ブルーアースの国家運営における意思決定は、三権の集まる会議によって行われる。
最終的には皇帝、軍、元老院がそれぞれ一票ずつを持ち多数決をするが、その前に会議で政策議論が行われる。
軍は将軍クラスが参加し、議員は元老院の議員が参加するが、元老院の下にも通常議院がある。そして元老院の議員、元老議員は通常議院で行われる選挙によって選出されるのだ。
通常議院の議員は通常議員。紛らわしいが、運用上困ったことが無いので特に改正の意見が出たことはない。
通常議員になれるのは当然、支配種族のみである。
支配種族は多い。
被支配種族が兎人、魚人、
ただし、鳥人は皇帝のみ、獅子人は元帥のみ、象人と鰐人も現在は突然変異で生まれた一人ずつが確認されているのみだ。
実質的には支配種族、被支配種族共に四種族ずつであるとも言える。
「人間の技術は常に進歩しております。耐魔装甲、対霊突破力共に年率20%もの伸びを見せており……」
若い少将が戦況の報告をしている。
「貴重な戦力をすぐに失う我々には、厳しい話ですね、叢殿」
老齢の議員が含みのある笑みを浮かべながら話を振る。
「うむ、此度の訃報は誠に残念でなりませぬな。重大な戦力を失ってしまうとは」
話を振られた議員が心底残念そうに答える。
「……はぁ」
「どうされました?
「
女性議員達がそのような会話をする横で、
「う~、お腹すいたぁ」
「もうすぐお昼だから、我慢しましょうね、
幼い子供のような事を言う議員もいた。
まとまりがない。元老院はいつもこの調子だ。
若い将官達は苦虫を噛み潰したような顔で、この光景を眺めていた。
(厳しい現状を理解していないのか?)
(芳紀を殺したくせに、白々しい!)
「発言、よろしいかな?」
ある人物が手を挙げた。一瞬にして静まる場内。
「
それまで表情一つ変えずに会議を見守っていた、純白の翼を持つ少女が口を開いた。
「ええ、皇帝陛下。特別な部隊を新設しようと思いましてな」
手を挙げた獣人――獅子の顔を持つ老人――が、皇帝の質問に答える。
ブルーアース軍総司令、獅子丸元帥。
百年前、東京を火の海に変えた三人の獣人の一人である。その年齢は百二十とも言われているが、未だ衰えを感じさせる事はない。彼の前では、傍若無人な元老議員も借りてきた猫のようになる。
「新しい部隊? どのくらいの規模なの?」
翼を持つ少女――皇帝ガイアス――が、獅子丸に尋ねる。彼女も最初の三人の一人であるが、外見はまだあどけなさの残る少女のまま。百年前から変わらないといい、不死皇帝とも呼ばれていた。
「規模か……規模で言えば分隊といったところかのう? 総員七名の精鋭部隊じゃ」
不敵な笑みを浮かべる。
「七名? 一個班にも満たないではないですか」
それまで黙っていた元老議員の一人が、口を開いた。
「一体何ができ……」
言葉を続けようとする議員を、少女帝が手で制す。
「誰に任せるの?」
全て解っている。
彼女が議員に向かって軽く掲げた左手は、そう語っているかのようだった。
「あれを使うのか」
ある議員が、誰にも聞こえないような小声で呟いた。
その部隊は『七神将』と名付けられ、構成員も神将という、独立した階級を与えられる。権力は大将と同等。つまり、軍に強力な権力者が七人も一度に増える事になる。
(元老院が納得するのか……?)
将軍達は議員の反対を危惧したが、すぐに全員が賛意を示した。
「神将とは、大きく出たものですね」
閉会後、中年の将官達が新部隊について話している。
「しかし、種族を問わず国中から適任者を集めるとは如何なる事か。叢議員がよく賛成したものだな」
「外部から集めた者で部隊を新設とは、元帥閣下は今の軍が頼りにならないと仰るのか」
「その通りでしょ」
ぼやく中年達を眺め、冷ややかな目をして言い捨てる若い女性議員がいた。
「これ、はしたないですよ
傍らに立つ、蜥蜴人の女性議員がたしなめる。
「すみません、藤乃枝様」
素直に謝る、朧と呼ばれた議員。
「フフフ、帰りましょう。あの子に話さないと」
口の端を引き上げ、ニタリと笑う藤乃枝。
「おおっ! ついにでびゅ~!」
藤乃枝を挟んで朧の反対側に立つ女性議員が、明るい声を上げる。
「楽しみね、霞♪」
無邪気に笑う二人の若い女性議員を引き連れて、蜥蜴人の議員は議場を後にした。