調停のために来ました。双方の声を聞き、平和的な解決を目指しています」
しばらくして領主本人が現れた。堂々とした態度で、しかし目には焦りが見える。
「結晶は国を守るための力だ。周囲で不穏な動きがある以上、軍備増強は当然の判断だ」
彩夏は勇気を振り絞って意見を述べた。
「でも、結晶を奪われたらどうしますか? それに軍備だけで民の心は守れません」
領主は苦笑した。
「理想論だ。だが、民の不満は理解している。私も本当は争いたくはないのだ」
晃はこの言葉に可能性を見出し、仲間に目配せした。
「対話の余地はある。どちらかを倒す必要はない」
調停の翌日、街には久しぶりに笑い声が戻っていた。市場は再び開き、子どもたちが走り回る姿が見える。領主は軍備用に確保していた結晶の一部を民生用に回すことを発表し、鉱山の労働者たちも武器を置いた。
晃たちは領主の館に招かれ、正式に感謝を伝えられた。
「あなた方がいなければ、この街は血に染まっていたでしょう」領主は深々と頭を下げた。
晃は静かに微笑んだ。
「私たちはただ、道を示しただけです。歩くかどうかは、皆さんの選択でした」
彩夏は街の広場で開かれた宴の準備を手伝いながら、ジョーダンと顔を見合わせた。
「みんな、すごく楽しそう」
「争いの後だからこそ、笑顔が輝いて見えるのよ」
宴が始まると、純也が頼まれて歌を披露した。最初は声が震えていたが、仲間の拍手に背を押され、やがて堂々と歌い上げた。
佳那は結晶の確認を終えて報告する。
「第三の結晶、確かにここにあった。でも今回の件で移送が必要になる。管理は私たちが引き受けるってことで合意したよ」
優太は記録をまとめながら頷いた。
「これで三つ目。帰還への条件まで、あと二つだ」
晃は杯を掲げながら、ふと空を見上げた。火山の噴煙と星空が重なり、その向こうにまだ見ぬ未来がある気がした。
(俺は決断が遅いとよく言われるけど……今回は少しだけ早く動けた気がする)
宴の喧騒の中で、晃は小さく笑った。仲間と共にいる限り、どんな困難も乗り越えられると信じられた。